累計22万部を超える大ブレイク作『#真相をお話しします』(新潮社)など、数々のミステリー作品を生み出している結城真一郎さん。実は、作家を志したきっかけは開成中学時代の卒業文集だったそう。中学受験では「開成に行きたい!」という強い意志が受験成功へと導いたと言い、志望校選びは、子どもの気持ちを尊重して子ども主導で選ぶことが重要だと説きます。日経ムック『中学受験を考えたらまず読む本 2024年版』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成。

作家をめざした契機は中学の卒業文集

 実は、僕が初めて長編小説らしきものを書いたのは、中3の卒業文集がきっかけでした。原稿用紙1枚以上書けばよいというゆるい縛りのなか、どうせならおもしろいものを書いてやろうと思い、『 バトル・ロワイアル 』(上下巻/高見広春著/幻冬舎文庫)のパロディーで、自分が所属するサッカー部の部員たちが殺し合いをする長編小説を書きました。しかも実名で(笑)。

 今の執筆スタイルを考えると信じられませんが、事前に構成などは考えず、とにかく筆がおもむくままに書いて書いて書きまくり。授業はそっちのけで、1カ月程度で完成させた覚えがあります。

 内容が内容だけに、さすがに学校側からストップが入るかなとも思っていたのですが、特にとがめられることもなく文集に掲載されました。同級生たちは、みんなおもしろがって読んでくれて、自分の書いた物語で好意的なリアクションを得られたことが、純粋にうれしかったですね。この経験が、作家をめざすと決めた原体験になりました。

 あのとき、自分のやりたいことを制限されなかったこと、たとえ内容はめちゃくちゃでも、湧き出る創作意欲のようなものを潰されなかったことは、振り返ると実はとても重要で、あの物語が文集に掲載されていなければ、今僕は作家になっていなかったかもしれません。そう思うと、開成という学校の懐の深さや生徒たちを信じる姿勢には、ただただ感謝したい思いです。

 開成には校則という校則はなく、一人ひとりの個性が際立っていて、とにかくおもしろい奴が多かったですね。先ほどの卒業文集ひとつをとっても、手形をひとつ押して提出する奴がいたり、ファンタジー小説を書く奴がいたり、真面目と不真面目が共存できる環境でした。

 そんな友人たちは今ではいろいろな分野で活躍していて、医師や弁護士、公務員、起業して社長をしている人もいます。ですから、小説執筆のための取材先は豊富ですね(笑)。一生の仲間と貴重な人脈ができたことは、開成を卒業してよかったと思うことのひとつです。

「個性と意欲を認めてくれる環境で、才能や人と関わる力が磨かれました」と話す結城真一郎さん
「個性と意欲を認めてくれる環境で、才能や人と関わる力が磨かれました」と話す結城真一郎さん
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組織運営が相手の真意を読み取る訓練に

 中高時代は、部活動と学校行事運営に明け暮れる日々でした。文化祭では実行委員のステージ部門リーダーを、体育祭では応援団長を務め、学校という狭い世界ではありますが、組織を束ねてトップに立つ経験を何度かさせてもらったことは思い出になっていますし、身になる経験になりました。

 僕は今、兼業作家として、小説を執筆する傍ら会社員として働いていますが、いち社会人として感じるのは、この社会で生きていくためには、ある種のコミュニケーション力が不可欠であるということです。

 といっても、一般的にイメージする対話能力や場を盛り上げる力ではなく、目の前の人が、その発言の裏で何を考えているのか「真意」をとらえ、それに対して適切なリアクションを返す力というとわかりやすいかもしれません。その力は、時に人の心理に切り込む必要のある作家には不可欠ですし、どんな業種や職種であれ、社会に出て人と関わる以上、なくてはならない能力であると感じています。

 どうすれば身につけることができるのか、僕にも正解はわかりませんが、多種多様なメンツに囲まれながら、思春期男子という人格的にも粗削りな集団のなかでもまれ、なんとか組織をひとつにまとめ上げた6年間の経験は、自身の成長に一役買っていたはずです。

結城さんの著書『#真相をお話しします』『プロジェクト・インソムニア』(画像提供:新潮社)
結城さんの著書『#真相をお話しします』『プロジェクト・インソムニア』(画像提供:新潮社)
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日本推理作家協会賞受賞作「#拡散希望」を含む短編ミステリー5編を収録した『 #真相をお話しします 』、長編小説『 プロジェクト・インソムニア 』など、現代社会にある身近な要素を取り入れた作品は年代を問わず読者をひきつけ、特に若者世代からも支持を得ている(ともに新潮社)

学校との出合いが努力のスイッチに

 決して勉強が好きではなかった自分が、なぜ第1志望校に合格できたのかを振り返ってみると、成功の要因になったのは、「開成に行きたい」という強い意志をもっていたことにあると感じます。

 僕が開成をめざしたきっかけは、体育祭の見学に行ったことでした。どうせ頭でっかちのもやしっ子集団だろうなんて勝手に思っていたのですが、予想は見事に裏切られ、その熱意と迫力に一発で魅せられました。「ここだ!」と思ったんですね。

 中学受験をすること自体は親が主導となり、初めは勉強ばかりの生活や友達と遊ぶ時間が削られることに不満をもっていましたが、目標が明確になったことで、納得して努力ができるようになりました。

 何のためにがんばるのか、子どもが自分自身のなかで「腹落ち」できているかは、思っている以上に大切なこと。ですから志望校は、子どもの意思を尊重して、子ども主導で選ぶことが重要だと感じます。

 もちろんそこに、親の誘導や演出が入っていてもいいんです。僕の場合は学校行事でしたが、学校を気に入る理由は、制服がかわいい、校舎がきれい、あのクラブに入りたいなど、どんな理由でもいいと思うんです。子どもがどうにも勉強に本腰が入らないようであれば、いろいろな学校を見に行って、子どもが目を輝かせる学校に出合えるように、親御さんはサポートしてあげてほしいですね。

 一介の中学受験経験者としては、そんなメッセージを贈りたいと思います。

「行きたい学校を見つけることが努力の原動力になります。子どもが納得してがんばることが、成功の秘訣です」
「行きたい学校を見つけることが努力の原動力になります。子どもが納得してがんばることが、成功の秘訣です」
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取材・文/浅海里奈 写真/八藤まなみ

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