昨今、進化と活用のスピードがますます速くなる生成AI(人工知能)。これからどのように使われていくのか。また人間はどのように協働できるのか。新刊『BCGが読む経営の論点2026』(日本経済新聞出版)から抜粋する。第3回の筆者は、ボストン コンサルティング グループ(BCG)でヘルスケアや人材領域を担当している植草徹也氏と、AI活用促進の取り組みをリードする西田忠光氏。

3年後の職場では生成AIとどのように協働しているか

 AIの進化は目覚ましく、その道の専門家ですら予測をことごとく外してきた。当然ながら、私たちに未来を正確に予測できるはずもない。ただし、今後のAIの進展について一定の見通しがないまま、この新たな状況下で人間が果たすべき役割や求められる人材像を考察するのは難しい。今後のAIとの働き方を考えるうえでの前提として、たとえば3年後に、AIがどのような形でどの程度、日々の業務で使われるかについて、2つのシナリオを提示したい(図表①)。

(『BCGが読む経営の論点2026』252ページより)
(『BCGが読む経営の論点2026』252ページより)
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【シナリオ1】AIは協働のパートナーであり、人間中心の業務プロセスが組み立てられる

 各組織の固有業務、特殊性の高い業務へのAI適用が加速度的に進み、AIによる複数タスクの連結処理も当たり前になる。マーケティングでの市場分析、コールセンターでの顧客対応、財務分析、人材採用における候補者評価といった業務はAIがプロセスの多くを担う。
 その一方で、AIは業務を効率的に進めるイネーブラー(実現を支える手段)として、人間を中心とした業務プロセスを支援する形をとる。何をどう行うかについては人間が指示を出す。AIのアウトプットを確認し、AIによる提案を参考にしつつも、自ら示唆を抽出し、判断や意思決定を行う。現在と同様に、目的の達成に向けた推進力の核となるのは人間である。
 このシナリオでは、AIを使って業務の効率性と個々人の生産性をどこまで高められるかが重点課題となる。

【シナリオ2】AI中心に業務プロセスが組み立てられ、人間の働き方、業務のあり方が再構築される

 AIが得意とする領域では、AIが業務プロセスの核となる。AIエージェント同士でやり取りしながら、目的の設定や判断・意思決定、実行管理まで担う。人間はそれを補完する立ち場になる。
 たとえば、マーケティングでは、市場分析、課題や機会の特定、施策の立案、関係者の承認獲得までAIが自律的に実施する。人が行わなくてはならない施策もあるが、システムやアプリケーションで実行可能な施策(ウェブマーケティングの最適化など)はAIが実行する。
 財務分析もAIの得意領域だ。目的と最終アウトプットの定義、情報収集と整理、財務レポートの作成、エラーの修正、示唆の抽出と関係者への送付まで、幅広く対応できる。他部署から求められれば、特定の目的にカスタマイズされたレポートも作成できる。したがって、人間はもはや一連の業務そのものには関与せず、監督役や、調整などの補完的な役割を果たすようになるだろう。
 人材採用プロセスでは、採用基準の策定、候補者のスクリーニング、面接の実施・評価、評価結果のレビューはAIが行う。一方、企業へのフィット感や本人の意思の確認、条件交渉など、人間同士の泥臭いやり取りなどの部分は残るかもしれない。
 パソコンやインターネットが普及し、それを使えるだけでは差異化につながらなくなったように、多くの業務にAIが適用されるようになると、AIを使って効率性を高めるだけでは企業の差別化は難しくなる。シナリオ2の世界では、AIを中心として「信頼の構築、スピード、適応性」をいかに実現するかが重要になってくる。

AIと協働する時代に人間は何をするのか

 AIとの協働が進展した未来シナリオは、どちらか一方のみが実現するわけではない。
 部分的に混ざり合うような形で進展していくかもしれない。私たちは、期間がどれほどかかるかは不透明だが、いずれシナリオ2の世界が到来すると考えている。そうなった場合、人間は具体的に何をすべきだろうか。

人間が勝てない領域はAIに譲る

 まず認めなくてはならないのは、AIの得意領域において人間はもはやAIに勝てない点である。この点は、生成AIが実用化されたばかりの段階ですでに明らかになっている。

 BCGは2023年にハーバード・ビジネス・スクール、MIT(マサチューセッツ工科大学)スローン経営大学院などと共同で、BCGで働く世界中のコンサルタント750人以上を対象に実験研究を行った。生成AIを日々の業務に活用すると、パフォーマンスにどんな影響が出るかがテーマだ。性格の異なる2つの課題を用意し、生成AIを使用するグループと使用しないグループに分けて、それぞれのパフォーマンスを評価した。

 1つ目の課題は「製品開発におけるアイデア創出・企画」についてだ。靴メーカーにおける新しい靴のコンセプト開発、顧客のセグメンテーションやスローガンなどを考案・検証する。2つ目は「ビジネス上の問題解決」という課題で、財務データとインタビュー結果(定量と定性データの組み合わせ)から集中投資すべきブランドを選定し、アクションプランを提示するというものだ。

 実験結果を見ると、アイデア創出・企画では、生成AIを使用したグループは使用しなかったグループを40%上回る成績となった。一方、ビジネス上の問題解決では前者の成績は後者を23%下回った(図表②)。

(『BCGが読む経営の論点2026』256ページより)
(『BCGが読む経営の論点2026』256ページより)
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 製品開発は一見すると創造性が要求され、AIには不向きな領域のようだが、実は既知の知見を組み合わせることでかなりうまくこなせる。それどころか、生成AIが出力したアウトプットを人間が改良すると、スコアが下がり、解答の質が低下した。
 そもそも音声データをもとに議事録を素早く構造的にまとめたり、ソースコードを書いたりといったAIが得意な作業については、もはや人間がどう頑張っても勝ち目はない。繰り返し作業、例外処理のない定型業務はもちろんのこと、推論や多段階プロセスの処理など非定型業務の多くも早晩、AIに代替されていくだろう。

人間がフォーカスすべき領域のキーワードは関係性、多様性、価値判断

 本書の第1章で、業務の性質により人間とAIの役割分担が進んでいくことを指摘した。私たちが社内で実践してきた推進活動からも、AIが高度化しても人間にしか発揮できない価値が浮き彫りになっている。クライアントと議論し、相手が抱えている課題や思いを正確に理解し、それを論点に落として解を見つけていく場面では、AIが入り込む余地がない。人と人との関係性から新しいものを生んだり、価値判断を行ったりする際にも、人間が引き続き価値を発揮していく。主なポイントを次に挙げる。

・人間同士で切磋琢磨し、新しいものを生み出し、物事を動かす

 多くの活動は人間同士の関係のなかで行われる。相手が置かれている状況や力関係などの文脈も理解し、相手の感情や心理状態に配慮したうえで、すべきことを考え、ビジョンを示し、意思決定を行う。それが論理の正しさや、情報の正確さと等しく、または時としてそれ以上に重要になってくる。人間関係を築き、さまざまな人が集まった組織が動かなければ、物事は前に進まない。その役割はAIには担えないものだ。人と人、組織と組織とが複雑に関係しながら進むプロジェクトのマネジメントや、営業における顧客との関係構築などは、人間の仕事である。

・価値観や思考の多様性を確保する

 AIを使うことで、集団の思考の多様性が喪失してしまうことは、想像以上の影響を及ぼすかもしれない。というのも、AIは同じ種類のプロンプト(指示文)に対して似たような回答を何度も繰り返すため、AIに頼れば頼るほど考え方が均質化していくからだ。先述のBCGの実験では、AIを使用したグループ内では似たような提案が多かったのに対し、AIを使用したグループと使用しなかったグループとの考えの重複度は10%未満だった。固有の役割を与えたAIエージェントなどは、異なる立場からの意見を出すことも一定程度可能だが、多様性という点で、人間の豊かさには到底及ばない。唯一の正解はない世界で、新機軸や新たな視点を提示して価値を創出するのは、人間ならではの仕事である。

・価値判断と説明責任を担う

 AIは与えられたデータに基づき論理的な判断を下すが、コンテクスト(文脈)や人間同士の関係性、社会的・道徳的な意義まで踏まえた最終的な意思決定者として責任を持つことはできない。たとえば、採用面接においてAIに採用・不採用を判断させること自体は可能である。しかし、評価の妥当性を吟味し、公正さや倫理的な側面も含めて採用するかを判断するのは人間の役割である。高度なAI時代において企業や社会がAIを信頼して受け入れるためには、人間が最後の説明責任を果たさなくてはならない。

(写真:Bird Photographer TH/stock.adobe.com)
(写真:Bird Photographer TH/stock.adobe.com)
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世界有数の戦略コンサルティングファームであるボストン コンサルティング グループのコンサルタントは、2026年以降の経営・ビジネスシーンをどう展望しているのか? 選りすぐりの重要論点を多様な業界、企業との取り組みを通じ獲得した実践知をもとに、解説する。

ボストン コンサルティング グループ編/日本経済新聞出版/2200円(税込み)