考えていることがうまく言葉にできない。文章がうまく書けない。こういった悩みを抱える人は多いだろう。その悩みを解決するヒントになるのが、 『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 と 『「言葉にできる」は武器になる。』 だ。今回は著者の藤吉豊氏と梅田悟司氏に、「言葉」について語っていただいた。第1回のテーマは、考えることと書くことについて。
うまく言葉にできないのは、ちゃんと考えていないから
藤吉豊氏(以下、藤吉):僕は普段、インタビューをして文章を書くことを仕事にしています。その視点で梅田さんの『「言葉にできる」は武器になる。』を読ませていただくと、この本には、僕が長年思ってきたことが書かれていると感じました。特に、「言葉にするためには、自分が何を思っているのかをしっかり考えることが大事」というところ。「書くってそういうことなんだよ!」と思いましたね。
梅田悟司氏(以下、梅田):ありがとうございます。僕があの本で伝えたかったのはまさにそこです。言葉にする前に、やるべきことがあるんです。
藤吉:これまでに僕がお話を伺ってきた中でも、実に多くの方が「言葉にすること」と「考えること」の関係性は非常に深いとおっしゃっています。以前、立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんと、生物心理学者で東京大学大学院教授の岡ノ谷一夫さんの対談を文章にまとめさせてもらったのですが、そこでも「言語はもともとコミュニケーションツールとして生まれたのではなく、思考のツールとして生まれたのだ」という話がありました。

株式会社文道 代表取締役。有志4名による編集ユニット「クロロス」のメンバー。日本映画ペンクラブ会員。神奈川県相模原市出身。編集プロダクションにて、企業PR誌や一般誌、書籍の編集・ライティングに従事。編集プロダクション退社後、出版社にて、自動車専門誌2誌の編集長を歴任。2001年からフリーランスとなり、雑誌、PR誌の制作や、ビジネス書籍の企画・執筆・編集に携わる。文化人、経営者、アスリート、タレントなど、インタビュー実績は2000人以上。2006年以降は、ビジネス書籍の編集協力に注力し、200冊以上の書籍のライティングに関わる。現在はライターとしての活動のほか、「書く楽しさを広める活動」「ライターを育てる活動」にも注力。「書く力は、ライターだけでなく、誰にでも必要なポータブルスキルである」(ポータブルスキル=業種や職種が変わっても通用する持ち出し可能なスキル)との思いから、大学生や社会人に対して、執筆指導を行っている。共著書に『「文章術のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』『「話し方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 『「勉強法のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』 (日経BP)、単著書に『文章力が、最強の武器である。』(SBクリエイティブ)がある。コーヒーと猫が好き。
梅田:なるほど。
藤吉:脳が発達して、考える必要が出てきた。そのときに言語が必要になって言語が生まれた。つまり、「言語化する」ことは、「考える」ことなんですよね。
梅田:僕自身も、「言葉にできない」ことは、「考えていない」のと同じであると思っています。この言葉は『「言葉にできる」は武器になる。』の最初のキャッチコピーでもあります。子どものころって、よく、親や先生から「よく考えなさい」って言われますよね。よく考えることの重要性が、これでもかと強調される。では、具体的に何をすれば「よく考えること」につながるのか。
藤吉:そこは誰も教えてくれませんよね。
梅田:はい。「よく考えなさい」と言いながら、「じゃあ、どうすればよく考えたことになるの?」と問いかけても、明確な答えは返ってこない。それなのに、何かを提出したり、作文したりするたびに、「もっとよく考えて、書きなさい」と叱られ続ける(笑)。
藤吉:それって酷なことですよね。仕事の中でも同じことが起こっている気がします。では、梅田さんにとって「よく考える」って何なのでしょう。
梅田:クリエイティブの世界では、「考える」ためのいろいろな方法論が存在しています。アイデア発想法などはその典型ですね。ただ、僕なりにたどり着いたのは、自分の中に言葉があって、その言葉の解像度を高めていくことで、結果的によく考えることにつながるのではないかということです。
藤吉:言葉の解像度、ですか。
梅田:はい。最初は輪郭もはっきりしないまま、何かぼんやりと考えている状態です。頭の中で何かがグルグルしている。それを言葉にしようとする力が働くことで、焦点がはっきりとして、輪郭が明確になっていきます。すると、結果的に「よく考える」ことができるのではないかということです。
藤吉:最終的なアウトプットの言葉に至ろうとするプロセスこそが、「よく考える」ということなんですね。
考えるとは、「思考の空白地帯」を埋めていくこと
梅田:コピーライターである僕が言うのも何なのですが、言葉そのものはそんなに大事じゃないと思っています。
藤吉:というと?

コピーライター。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部教授。1979年生まれ。大学院在学中にレコード会社を起業後、電通入社。マーケティングプランナーを経て、コピーライターに。2018年にインクルージョン・ジャパン株式会社に参画し、ベンチャー支援に従事。2022年4月より現職。 主な仕事に、ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」、タウンワーク「バイトするなら、タウンワーク。」、Surface Laptop 4「すべての、あなたに、ちょうどいい。」のコピーライティングや、TBSテレビ「日曜劇場」のコミュニケーション統括など。経営層や製品開発者との対話をベースとした、コーポレート・メッセージ開発、プロダクト・メッセージ開発に定評がある。 著書に『「言葉にできる」は武器になる。』(日本経済新聞出版)、『捨て猫に拾われた僕』(日経ビジネス人文庫)、『やってもやっても終わらない名もなき家事に名前をつけたらその多さに驚いた。』(サンマーク出版)など。最新刊は 『きみの人生に作戦名を。』 (日本経済新聞出版)。
梅田:言葉は、発信者の意図と、受信者の理解をつなぐものです。その間には、どんな言葉を使うか、どんな伝え方をするか、という変数が存在します。朴訥(ぼくとつ)とした心に染み入る話し方をする人もいるし、まくし立てるようにわーっと話して人を巻き込んでいく人もいます。
藤吉:はい。今の梅田さんのように、じっくりと言葉を重ねていくような話し方もありますね。
梅田:そこで気になっていることがあります。多くの人は発信しながらも、「相手に理解してもらおう」という意識に偏って、受信者がそのコミュニケーションの主役になってしまっているように僕は感じています。でも、コミュニケーションの目的という点で見れば、本当は、何かを発信しようとする自分が主役じゃないとおかしいですよね。
藤吉:「相手の理解」を求めるがゆえに、コミュニケーションの主役が、発信者でなく受信者になってしまっているということですか。
梅田:本当に必要なのは、自分の言いたいことを自分が明確に理解している状態になっていること。自分の頭の中を自分で明確に理解できてさえいれば、どんなに言葉が稚拙であったとしても、相手の理解を得られるだろうと僕は思っているんです。
藤吉:重要なのは、自分の中の「言葉にしたい事柄」をはっきりさせることだ、と。
梅田:はい。コミュニケーションの主役を自分に取り戻す作業と言ってもいいでしょう。僕は最近、ベンチャー支援を生業としているのですが、その企業が伝えたいメッセージをまとめたり、経営者の考えていることを言語化したりするときは、まさにそのプロセスをたどります。「あなたが考えていることは何?」を聞いて、考えられていない部分に思いを馳(は)せてもらう。その思考の過程をそのまま言語化していくのです。
藤吉:経営者が「何となくこういうことを伝えたい」と思っている内容をくみ取るだけでも難しいと思うのですが、「考えられていない部分」まで踏み込むにはどうすればいいのでしょう?
梅田:僕なりの方法があります。誰かの話を聞く前に、会話に出てくるであろう全体のマップを考えるようにしているんです。マップというのは「〇〇の事業をしているから、こういう話は出るだろう」とか「〇〇と△△の違いについてどう考えているんだろう」といった、全体像と言っていいかもしれません。
藤吉:それは仮説とは違うんですか。
梅田:仮説とは似て非なるものです。仮説だと検証したくなって、つい誘導的な質問や聞き方をしてしまいます。聞きたいことを聞こうとしてしまうんです。その結果、言語化すべき大切なことを話してもらえない危険性があります。
藤吉:確かに、仮説検証では自分の考えたことに沿って質問したくなってしまいますね。それで、マップを考えてどうするのですか?
梅田:話を聞きながら、「相手が何を話していないか」を探します。当初想定していたマップに色を塗っていくイメージです。すると、空白地帯が見えてきます。本来であれば、語られるべき話がまったく出てこない。そこさえ見つかれば、「この話が出てこないのは違和感があるんですけど、どうお考えですか」と聞けばいいだけです。
藤吉:マップの空白地帯を埋めていくんですね。そのときの相手の反応はどうですか?
梅田:文字通り、抜けていたピースがはまる感覚です。「考えていたつもりだったけど、言葉にできなかった理由はここにあったのか!」という気づきが生まれる。考え抜いている人ほど、その瞬間の腹に落ちる感覚は大きいですね。そして、そのプロセスが「考えていたことの解像度を上げる」ということで、言語化につながるものだと思っています。
質問で相手の考えを深め、「言葉」を導く
梅田:藤吉さんは、文章を書くときは何から始めるんですか。
藤吉:情報を集めるところからです。僕は経営者や識者の方が話してくださったことを本にまとめるのが主な仕事です。そのときに大事なのは「事前にどれだけ準備できるか」です。準備をして、どれだけの話を聞き出せるか。実は、文章にするというアウトプットよりも、その前の作業のほうが大変です。
梅田:取材相手の言語化を促すために、意識されていることはありますか。本にまとめるためには話してもらうこと、つまり、まず自分の思いや経験を言語化してもらうことが必須ですよね。
藤吉:そうですね。確かに、内にある思いが外に向いていなくて、人に伝わる言葉になっていないことがありますよね。
梅田:なっていないことのほうが多いように思います。
藤吉:そういう場合に必要なのは、やっぱり、質問をしていくことじゃないでしょうか。「なぜ?」「それで?」と聞いて、たまにこちらから「それってこういうことですか?」と投げかけます。「今おっしゃったことって、例えるとこういうことですか?」とか「それは、これとは違いますか?」とか。そこで改めてその方の言葉にしてもらったり、「そうです」と言われたりすることで、言語化の作業を進めていきます。
梅田:……あ、さっき僕の話に質問してくださっていたときも、そういう聞き方をされてましたね! どうりで答えやすかったわけだ(笑)。
藤吉:そうかもしれません(笑)。やっぱり、内にあるものを1つの言葉に集約させていく作業には、非常に時間がかかります。質問をしていくうちに考えが広がりすぎてしまうこともありますが、その場合は一回全部広げて、「こうですか?」「違いますか?」と言葉にしながら、その人の一番の思いをくみ取っていきます。
梅田:その作業が必要ですね。
藤吉:あと、相手の頭の中にあるぼんやりとした気持ちや思いを言語化してもらいたいときは、「それを感じた具体的な出来事は何ですか?」など、エピソードを尋ねるようにしています。
梅田:エピソードですか。
藤吉:はい。ぼんやりしているものを言語化するのは難しいですが、出来事なら思い出しながら話せますから。その出来事や経験を通して、本当の思いを導き出すこともありますね。エピソードを聞いた後に「その出来事から言えるメッセージは何でしょうか」と改めて質問すると、「あの経験から僕はこういうことを感じていたんだと、今気づきました」とおっしゃる方は多いです。
梅田:なるほど、それが藤吉さんにとっての「言葉にする」ということなんですね。
<第2回に続く>
(文=梶塚美帆/写真=尾関祐治)
[日経ビジネス電子版 2021年6月9日付の記事を転載]
「世界は誰かの仕事でできている。」
「バイトするなら、タウンワーク。」
トップコピーライターが伝授する、
あらゆるシーンに活用できる言葉と思考の強化書!
自分の想いを言葉にしたとき、
人の心は動きだす。
●ステップ1 「内なる言葉」と向き合う
言葉には「外に向かう言葉」と「内なる言葉」の2つがある
「人を動かす」のではない、言葉が響けば「人が動く」のだ
最後は「言葉にできる」が武器になる
●ステップ2 正しく考えを深める「思考サイクル」
「内なる言葉」の解像度を上げる
「思考サイクル」で正しく考えを深めるT字型思考法
自分と会議する
●ステップ3 プロが行う「言葉にするプロセス」――思いをさらけ出す2つの戦略
日本語の「型」を知る
言葉を生み出す「心構え」を持つ
メール、LINE、プレゼン資料、報告書……
「うまく書けない」「伝わらない」が一発解消!
「最も大事なルール」ランキング40を一挙公開!
第1位 文章をシンプルに
・メール・チャットは、「60文字以内」で必ず文を終わらせる
・論述試験・レポート・資料作成に効果絶大!
速く明快に書くための「ワンセンテンス・ワンメッセージ」
第2位 伝わる文章には「型」がある
・完成度の高い提案書・報告書・顛末(てんまつ)書がサクッと書ける「逆三角形型」フォーマット
・ブログ・SNS・ネット記事に「納得と共感」を生み出す技術――「PREP法」
第3位 文章も「見た目」が大事
・余白をうまく使って読み手に負担をかけない、優しい文章に
・漢字とひらがなを使い分けると、見た目の印象がからりと変わる
好かれる人、仕事ができる人の、「感じがよくてわかりやすい」文章技術を効率よく身につけましょう。
【関連記事】お二人の著書の「はじめに」などがお読みいただけます