米シリコンバレーのトップクラス投資家、クリス・ディクソンが25年間のソフトウェア業界でのキャリアを基に、インターネットがこれまで経てきた時代と向かうべき未来を語る新刊『Read Write Own』から一部抜粋・編集して解説する。2回目は、より良いインターネットに必要なものを都市計画になぞらえて考察する。
都市計画から見る良いネットワーク設計とは
素晴らしい都市の条件とは何だろう?
世界の素晴らしい都市では、公共の場と私有地が混在している。公園や歩道などの公共の空間は人々を外に誘い出し、人々の豊かな生活に貢献する。私有地は事業を立ち上げるインセンティブとなり、重要かつ多様なサービスを人々に提供する。すべてが公有の都市は起業家がもたらす創造的な活力に欠く。逆に、すべてが私有の都市は、魂のないまがいものだ。
素晴らしい都市は、さまざまなスキルや関心を持つたくさんの人々によって地道に築かれる。公共の場と私有地は互いになくてはならない。ピザ屋は近くを歩いている人たちを引き寄せ客にする。同時に、ピザ屋は人々が外に出る目的を提供し、さらに納税を通じて都市の維持費の一部を負担する。この関係は共生的だ。
ネットワークの設計も都市計画のように考えることができる。素晴らしい都市の構造に最も近い既存の大規模ネットワークは、ウェブと電子メールだ。先に説明したように( 第1回参照 )、これらのネットワークを管理するのはネットワークから経済的利益を享受しているコミュニティ自身だ。企業ではなく、コミュニティがネットワーク効果を制御する。ネットワークのルールは一貫していて、そこで作ったものは自分で所有できることが保証されている。だからこそ起業家には、これらのネットワークを使って事業を立ち上げる強いインセンティブがある。
インターネットにも健全な都市に見られるような公有地と私有地のバランスが必要だ。企業ネットワーク(フェイスブック、Xなど企業が運営するネットワーク)は起業家が私有地を広げるのと似ている。企業ネットワークは俊敏で、リソースが豊富にある。だが、成功すると公共の場を取り込み、代替サービスを締め出してユーザーやクリエイター、起業家が活動する機会を減らしてしまう。
ブロックチェーン技術がインターネットのバランスを正す
インターネットの均衡を取り戻すために、プロトコルネットワーク(メールやウェブのようなオープンなネットワーク)と企業ネットワークに代わるものが必要だ。私はこの新しいネットワークをブロックチェーンネットワークと呼んでいる。ブロックチェーン技術に基づくものだからだ。最初のブロックチェーンネットワークはビットコインで、サトシ・ナカモトをはじめとする開発者は、暗号通貨という特定の用途のために開発した。しかし、より汎用的なネットワークも作れる。技術者らは、ブロックチェーンネットワークの基礎設計および、ブロックチェーンに欠かせない分散型所有権を可能にするトークン技術を発展させてきた。その結果、ブロックチェーンネットワークは金融だけでなく、ソーシャルネットワーク、ゲーム、マーケットプレイスなどのサービスにも応用できるようになったのだ。
ブロックチェーン以前まで、ネットワークの構造には制限があった。従来のコンピュータでは、コンピュータのハードウェアを所有している人々に力があり、いつでも好きなようにソフトウェアを変更できる。したがって、従来のコンピュータ向けのネットワークを設計する際には、ネットワークのノードとして機能するソフトウェアが「邪悪になる」、つまりネットワークの利用者の利益よりも所有者の利益を優先するようになる可能性を考慮しなければならない。すると作れるネットワークは制限される。これまでうまく機能したものは2種類しかない。(1)プロトコルネットワーク。たくさんの弱いネットワークノードで構成され、権力が分散することから、一部のノードが利己的に振る舞うようになっても影響は軽く済む。(2)企業ネットワーク。すべての権力がネットワークの所有者である企業に集中しているので、企業が利己的に振る舞わないことを期待するしかない。
ブロックチェーンネットワークの用途は無限大
ブロックチェーンネットワークの構造は違う。ブロックチェーンは従来のハードウェアとソフトウェアの力関係を逆転させ、ソフトウェアが制御している。
これにより、ネットワークの設計者はソフトウェアの表現力をフル活用し、ハードウェアの影響を受けることがない永続的なルールをソフトウェアに組み込むことができる。これらのルールは、誰がアクセスできるか、誰が手数料をいくら支払うか、経済的な報酬をどう分配するか、どのような状況で誰がネットワークを変更できるかといったネットワークのあらゆる側面に対応できる。
また、ブロックチェーンネットワークの設計者はネットワークの中核となるソフトウェアを開発するとき、ネットワーク内の一部のノードが利己的になりシステムを悪用する状況を考慮する必要はない。組み込まれたコンセンサスメカニズム(合意形成の仕組み)により、正しい処理をするようノード同士が互いを見張っているからだ。ブロックチェーンネットワークでは、ソフトウェアと同じように複雑で多様なものを作れる。
そしてその土台は永続的で盤石なものだ。ここで紹介する設計は、私が考えるブロックチェーンネットワークの最先端のベストプラクティスである。しかし、ソフトウェアは柔軟なので、いずれここで説明するものよりも強い影響力を持つものが現れるかもしれない。まだ誰も思いついてもいない、ここで示すものより優れたネットワークがいずれ発明される。その可能性は非常に高い。なぜなら、人間が想像できるネットワークなら、どんなものでもソフトウェアに落とし込めるからだ。
(翻訳=大熊希美)
クリス・ディクソン 著/大熊希美 訳/日経BP/2420円(税込み)

