フランス人の賢く食べて優雅に生きる秘訣を紹介する書籍『 フランス人はなぜ好きなものを食べても太らないのか 』。この本を、元サッカー日本代表監督フィリップ・トルシエ氏の通訳を務め、現在はスポーツ解説や文化活動など幅広く活躍するフランス出身のフローラン・ダバディさんに読んでもらい、感想とともに自身の食生活やライフスタイル観を語っていただいた。「なぜ太らないのか?」は、単なる食事量の問題ではなく、どんな時間を、どんな意識で過ごすか——その“暮らしの美学”にこそ、秘密があるという。今回は後編。

フローラン・ダバディさん
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フローラン・ダバディさん
1974年フランス・パリ生まれ。パリのINALCO(国立東洋言語文化学院)日本語学科で日本語の学位取得。1998年に来日し、映画雑誌『プレミア』の編集に関わる。1999年から2002年までサッカー元日本代表トルシエ監督の通訳・アシスタントを務め、その後もテレビ・ラジオ出演、執筆、講演など多方面で活躍。フランス文化や言語、食、ライフスタイルについて深い知見を持ち、日本とフランスの文化的架け橋となっている。日本語、フランス語、英語に堪能で、近年は教育や国際交流の分野でも活動の幅を広げている。

フランス人は「よく歩く」のが日常

特別な運動はしていなくても、フランス人がやせているのは、“よく歩くから”ということもこの本『 フランス人はなぜ好きなものを食べても太らないのか 』に書いてありました。実際にはいかがですか。

 それは事実です。パリは東京ほど広くありませんし、日常の移動手段としては車よりも地下鉄と徒歩が主流です。僕の実家は6階でしたが、エレベーターは使わずに階段で上り下りしていました。それが当たり前のことで、「運動している」という感覚すらありませんでした。

 体型については、やせすぎても太りすぎても、「何か生活が乱れているのでは」と見られることがあります。でも、だからといって極端な制限をするわけではありません。むしろ大切なのは、先ほどもお伝えしたように、無理のない範囲で整った暮らしを続けること。言い換えれば、「その人の生活が、自然にバランスを保っているように見えるかどうか」が重要なんです。

「フランスは街もコンパクト。意識してウォーキングするというより、歩くのが当たり前なんですよね」
「フランスは街もコンパクト。意識してウォーキングするというより、歩くのが当たり前なんですよね」
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そういえば、“筋トレ”や“ボディメイキング”のような意識も、フランスではあまりないのですよね。

 無理な運動でやせようとしないのは、もともとフランスにはフィットネス文化が根付いていなかった、ということもあります。「ジムに通う」という習慣が一般化したのは、21世紀に入ってからのこと。僕の母も運動を始めたのは60代になってからで、それも室内バイクを買った程度。フランスでは、基本的にスポーツは“遊び”の延長なんです。

 「体をつくる」という発想はむしろアメリカ的なもので、フランスにはあまりありません。男女問わず、「腹筋を割る」「二頭筋を鍛えて見せる」といった意識そのものが希薄です。女性が求める男性像についても同じで、スリムで自然な体型が理想とされていて、ムキムキの体はむしろ逆効果。かつては特にそうでした。今の若い世代は少し変わってきている部分もありますが、それでも根本的な価値観として「見せる筋肉」は重視されていません。

 どちらかといえば、その人のファッション、センス、知性、ユーモア──そういった“雰囲気”や“人間としての魅力”のほうがずっと大事にされる。だから、男女ともにタバコを吸っている人も多いです。一見“健康”とは結びつかなくても、その人らしさがあるかどうかが魅力的だとされる文化なんです。

食が文化であり、民主主義であるという視点

食卓は愛や友情が生まれる場所、と本の中でも紹介されています。フランスでは今も昔も、その文化は変わらないと思われますか。

 フランスには、「おいしいものを囲むことで人間関係が深まる」という感覚が、ごく自然にあります。ただ、現実は少しずつ変わってきています。今ではマルシェの価格も高騰していて、誰もが気軽に利用できるわけではありません。「良いもの」「旬のもの」が限られた人しか手に入れられない状況が生まれている。マルシェではなく、少しでも安いスーパーで買うという選択をせざるを得ない家庭も増えています。

「だからこそ、その基盤となるマルシェや食材に、誰もが平等にアクセスできる社会であってほしいと心から願っています」
「だからこそ、その基盤となるマルシェや食材に、誰もが平等にアクセスできる社会であってほしいと心から願っています」
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 ここ数年、僕はフランス各地を巡って、さまざまなマルシェを見てきました。いろいろな土地を訪れましたが、率直に言って、農家の人たちの状況はとても厳しい。だから、南仏のプロヴァンスやペリゴール、ドルドーニュといった地域には、イギリス人やドイツ人の富裕層が住んでいて、そうした人たちをターゲットにした高品質な食材も多く並んでいます。

 一方で、地元の人々が日々の暮らしの中で買えるような、手頃な価格の野菜や果物も、農家の人たちの努力によってきちんと存在しています。つまり、マルシェの中にも価格帯や購買層に応じた多層的な仕組みがあって、そこにはフランスの地域社会のリアルな経済や文化が反映されている。

 こうした二面性は、ビジネスとしてはある程度仕方のないことかもしれません。でも、もし食の豊かさが特定の人の特権になってしまえば、文化そのものが揺らいでしまう。それは、フランスという国の本質を損なうことにもつながると、僕は思っています。

食事はライフスタイルから“逆算”して考える

食において過剰な摂取も制限もせず、「自然なバランスを保つ」というのは、食だけでなく、フランス人のライフスタイルそのものにも通じるものでしょうか。

 「自然なバランスを保つ」「体の声に耳を傾ける」というのは食に限らず、仕事でも同じです。スケジュールを詰め込みすぎてストレスが溜まり、結局お酒に頼って、夜の大切な時間が台無しになる…。僕は、そんな負のスパイラルには陥りたくないので、マネージャーにも「これ以上仕事を入れないでください」とよくお願いしています(笑)。怠けているように聞こえるかもしれませんが、自分の時間を確保することは、フランス人にとって非常に大事なことなんです。

 例えば、SNSを見るよりも読書、公園を散歩する、人とカフェで会話する、あるいはただぼーっとする。そういう時間を大切にする価値観がフランスにはあります。北欧の人ほど徹底してはいませんが、「何もしない時間」に価値があるという意識は強い。

「そんな小さな贅沢が、心と体のバランスを整えてくれます」
「そんな小さな贅沢が、心と体のバランスを整えてくれます」
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 もしお腹が空いていなければ、ワインを飲みながら本を読むだけの、シンプルなディナーで十分。それもまた自分の時間を楽しむ選択です。いつ、何を食べて、夜はどう過ごしたいか。すべての行動を自分のライフスタイルから“逆算”して考える。それが僕にとっては、ごく自然なことなんです。

取材・文/金澤英恵 構成/幸田華子(第一編集部)、長野洋子(日経BOOKプラス編集) 写真/小野さやか

食べることを愛するフランス人はどう健康を維持しているのでしょうか? 食事方法から人生を楽しむ秘訣までをひもときながら、一生ものの知恵を紹介します。付録にはすぐに作れて、心も体も満たされる40のヘルシー・フレンチ・レシピが付いています。

ミレイユ・ジュリアーノ著/羽田詩津子訳/日本経済新聞出版/990円(税込み)