2023年11月25日、26日、東京・神保町の出版クラブビルで、韓国の本=K-BOOKを愛する人のための本のお祭り「K-BOOKフェスティバル」が行われた。新型コロナウイルス禍を経て本格的なリアル開催となった。国や言葉、沈黙の時間をこえるという意味から、今年のテーマは「こえる」。2日間で2500人を超すファンが集い、まさに国や文化や言葉の壁を越え、本の可能性を感じさせるイベントになった。

2500人を超す来場者

 ドラマや映画、K-POPなど、韓国のエンタメ人気が日本でも定着する一方で、近年は韓国の本(K-BOOK)がブームになっている。33歳の主婦の半生を描き、女性の生き方を問うた『 82年生まれ、キム・ジヨン 』(チョ・ナムジュ著/斎藤真理子訳/ちくま文庫/単行本は2018年)は約30万部、イラストエッセイ『 私は私のままで生きることにした 』(キム・スヒョン著/吉川南訳/ワニブックス/2019年)は55万部を超すベストセラーになった。

 「K-BOOKフェスティバル」は、(一社)K-BOOK振興会と韓国国際交流財団が立ち上げた韓国の本=K-BOOKを愛する人のための本のお祭りで、誰でも無料で参加可能だ。2023年は東京・神保町の出版クラブビルで開催され、韓国語の本や日本語の翻訳書を刊行する40社あまりの出版社がブースを出店、さらに第一線で活躍する日韓の作家や書店主、翻訳者などが登壇するさまざまなトークイベントも企画された。

「K-BOOKフェスティバル」の入り口。写真を撮る来場者も多数見られた
「K-BOOKフェスティバル」の入り口。写真を撮る来場者も多数見られた
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 受付ではまず参加者にオリジナルデザインの紙袋が配られた。中には会場のマップと『ちぇっくCHECK』という冊子が入っていた。冊子には今年のイベントの登壇者でもある、韓国の詩人、オ・ウンさんやキム・ソヨンさん、日本のSF作家、小川哲さんらが寄稿している。

参加者に配られた会場のマップ(右)と冊子『ちぇっくCHECK』(左)
参加者に配られた会場のマップ(右)と冊子『ちぇっくCHECK』(左)
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 1日目の11月25日12時。すでに会場は大入りで、出版社ブースの前は通り抜けるのに苦労するほどの混雑になった。本を熱心に見つめる参加者は女性が多いが、年齢は幅広い。あちこちで韓国語も聞こえてくる。後で事務局に聞いたところ、2日間で2500人を超す来場者数だったとのこと。会場の一角には韓国の雑貨や菓子を売る出店もあり、まさにお祭りの雰囲気だった。

文芸、人文、絵本…幅広い韓国の本の世界

 出版社ブースでは、小学館、集英社、光文社などの大手出版社、明石書店や亜紀書房など専門書に強い版元、ポプラ社など絵本や児童書を扱う版元の出店が目立った。絵本の編集者に話を聞くと、「韓国の絵本は、日本にはまずないようなキャラクターが魅力的で、一冊一冊の個性が際立っています」とのこと。

 編集者とともに韓国の作家がブースに立ち、即席のサイン会が始まる場面も見られた。会場を歩いていると、数多くの作家や翻訳者とすれ違う。そこかしこで韓国文化好き、本好き同士の熱い会話が交わされていた。

2フロアに40あまりの出版社のブースが並ぶ。編集者や作家がブースに立ち、サイン会をする場面も
2フロアに40あまりの出版社のブースが並ぶ。編集者や作家がブースに立ち、サイン会をする場面も
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 メイン会場では、さまざまなトークイベントが行われた。1日目は、ドラマや映画の翻訳者2人による「映像翻訳者が見てきた『韓流20周年』」、来日した作家ファン・ボルムさんが登壇した「『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』著者ファン・ボルムが伝える『よく読み、よく休むこと』」。

 さらに、「K-BOOKフェスティバル」の前に熊本県などで講演を行ってきた韓国の詩人、キム・ソヨンさんとオ・ウンさん、そして聞き手役として作家・詩人の姜信子さんらが登壇した「詩の言葉は踊る、弾む、こえる。」の3つのイベントが開催された。

 2日目午前は、韓国・全羅北道の海辺の町で「本の村ヘリ」というコミュニティと出版社を運営するイ・テゴンさんと、東京・下北沢の独立書店B&Bなどを経営する内沼晋太郎さんの対談(連載第2回でリポート)。午後からは出版社対抗「こえる一冊」プレゼン&クイズ大会。絵本作家ホ・ジョンユンさん、画家・俳優のチョン・ウネさんによる著作のプレゼント企画。日韓のSF作家対談として、キム・チョヨプさんと小川哲さんが登壇した(連載第3回でリポート)(いずれのイベントも YouTube でその様子を見ることができる)。

『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』の著者、ファン・ボルムさんによるトークイベントでは、会場が満員に。著書に関連して、読書の仕方やおすすめの本を紹介していた
『ようこそ、ヒュナム洞書店へ』の著者、ファン・ボルムさんによるトークイベントでは、会場が満員に。著書に関連して、読書の仕方やおすすめの本を紹介していた
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イベントが終わった後にブースでサインをするファン・ボルムさん
イベントが終わった後にブースでサインをするファン・ボルムさん
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 開始30分前から参加希望者が会場外の廊下に列をなし、整理券が配布されるイベントも数多くあった。トークが始まると、通訳者が訳す前に登壇者の言葉にうなずいたり、笑ったりする方も。また、韓国語で直接感想を伝えたり、質問をしたりするファンもいた。

「韓国人と日本人の感覚は似ている」

 「K-BOOKフェスティバル」の主催者であるK-BOOK振興会の佐々木静代さんによると、日本で翻訳される韓国語のタイトル数は年々増える傾向にあるという。

 一昔前は「近くて遠い国」ともいわれた韓国と日本。しかし「ようこそ、ヒュナム洞書店へ」のトークイベントでは、韓国人と日本人は感覚が似ているのではという話題になった。小説『 ようこそ、ヒュナム洞書店へ 』(ファン・ボルム著/牧野美加訳/集英社)は、長時間のハードワークに疲れた女性が退職して書店を始め、そこに集う人々との交情を描く群像劇である。トークイベントに参加した方々を見ていたら、登場人物の心の変遷を自分事として捉えていることがよく分かった。

 新型コロナウイルス禍を経て開催された「K-BOOKフェスティバル」。たくさんの本を手にしながら笑い合う人々の顔を見ていると、国や文化や言葉の壁を越えて、本の可能性を信じることができた。

取材・文/木村やえ(日経BOOKプラス編集部) 写真/「K-BOOKフェスティバル」事務局、木村やえ