『暮しの手帖』の編集長を9年間務め、エッセイストとして人気の松浦弥太郎さんが、「ものの価値」とは何かについて語ります。『 価値あるもの 衣・食・住・旅 』から抜粋して再構成。第5回。

 『暮しの手帖』時代からお世話になっている料理研究家のホルトハウス房子先生のご自宅に何度か伺ったことがある。料理道具や器だけでなく、室内の調度品など、あしらいの上質さというか、そのセンスのすばらしさにいつも驚かされる。

 どこを見ても、高い審美眼で選ばれた一つひとつの個性がけんかすることなく美しい調和を生んでいて、その言葉にできない妙は心地よさを感じるくらいである。自然溢れる森のような庭に植えられた小さな草花や小石にさえ、そのあしらいが見てわかる。

 ある日、「どうしたらこんなふうに美しく整うのでしょうか?」と聞いてみると、「何かひとつ、自分が好きだと思うものから考えるのです」と教えていただいた。

 「花瓶でもよし、絵でもよし、椅子でもよし。毎日、自分に感動を与えてくれるお気に入りを“ひとつ”見つける。それに合うもの、それと同等の価値のもので揃えていくと、どんなものであっても美しく整いますね。料理や着こなしも大切なのは組み合わせです。一緒だと思いますよ」とおっしゃった。

 目から鱗が落ちるとはこのことだった。美しさとは調和であり、その調和とは常に“ひとつ”からはじまる組み合わせである。とすると、自分はどんな“ひとつ”を選ぶのか。

 着こなしで考えてみる。自分にとっての“ひとつ”はなんだろうと。すぐに思い浮かんだのは、リーバイスの“501”というジーンズだった。

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 ワークウェアとして昔から今に至って変わらぬ独特のシルエットとディテールは定番の名にふさわしいアイテムである。服を選ぶ時、その“501”に合うシャツは何か。合うジャケットは何か。合う腕時計は何か。合う靴は何か。合うバッグは何かと考えてみる。要するに、「それは“501”に合うのか? 合わないのか?」という基準でもの選びをする。その結果、おのずと自分らしいスタイルと秩序、美しく調和された着こなしが生まれていく。〝ひとつ〟はシャツやパンツ、靴、腕時計やアクセサリーでもよいだろう。毎日の自分にとっての定番といえる〝ひとつ”を中心にして、その仲間たちを見つけていけばいい。

 いつだって欲しいものはいくらでもあるが、そういう自分だけのルールがあれば、もの選びの迷いや失敗はなくなるし、考えるだけでも楽しくなる。

 さて、あなたどんな“ひとつ”からもの選びをしていきますか?

写真/松浦弥太郎

松浦弥太郎さんの暮らしを彩る40のエッセイ

『暮しの手帖』の編集長を9年務め、エッセイストとして人気の著者が、「ものの価値」とは何かを、衣・食・住・旅の4つのテーマでつづりました。ブランドや値段のような指標ではなく、自分の価値観や暮らしに根ざしたものの見方、考え方とは。

松浦弥太郎(著)、日経BP、1760円(税込み)