桜蔭中学・高等学校から東京大学へ進み、タレントや塾講師、カウンセラーなどを経験し、現在は大手企業で働きつつ、家庭教育アドバイザーとして活動する松江由紀子さん。自身も中学受験で「目標に向かって前進する力」を学んだといいます。3人の子どもを持つ松江さんが日々実践する学習法や子どもとの接し方、人生についてのアドバイスを聞きました。日経ムック『中学受験を考えたらまず読む本 2024年版』(日本経済新聞出版)から抜粋・再構成。

やりたいことを見つける手助けが大切

 これからの社会はどうなるか。私は、やりたいことをもっている人にとっては、すごく楽しい社会になっていくだろうと考えています。

 例えば、子どもたちにも人気のYouTuberというキャリア。一昔前は、個人が何かを発信したい、表現したいと思っても、それを実行するのは容易ではありませんでした。でも今は、いいアイデアがあれば、誰もがそれを試すことができます。こうした変化は個人の可能性を大いに広げてくれるでしょう。

 その半面、従来のロールモデルはますます通用しなくなっていくはずです。やりたいことが見つからず、自分の進む方向が決められない人には、なかなか自分の価値を見いだせない、生きづらい社会にもなり得ます。

 なので今、子どもに何をしてあげるべきかと問われたら、まずはやりたいことが見つかるように、さまざまな情報にふれさせてくださいと言いたいです。家と学校の往復だけだと、子どもが接する世界は限られてしまいます。

 旅行へ行ったり、美術館や博物館を巡ったりすることで、自分の興味や憧れについて考え、未来を想像し、夢を見つける機会を増やしてあげましょう。いろいろな職業の人に話を聞ける親子向けのウェビナーなどもありますし、古典的なところでは偉人の伝記もおすすめです。

「中学受験は、12歳までに身につけさせたい“目標に向かって前進する力”を養う絶好の機会です」と話す松江由紀子さん
「中学受験は、12歳までに身につけさせたい“目標に向かって前進する力”を養う絶好の機会です」と話す松江由紀子さん
画像のクリックで拡大表示

子どもの進む道は子ども自身が決める

 意外かもしれませんが、教育に関するアンテナを常に張っているような親御さんのなかにも、子どもには士業など特定の職業に就いてもらいたいという人はまだまだ多いです。

 最近だとそれに加えて、「将来外資系企業で働かせるために、早いうちから海外に行かせるべきか?」といった相談もよく受けるようになりました。一見、後者は新しい考えにも見えますが、気になるのはどちらも、親が子どもの進む道を決めようとしていること。

 これは絶対にやめるべきです。私自身も含め、親世代の考える未来社会の姿が当てにならないというのも理由のひとつですが、何より心配なのは、道を用意された子どもが、困難な場面で何でも周りのせいにしてしまう、他責思考の人間になる恐れがあるからです。

 どんな道でも、想定と違うこと、大変なことはあるでしょう。しかし親は子どもの一生をフルサポートできませんし、自分で解決しなければならないことがたくさん待ち受けています。道を決めるのはあくまでも子ども自身だということを忘れてはいけません。

 YouTuberの話に戻ると、誰もが発信できるようになったとはいえ、実際に動画をつくるのは大変です。企画から始めて1本の動画を完成させられる人は限られていて、当たり前ですが、やってみたいと思うだけの人と実行に移す人の間には大きな差が生じます。

 実行に移せた人は、たとえ失敗に終わっても、また次のやりたいことに挑戦できますが、前者はおそらく変わらず、夢を夢で終わらせてしまいます。

 つまり、このロールモデルなき時代を楽しく生き抜くためには、やりたいという気持ちだけでは不十分で、そこに向かい、前進する力がそれ以上に大事になるのです。この前進する力を、私自身の経験も踏まえ細分化したのが、次の3つです。

(1)自ら目標を立てる力
(2)努力し続ける力(グリット)
(3)転んでも立ち上がる力(レジリエンス)

 この3つがそろっていれば、社会がどう変わろうと、楽しく生きていけるというのが私の持論です。

「夢を夢で終わらせず、前に進む力が大切。努力の仕方を知っていればその人の人生は大きな可能性に満ちてきます」
「夢を夢で終わらせず、前に進む力が大切。努力の仕方を知っていればその人の人生は大きな可能性に満ちてきます」
画像のクリックで拡大表示

中学受験で一生モノの強みを手に入れる

 私はこれらの力をすべて中学受験を通して身につけました。中学受験をしていなかったら、小学生の頃に困難から自力で立ち上がる経験をすることはなかっただろうし、努力を続けて初めて得られるものがあることも、学ぶことの楽しさや意義を知ることもなかったでしょう。

 大人になって思うのは、初めての失敗のタイミングが遅くなればなるほど、そこから立ち上がるのはエネルギーが必要で大変だということ。まさに「子どもの失敗は買ってでもさせよ」で、中学受験というある種のハードルを与え、完走させてくれた親には本当に感謝しています。

 ちなみに、中学受験で3つの力を身につけさせるには、まず親が干渉しすぎないこと。そのうえで、子どもが努力を続けているとき、落ち込んでも立ち上がりまた挑戦しようというときには、しっかり褒めましょう。

 コツは、結果ではなくプロセスである行動を褒めることです。ご褒美シールの活用も効果的です。それでも何かの誘惑に負けそうなときは、どこかへ出かける、ゲームをしてよい時間を増やすなどの報酬を与えることも、自分を律することが難しい小学生には有効だと思います。

 「やりたいことが見つかれば、そこに向かう努力の仕方を自分は知っている。どんな結果になるかはわからないが、少なくとも前進することはできる」。中学受験以来、私はずっとそう思いながら生きてきました。

 おかげで、今もやりたいことが次々浮かんで、ワクワクする人生を送っています。これは極論ですが、たとえ希望通りの結果が得られなかったとしても、一生ものの宝物を手に入れられる冒険だと考えて挑戦してみるだけの価値が、中学受験にはあると思います。

計画通りに学習が進んだことを確認したら、一緒にペタッ。やる気を引き出すご褒美シールは、子どもに目標を可視化させることや、努力を継続させることにも有効だという(写真提供:松江由紀子さん)
計画通りに学習が進んだことを確認したら、一緒にペタッ。やる気を引き出すご褒美シールは、子どもに目標を可視化させることや、努力を継続させることにも有効だという(写真提供:松江由紀子さん)
画像のクリックで拡大表示

取材・文/石川遍 写真/八藤まなみ

過熱する中学受験。親は何をすればいいのか徹底解説

初歩的な部分から一通り必要な知識を丸ごと1冊で解説する入門書。Q&A方式で「そもそも」の疑問に答えるほか、首都圏・関西圏・中京圏の中学校の偏差値一覧、教育内容に特徴がある中学校の紹介、親子の合格体験記、中学受験に備えるマネープランなど、多角的に解説します。

日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版/1540円(税込み)