生成AI(人工知能)があらゆるビジネスにとって必須のテクノロジーになっている。言い換えれば、そのインフラであるデータセンターの需要増加を意味する。欧米と比べてセンター数が少ない日本では、これからどのようなことが起こるのか。新刊『BCGが読む経営の論点2026』(日本経済新聞出版)から抜粋する。第2回の筆者は、ボストン コンサルティング グループ(BCG)でテクノロジー領域を担当している長谷川晃一氏と、エネルギー領域を担当する平慎二氏。

AI時代に必須のインフラ

 今や産業が身体であるとするなら、「データは血液であり、コンピューターは脳である」といっても過言ではない。現在、あらゆるビジネスの中核にAIが据えられる世界へとシフトしつつあることを確認できる。そのAIが瞬く間に解答を提示できるのは、パソコンやスマートフォンとは比べ物にならないほど高速な脳であるデータセンターで、解答に至るまでのさまざまな処理を行っているからにほかならない。

 AIを活用するにも進化させるにも、データセンターは不可欠なインフラとなっている。実際にBCGの試算でも、世界的なAI活用の拡大に伴って、国内のデータセンター需要は2030年には現状の2倍、2040年には9倍にまで高まるとみている。

 データセンターの運用は莫大な電力を消費する。前述の試算通りであれば、データセンターによって電力需要は10~20%押し上げられる。特に、自律的にタスクをこなすAIエージェントが今後さまざまなシーンに導入されていけば、24時間365日、人間が休んでいる間にも処理が行われることになる。それが途方もない電力を消費することは想像に難くない。

 つまり、AIの利用増に十分に対応できるデータセンターを増設し稼働させるには、この爆発的な電力需要を満たすインフラもあわせて構築しなければならない。AIの活用、データセンターの増設、電源の増強は三位一体で考えるべき課題となっている(図表①)。インフラ面での制約によってAIの利用が制限されることになれば、日本は成長の機会を逃しかねない。

(『BCGが読む経営の論点2026』45ページより)
(『BCGが読む経営の論点2026』45ページより)
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 しかし、データセンターも発電所もその増設にあたっては深刻な課題に直面している。いずれも大規模な立地の確保が必要になるうえ、資材や設備の調達から建設・保守・運用にわたるサプライチェーン、そして人的リソースの不足が著しい。

 世界のデータセンターの多くは米国に設置されている。総務省によると2024年時点のデータセンター数は欧州各国を合計しても2000程度であるのに対し、米国は5000超に及ぶ。日本でも建設が進められてはいるものの、200ほどにとどまる。

 データを処理する拠点を国内に置くことは、国としての競争力に直結する。国内に拠点が置かれていれば通信の遅延が抑えられ、回線品質が安定するメリットがあることはいうまでもない。

 地政学・経済安全保障の観点もある。データセンターを海外に依存してしまうと、データ保護や個人情報が日本とは異なる基準で扱われるおそれや、突然に利用が制限される途絶リスクにもさらされる。血液たるデータを海外に預けることには、心理的な抵抗もあるだろう。
 さらには日本の企業や個人による海外IT企業への支払いが稼ぎを上回る「デジタル赤字」の問題も絡むなど、データセンターはさまざまな論点が複雑に交錯する国家レベルの最重要課題になりつつある。

 AIの普及に伴い、日本でもデータセンター市場が活発化している。すでに国内のデータセンターへの投資額は年間5000億円に達しており、数年のうちに2兆円の大台へと急成長する兆しも見えている。2025年までは建築リソースが北海道や九州の半導体工場、大阪・関西万博に集中していたものの、その制約が外れることも相まって、潤沢な投資を背景に2026年以降はさらに新設の計画が進む見込みだ。

(写真:IM Imagery/stock.adobe.com)
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国内のデータセンターの動向

 ここで、日本国内におけるデータセンターの潮流を概観したい。
 すでに設置されているデータセンターは関東・関西に集中しており、面積ベースではその2地域だけで実に約9割を占める(図表②)。

(『BCGが読む経営の論点2026』48ページより)
(『BCGが読む経営の論点2026』48ページより)
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 これには、従来のデータセンターの多くが必然的に都市部とその近郊で運用されてきたという背景がある。従来、企業が利用するデータセンターは自社の業務システムや基幹インフラを自社の施設内、もしくは管理下にあるハードウェア上で運用する「オンプレミス(自社所有)」が主流だったため、本社や情報システム部門との近接性を前提に、大企業が集まる都市部に置かれていた。これがエンタープライズ型DC(データセンター)である。

 時を同じくして発展したデータセンターとして、コネクティビティDCがある。異なるネットワークやサービスプロバイダー間の相互接続を可能にすることを目的に、インターネット黎明期から設置されてきた。いわば「都市の通信ハブ」であり、こちらもアクセスの利便性や都市部に置かれたデータセンターとの接続が要件となるため都心に集中している。

 2010年代からクラウドが台頭すると、グーグルやアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)などの外資系企業が進出し、ハイパースケール型DCを立ち上げていく。ハイパースケール型は電力使用量が大きく、大量のサーバーを収容する広大な用地が必要になるため都心部には配置できないものの、ユーザーとなる企業のニーズに応えるうえでは都市部のデータセンターや、インターネット接続事業者同士の回線をつなぐインターネット・エクスチェンジ(IX)との近接性も求められる。その結果、都心から50キロメートル圏内に配置されていった。千葉県印西市の大型クラウドDC群などがその代表例だ。

 2020年代に入り、生成AIの登場とともに整備が急務となっているのが「AIデータセンター」である。これが今まさに注目を集めており、本章で焦点を当てるデータセンターだ。生成AIを利用するためには、大量の情報を効率的に演算処理できる高性能な半導体チップであるGPUをサーバーに多数搭載する必要がある。AIデータセンターは、そうした高密度なサーバー群を運用可能な、演算集約に最適化されたものを指す。

 AIデータセンターは推論用と学習用に大別され、推論用のデータセンターは「思考のための脳」、学習用のデータセンターは「記憶のための脳」にも例えられるだろう。

 私たちユーザーが通常使用し、生成AIの利用拡大で最もニーズが高まるのは思考のための脳、推論用データセンターだ。推論にはエンドユーザーや連携する他のデータセンターとの通信の速さが求められるため、これらが集まる都市部との近接性が重要になる。都市部にGPUサーバーを配置する場合、それは莫大な電力供給と冷却設備、用地の観点で制約が生じることを意味する。そのため、電力消費量の高いGPUサーバーを収容したデータセンターをどこに置くかが、目下の課題になっている。

 学習用データセンターは、推論用と比較すると通信の速度がそこまで問題にならないため、国主導で地方に分散させる動きが進行中だ。一方、企業を含めた多くの利用者が使用する推論用データセンターは遅延を最低限に抑える必要があり、利用地の近くに置くことが望ましい。しかし、都市圏ではすでに用地や系統電源の争奪戦が起きている。

 こうした変化を受け、都心・郊外集中型の配置は修正の方向に動きつつある(図表③)。

(『BCGが読む経営の論点2026』51ページより)
(『BCGが読む経営の論点2026』51ページより)
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 まずはオンプレミスや都心部に置かれたエンタープライズ型DCと連携させるために、都市部のコネクティビティDCにGPUを配置して処理能力を強化するという方法や、それを補完するためにその周辺である準都市部(20キロメートル圏内)に、低遅延の中規模なAIデータセンターを置くという方法が登場してきている。

 一方、土地や電力面での制約は50キロメートル圏内の郊外エリアでも起きており、ハイパースケール型DCは徐々に遠隔化が進んでいる。通信網の強化と並行して70~80キロメートル圏まで延伸しつつあり、最大100キロメートル圏まで広がっていくとみられる。

 こうして見ると、データセンターの設置・運用には、立地とともに電源の確保が欠かせない問題であることがわかる。データセンターの整備は、エネルギーによって規定されるといってもよいだろう。

世界有数の戦略コンサルティングファームであるボストン コンサルティング グループのコンサルタントは、2026年以降の経営・ビジネスシーンをどう展望しているのか? 選りすぐりの重要論点を多様な業界、企業との取り組みを通じ獲得した実践知をもとに、解説する。

ボストン コンサルティング グループ編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)