『暮しの手帖』の編集長を9年間務め、エッセイストとして人気の松浦弥太郎さんが、「ものの価値」とは何かについて語ります。『 価値あるもの 衣・食・住・旅 』から抜粋して再構成。第2回。

 すてきなものというのは、次から次へと売り出されるから、目移りして困ってしまう。そしてまた、あの人この人が持っているものも一度見てしまうと欲しくなるのが人の常である。けれども、そんな心持ちに付き合っていたらきりがない。これが手に入ればしあわせなのに、と、その時は思うけれど、手に入った途端に、さらに他のものが欲しくなる。こんなふうな、〝欲しい欲しい病〟を直すにはどうしたらよいのだろう。

画像のクリックで拡大表示

 たとえば、欲しいものを考えるよりも、今、持っているもののことを考えて、その良いところを見つけて、ありがとう、と感謝する。頭を冷やして、身の回りを眺めてみれば、いつの間に増えたのか、あれやこれやと、あるわあるわの大荷物。そういう一つひとつに意識を向けて、もっと仲良くなるのはひとつの賢さである。そうすると、今まで以上にそれらとの関係がぐっと深くなり、自分にたくさんのうれしさやしあわせを与えてくれるのだ。いわば、人間関係と同じである。満たされない気持ちとは、ちょっとした心持ちひとつで変えることができる。同時にもの選びも慎重になるだろう。良いものを少し持ち、それと長く付き合っていく。その喜びを知れば、“欲しい欲しい病”など、なんのことやらとなる。

 欲しいものではなくて、今持っているものに気持ちを向ける。先日、いつの間にか、いろいろなもので溢れかえってフタが閉まらなくなった道具箱の整理をしていた時、そんな考えが溢れてきた。

写真/松浦弥太郎

松浦弥太郎さんの暮らしを彩る40のエッセイ

『暮しの手帖』の編集長を9年務め、エッセイストとして人気の著者が、「ものの価値」とは何かを、衣・食・住・旅の4つのテーマでつづりました。ブランドや値段のような指標ではなく、自分の価値観や暮らしに根ざしたものの見方、考え方とは。

松浦弥太郎(著)、日経BP、1760円(税込み)