書店のビジネス書コーナーに足を運ぶと、「できるリーダー」「優れたリーダー」といったキーワードの入った書籍が目につきます。しかし、リーダーとして「できる」「優れている」というのは、どういうことなのでしょうか。『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること』(日経BP)がロングセラーとなっている大野栄一さんと、シリーズ累計28万部突破の『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(日経BP)の共著者の藤吉豊さんが、対談を通して考えます。

自分の「欠落」をさらけ出せるか

藤吉豊さん(以下、藤吉) 僕は普段、ライターとしてさまざまな方に取材させていただいています。つい先日取材でお会いした、ある流通ビジネスの社長が、まさに「できるリーダー」でした。

大野栄一さん(以下、大野) どうしてそう思われたんですか?

藤吉 理由は2つあって、1つは社員にすごく信頼されているということです。仕事面はもちろん、おのおのの子どもや家庭の事情にも目を配って、皆が自分らしく働けるようにフォローされているんですね。だから信頼が厚く、端的に言うと「頼れる兄貴」という印象です。皆が社長を慕っているのが、社内の空気となって伝わってくるほどでした。

ライターとして、これまでに2000人以上のインタビュー実績を持つ藤吉さん。
ライターとして、これまでに2000人以上のインタビュー実績を持つ藤吉さん。
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藤吉 もう1つの理由は、圧倒的な実績を残されていることです。もともとは本社の管理職をしていらして、赤字が続く地方支社を立て直すことになったとき、その支社の社長に抜擢(ばってき)されて2年で黒字化に成功しました。本社に戻ると、今度はトランプ関税の問題に直面します。にもかかわらず、親会社から高い達成基準を掲げられてしまった。社長はそこでひるむようなタイプではなく、むしろ売られたケンカは買うぞ、と腹を決めるタイプです。そしてケンカに勝つために、社員に対して「皆さん力を貸してください!」と頭を下げて協力を仰ぎ、見事、達成基準をクリアされた、ということでした。

大野 人間的に信頼できて、しっかりと結果を出していると、おのずと「束ねる力」が出てくるんですよね。

藤吉 これまで、大企業や中小企業のいろいろな社長に会ってきましたが、「こういう方ができるリーダーだな」と再認識しました。すごい実績がある方なのに、とても気さくで距離を感じさせないのも特筆すべき点ですね。地位を与えられたからリーダーになったのではなく、もともとの人格がいいからリーダーになったのだろう、という感じがしました。

 ご本人も、役職は「役割・機能」で、社長は単に物事を最終決定する役割・機能を担っているだけ、とおっしゃってましたね。そこにフォーカスされているから、自然体でいられて力を発揮できるのだと思いました。

大野 今の藤吉さんのお話を聞いて思ったのは、自分の欠点や欠落も隠さずに、“素”をさらけ出せるのが最高の、できるリーダーではないか、ということです。世の中に、欠点も欠落もない人は一人もいませんよね。でも、できるリーダーとできないリーダーはいる。二者を分かつのは、“素”をさらけ出す覚悟があるかないか、という気がしてなりません。

 例えば、アメリカのトランプ大統領や、テスラのCEOであるイーロン・マスクは、欠点も欠落を全開にしているじゃないですか。アップルの共同創業者だったスティーブ・ジョブズも同類でしょう。それでもリーダーとして君臨し、力を発揮している。つまり、自分の欠点や欠落を全開にすることは、自分の強みに変えられる、ということになると思うのです。

リーダーが「自分の不完全さ」を大事にすることで、組織の文化が育まれる

藤吉 大野さんの近著『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること』に、リーダーこそ自分の不完全さを大事にすべきだ、という記述がありますよね。完璧主義を捨て、自分の短所や弱みを認めて開示すると、部下が心を通わせやすくなって心理的安全性が向上する。だから、失敗を恐れずに挑戦する気持ちが育まれて、成長する組織文化が生まれる、と。

 拙著『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』を書くにあたって読んだ100冊のリーダーシップ本の多くにも、「ごまかさない」「間違いを素直に認める」「プライドに固執しない」ということが書かれていて、通底していると思いました。いわゆる人間性に関わることだから、リーダーとしての影響力を左右するのでしょうね。

大野 課長も部長も、会社を率いる社長も同じで、リーダーというのは国家資格ではありませんよね。それは、10人いたら10通りのリーダーシップがあっていいことを意味しています。何かになろうとしないでいいし、つくろわないでいい。欠落を含む自分という素材をむき出しでいってほしい。それができたら、誰しも「できるリーダー」になれると思います。

「リーダーには『こうあるべきだ』という枠組みはない」と大野さん。
「リーダーには『こうあるべきだ』という枠組みはない」と大野さん。
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藤吉 どこまでむき出しにしていいんでしょうか?

大野 その質問は、実際のビジネスコーチングでよく聞かれます。そのつど僕は、「全開でやってください」と答えます。モラルや良識を踏まえた上での話ですが、全開でやらないと実力を発揮できなくて、いい結果につながりにくいからです。

藤吉 「全開」ですか。

大野 いったん抽象度を上げた話をすると、経営者がトランペットだと考えたときに、トランペットなのにピアノになろうとする、というのはおかしいですよね。どだい、無理な話です。目指すべきは、いい音色のトランペット。これと同様に、リーダーも他の誰かになろうと頑張っても、たいてい徒労に終わります。ならば自分は自分にしかなれない、と開き直った上で、部下の前に立つことがすこぶる健全な組織をつくるわけです。

藤吉 他の何かになろうとするのではなく、自分の道を究めるということですね。

大野 例えば、「ついつい怒鳴ってしまいます」というリーダーから相談を受けたケースでは、本人に怒鳴らないトレーニングを勧めるだけではなく、部下に対してもある提案をしました。それは、「怒鳴られたときのリアクションを変えること」です。

 普通は怒鳴られたら萎縮してしまって、何か言うにしても「申し訳ありません」などとなりますよね。そうではなくて、「あざーす!」と元気に返す決まりにしましょう、と提案したんです。空手や柔道の道場では師匠に怒られて喝を食らわせられたら、「押忍!」と大声で返しますよね。それを定型の返しとして全員が認識しているから、喝として受け入れられ、道場の雰囲気も過度に悪くなることがなく稽古を再開できます。組織でも、そういう雰囲気づくりが必要だと思うんです。

藤吉 なるほど、リーダー自身が「自分は怒鳴ってしまう」と認めて直そうとしているからこそ、部下も巻き込んで変えていくことができるのですね。そういう価値観の共有があると、組織としての結束力が高まります。リーダーについていく、という気持ちも自然と育めそうですね。

恐れるべきは「正しさ」という思考の檻(おり)

藤吉 僕が読んだリーダーシップ本の多くには、「思い込みを捨てる」「常識を疑う」「偏見から自由になる」ことの重要性についても書かれていました。ユニクロ創設者の柳井正さんは『経営者になるためのノート』の中で、次のように言っています。

「そもそも、経営者は常日頃から常識と言われているものを疑い、常識にとらわれないでものごとを考える思考習慣を持つようにしなければいけません。会社の成長、会社の進化を妨げる最大の敵。それは『常識』です」


 大野さんの近著でも、できるリーダーほど思い込みや先入観という「思考の檻」にとらわれないで、自由にものごとを考えられる、と書かれていますよね。今回、それを読んで改めて重要性に気づかされました。特に、「成果が出せないリーダーの多くは、無意識のうちに『自分の考えや戦略は正しい』と信じて疑わない状態に陥っています」という一文には、ハッとさせられました。

大野 これが正しい、という思い込みや決めつけがあると、ものごとの全てがそれによってオーガナイズされてしまうんです。思い込みや決めつけはどこから来るかというと、過去に経験した大きな喜びや恐怖、怒りを伴う出来事です。そうした経験は記憶に強く刻まれて、その人の価値観になるため、将来の判断に大きな影響を与えるわけです。

「思い込みや決めつけが、思考の幅を狭めてしまう」と大野さん。
「思い込みや決めつけが、思考の幅を狭めてしまう」と大野さん。
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大野 それをいったん横に置けるか置けないか。横に置ける人は、過去の延長線上にはない新たな可能性に賭けることができ、横に置けない人は、過去の延長線上にある確実性をよりどころにします。一長一短ありますが、リーダーというのは部下の可能性に賭ける立場にありますよね。ということは、自分の思い込みや決めつけと向き合い、それをいったん横に置く柔軟さがないと、部下の可能性を潰すことになりかねません。だから、リーダーにとって思い込みや決めつけを取り払うことが極めて重要になるのです。

藤吉 ユニクロの柳井さんの総資産はたしか6兆7千億円で、もはや小国の国家予算並みです。これは、常識にとらわれていないからこその結果でしょう。そして、今後もとらわれることはないから、きっともっと増えるに違いありません。

 柳井さんは目標に対する考え方も独特なんですよね。多くのリーダーは、目標は高くしすぎずに、達成可能なレベルにとどめたほうがモチベーションを保ちやすい、という意見ですが、柳井さんは正反対です。小さい目標は目標と呼ばない、目標はデカければデカいほどいいんだ、と。かなり少数派の意見です。

大野 GEを急成長させたジャック・ウェルチも、スケールが大きいことを言っていますよね。目標は、宇宙に届くまでストレッチをかけろって。

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(構成=茅島奈緒深、写真=稲垣純也)

「とにかく多忙で、頑張りすぎている」「リーダーとして自信がない」「手応えを感じない」という方はいませんか? そういう方々に必要なのは、「リーダーとしてのレベルが1のまま忙しく手足ばかり動かすのをいったんやめて、“レベルそのもの”を上げていくことです。「出会えてよかった」と思われるリーダーと、そうでないリーダーは何が違うのか? 優れたプレーヤーだった人ほど見落としがちな、リーダーシップの原則とは何か? 豊かな「1人の時間」を活用し、確かな知性と実力をじっくり磨ける一冊です。

大野栄一(著)、日経BP、1980円(税込み)
シリーズ28万部突破! 100冊分の重要ノウハウを1冊にまとめました。「リーダーシップ」は、人の上に立つ人や組織のトップだけが身につければいい能力ではありません。周囲と「いい関係性」を築きながら物事を進めていくために。自分なりの言葉で話し、影響力を発揮するために。そして、自分自身を導くために。名経営者、名監督、ビジネスエリート、名ビジネスコーチ、名コンサル、マネジメント研究・リーダーシップ研究の第一人者たちの名著100冊の教えをコンパクトに総まとめ!

藤吉豊、小川真理子(著)、日経BP、1870円(税込み)