アマゾンのベゾスは「株主への手紙」を「今日はまだDay 1(1日目)」という言葉で締めくくる。「Day 2(2日目)には停滞が起き……死が訪れる。だからこそ毎日が1日目なのです」。会社が大きくなると、結果よりもプロセスが重視されてしまう。どうすれば社員がプロセスに支配されずに、ゴールを追い求められるのか? 『ギーク思考 圧倒的な結果を出す型破りな思考法』(アンドリュー・マカフィー著/小川敏子訳/日本経済新聞出版)から抜粋・再構成してお届けする。

ベゾスはなぜ「Day 1」にこだわるのか?

 2010年以来ベゾスは株主への手紙すべてを「今日はまだDay 1(1日目)」という言葉で締めくくる。2016年の手紙は、この言葉が何を意味するのかという説明で始まっている。

 「ジェフ、Day 2(2日目)はどういったものですか?」
 わが社の最近の全社員参加型ミーティングで、この質問が出た。
 これまで10年間、毎日が1日目だと社員に繰り返し伝えてきた。私が働くアマゾンのビルはDay 1と名付け、ビルを移る際にはその名前も一緒に移した。しばらく考えてから、次のように答えた。
 「2日目には停滞が起き、的外れになり、ひどく苦しい衰退が始まり、死が訪れる。だからこそ毎日が1日目なのです」
 正確には、衰退は極端にゆっくりと起きるだろう。既存企業は何十年も2日目が続くかもしれない。だが、いずれ結末が訪れるだろう……。

 会社が大きく、より複雑になるにつれて、代理によって管理されるようになる。代理はさまざまな形態と規模であらわれ、危険で気づきにくい。まさに2日目の症状である。
 たとえばプロセスだ。よいプロセスとはあなたの役に立つもので、あなたが顧客のために働けるようにするものだ。だが注意を怠ると、いつのまにかプロセスが重視されてしまう。大組織では簡単にこういうことが起きる。プロセスそのものが、めざす成果の代理となる。そうなると本来の結果ではなくプロセスそのものを正しく実行することに力を注ぐ。そう……プロセスとは、重視すべきものではない。だからつねに問いかけることを怠ってはならない。私たちはプロセスを支配しているのか、それともプロセスが私たちを支配しているのか? 2日目の会社は後者であるかもしれない。


アマゾンの「ピザ2枚チーム」が官僚主義を阻止

 では、プロセスが重視されないのであれば、アマゾンでは何を重視するのか? それはオーナーシップの規範だ。決められたゴールを達成するために、1人ひとりが明確に果たすべき責任を負う。

 アマゾンの「シングルスレッド・リーダー」はそれを体現している。元社員のコリン・ブライアーとビル・カーによる『 アマゾンの最強の働き方 』(紣川謙監訳/須川綾子訳/ダイヤモンド社)ではシングルスレッド・リーダーを次のように紹介している。

 [シングルスレッド・リーダーは]アマゾンのイノベーションである……両立困難な責務を負わされていない1人の専任者が、高い自律性を与えられたチームを率いて、目標達成に向けて主導権を握る。


 シングルスレッド・リーダーは、「ピザ2枚チーム(ツー・ピザ・チーム)」の実践から生まれた。ピザ2枚チームは小規模なチーム(理想的にはLサイズのピザ2枚で足りるほどの人数)が、「ドイツで靴の売上を増やす」など明確に決められた目標に責任を負うもので、可能なかぎり自律的に運営される。ピザ2枚チームの本質は、社内調整と折衝、他のプロジェクトとの連携を最小化することである。重要プロジェクトには社内の多くのグループとの調整と折衝、連携がつきものという発想の逆をいくのがピザ2枚チームだ。重要な取り組みであるほど、すべての責任を負い完全に自律的に実行し、他のチームとの関わりは最低限とする。

 テクノロジー・アナリストのベネディクト・エヴァンスは、アマゾンの自律的な小規模チームがどのようにして官僚主義を防いでいるのかを説明している。

 アマゾンの社内には権限を与えられた小規模なチームが何百も存在し、それを支えるのが標準化された共通の内部システムである。ドイツで靴を売ると決めれば、多彩な経歴(靴やeコマースとは無関係の経歴も含む)を持つ人々を5~6人ほど採用して、チームを新しく結成する。アマゾンはチームに必要なプラットフォームを与える。社内の他のすべてのチームの指標は透明性が確保されており、もちろん新しく発足したチームの指標も社員(とジェフ)に対して透明性が保たれている……。

 少人数のチームは自分たちだけで物事をすみやかに実行できるという利点がある。また、少なくともアマゾンにおける構造的な利点は、チームをいくらでも増やせることだ(理論上は)。新製品のラインを加える際も、新しい内部構造や直属の部下の増員は必要ない。ロジスティクスとeコマースのプラットフォームとの会議、プロジェクト、プロセスも必要ない。(理屈としては)イタリアで化粧品をローンチするためにシアトルに飛んで会合のスケジュールを細かく組んでサポートを求めたり、誰かに工程表を補足してもらったりする必要はない。


 要するに、会社がめざすものと無関係な地位獲得の機会をつくらないということだ。

 ピザ2枚チームがアマゾン社内に広まるとともに明らかになったのは、チーム結成初期にアマゾン社内の他部署に対する依存を減らすように熱心に取り組んだチームほど、大きな成果が出たという事実だ。

 ピザ2枚では足りないケースが出てくると、「シングルスレッド・リーダー」という呼び方が一般的になったが、核となるアイデアは変わらない。チームは強いオーナーシップを保ち、他チームとの折衝と調整と相互依存はほぼない。

 ブライアーとカーの『アマゾンの最強の働き方』によれば、工業化時代の会社が大好きな相互依存関係はアマゾンでは企業がもっとも嫌う言葉で表現されているという。「こうした機能横断型プロジェクトは、ある種の税金と捉えればよい」

「ピザ2枚チーム(ツー・ピザ・チーム)」はアマゾンの官僚組織化を防いだ(写真:Olga Zarytska/stock.adobe.com)
「ピザ2枚チーム(ツー・ピザ・チーム)」はアマゾンの官僚組織化を防いだ(写真:Olga Zarytska/stock.adobe.com)
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複数チームのやりとりは官僚制につながる

 ギークの調整嫌いはあまりにも度が過ぎているように見えるかもしれない。チームのメンバー同士、社内の上層部とのやりとりすら嫌がる。複数のチームのやりとりはソフトな官僚制につながる恐れがあるから、という理由だ。

 超社会的な生き物である人間は果てしなく地位を求めるので、仕事上でもディスカッションには熱心だ。相談を受けたり、情報を仕入れたり、新しいアイデアとプロジェクトが「共有(ソーシャライズ)」される際には一枚嚙んで足跡を残したりしたがる。


 ビジネス・ギークはこういう類の交流(ソーシャライズ)をとことん嫌う。チームが秘密主義や非生産的になることは望まないが、業務の調整や承認を求めるといったことは奨励しない。コンピュータ・サイエンティストのセバスチャン・スランはアルファギークでエグゼクティブで起業家であるが、地位獲得を軸として私に次のように説明してくれた。

 いいアイデアがあるのでマネジャー層に提出すると、次から次へと手が加えられていく。どのマネジャーも自分の手柄にしたいと思うからだ。もともとシンプルだったアイデアはいつの間にか複雑でややこしいものとなり、発案者のもとに戻った時には似ても似つかない姿となっている。すべてはマネジャーの自己アピールのためである。


 ジェフ・ベゾスも同じ考えである。コリン・ブライアーは振り返る。「ビルダーがアマゾンで本来の実力を発揮できるようにするためには、コミュニケーションを促すのではなく排除する必要があると[ベゾスは]私の在職期間中に繰り返し言っていた」

コミュニケーションを促すと官僚制につながるとベゾスは考えた(写真:Song_about_summer/stock.adobe.com)
コミュニケーションを促すと官僚制につながるとベゾスは考えた(写真:Song_about_summer/stock.adobe.com)
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『ザ・セカンド・マシン・エイジ』『機械との競争』著者、最新作! グーグル、ネットフリックス、テスラ、アマゾンの成功は、先端テクノロジーによるものではない。ギークが書き換えた企業文化こそが成功の秘訣である。

アンドリュー・マカフィー著/小川敏子訳/日本経済新聞出版