異彩を放つ若手経営者から中小企業の名物社長、強い存在感を放つ大国のリーダー……傑出したリーダーは枚挙にいとまがありません。その個性や手法は多岐にわたりますが、一方で、成功した成功者たちには共通点があると、『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること』(日経BP)がロングセラーとなっている大野栄一さんは指摘します。優れたリーダーたちの共通点とは? そして、彼らはどのように学び、研鑽(けんさん)しているのか? シリーズ累計28万部突破の『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』(日経BP)の共著者の藤吉豊さんとの対談を通して考えます。
いつの時代もリーダーに求められる「問う力」
藤吉豊さん(以下、藤吉) 『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』のために読んだ本の中には、経営者本人が書いたものも多数含まれていたのですが、それを読んで改めて感じたのは、成功したリーダーたちの個性の強烈さです。大野さんは、個性とリーダーシップには何か関係があると思われますか?
大野栄一さん(以下、大野) 歴史を踏まえると、職業選択の自由や結婚の自由が認められるようになったのは日本国憲法が施行された1947年以降で、それらの自由がないときとあるときでは、リーダーシップのあり方は大きく異なるでしょう。
ただ、抽象度を上げて考えると、いつの時代もリーダーに求められることは変わっていないと思います。それは何かというと、「どんな問いを持っていて、何を課題として生きているか」ということ。リーダーたちは、時代や状況にかかわらず、そのときどきで最も重要な問いや課題を見いだすことを求められています。そして、その答えを仲間と共に探求していくのがリーダーシップを発揮する、ということ。それは、いつの時代も変わらない、普遍的なことのように思います。
藤吉 おっしゃる通り、現代のリーダーの座右の書が『貞観政要』や『論語』などの古典の名作が多いことからも、リーダーに求められることは本質的に変わらないのでしょうね。課題に取り組む優先順位や技術は変わっても、人間の頭の構造が変わっていないのだから、当然と言えば当然かもしれません。拙著『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』を書いていたときも、同じようなことを感じた気がします。
「良質の問い」を持ち続ける
藤吉 大野さんの近著『できるリーダーが「1人のとき」にやっていること』では、答えを出すことよりも、問い続けることの大切さについて説かれています。書中にあった、僕たちはなんでもすぐに答えを求めがちで、答えがわかった段階で思考が停止する、という指摘は、たしかにそうだと膝を打ちました。
大野 今の時代は、AIに聞けば瞬時に答えを得られます。そして、どんなにありふれた答えでも、答えを得られたということに満足しがちですよね。これが常態化すると、「こうあるべきだ」「これが当然」といった思い込みや決めつけが先行して、新たな可能性を見いだしにくくなってしまうわけです。物事を確定的にとらえるようになって、自分に都合よく捏造(ねつぞう)するようになる、という言い方もできるでしょう。そうした思考の固定化は、リーダーにとって致命的です。
藤吉 思考の固定化を防ぐためには、「良質の問い」を持ち続けることが有効なんですよね。
大野 はい、その通りです。思考は答えが出ると停止しますが、問い続けることで深まって、想像力が育まれます。それこそ、新たなアイデアや解決策を見いだす原動力です。本では、ポイントになる4つの問いを紹介しました。
①本質的か?
物事の核心を理解するためには本質を問い、深い洞察力を養うことが基本です。例えば、「この問題の背後にある主要な原因は何か?」「そもそも、このプロジェクトの根本的な目的は何か?」というふうに自問してください。
②長期間耐えられるものか?
あとで振り返ったときに、「当時はこれがベストな方法だと思ったけど、今となっては間違いだった」ということは多々あるものです。長時間労働や高いノルマはその典型例で、時間の洗礼に耐えられないものは本質的ではありません。「この戦略は5年後の成長も支えるものか?」「今の働き方は家族に誇れるものだろうか?」という問いが有効です。
③全体的か?
全体像を把握するために、異なる立場に立って現状を見渡すことも、思考の固定化を防ぐうえで不可欠です。「このベネフィットは会社都合になっていないか?」「お客様や株主から見るとどうか?」など、多角的に考えましょう。
④戦略的か?
場当たり的になったり、安易な思いつきやひらめきに踊らされないために、長期的な視点に立っているか、優先順位をつけて進行できているか、といった戦略面を確認する必要があります。「組織の長期ビジョンを実現するために、今、何をすべきか?」「リソースをもっと効果的に活用するには、どのような計画を立てるべきか」というふうに掘り下げてみてください。
大野 リーダーに限らず、この問いを常に持ち続けることができれば人間としての成長が見込めるのではないかと思っています。
自己との対話がすべての原点
大野 先ほどリーダーの読書についてお話しいただきましたが、問い続けるには自分と向き合う時間が必要で、それには読書が打ってつけだと思います(「 読書による学びの神髄は、『読み飛ばしたくなる箇所』にある 」)。
藤吉 リーダーの読書については、『「リーダーシップのベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』でも3位で紹介しました(「 リーダーの読書は「多読より良書をじっくり」 名著100冊の教え 」)。その際は「古典」と書きましたが、古典に限らず、リーダーは読書家が多いですよね。
大野 読書は、単なる情報収集ではなく、著者の思想や感情と交流する機会でもあります。共感したり、自分ならこう考えるという異論が芽生えたりして、自然と自己との対話が始まります。これこそ読書の意味だと思うので、僕は速読ではなく、スローリーディングを推奨しています。
藤吉 実業家で、ライフネット生命保険創業者の出口治明さんも読書家でも知られる方ですが、出口さんも速読反対派で、同じようなことをおっしゃっていました。取材でお会いしたときの話ですが、いわく、「速読は、観光バスに乗って世界遺産の前で15分停車し、記念写真を撮って『はい、次に行きましょう』といって移動する旅のようなもの。写真を見れば、『どこに行った』という記憶は残るけれど、『何を見たか』を明確に覚えている人は少ない。1カ所にとどまって見学をしたほうが、はるかに記憶に残る」と。作者が一生懸命書いた本に対して、一字一句丁寧に読むべきだ、とおっしゃっていたのが印象に残っています。
大野 さすが、いいことをおっしゃる! でももし、われわれのこの会話をライブで視聴する若者が500人いるとしたら、きっとブーイングの嵐でしょうね(笑)。今や、映画もYouTubeも、TikTokでさえも早回しで見る人が多いとか。音楽もイントロなしで、すぐ歌い出すものばかりですし。
藤吉 速読の本も売れているようですからね。もっとも、僕は速読したい人を否定するつもりはありません。読みたい箇所だけ読んでもいいし、知りたい情報について書かれた章だけ読むのもいいでしょう。ただ、本を「自分と向き合うツール」として考えた場合はしっかりと読んで、「これはどういうことだろう? 自分だったらこうするな」と考えながら読んだほうが成長につながる、という話です。
つまり、本にはテクニックを身につける読み方と、マインドを育てる読み方があって、前者は必要なところだけをサクッと読むので十分でも、後者はじっくりと時間をかける必要があるのだと思います。
大野 じっくり時間をかけて読むことで、自分自身と向き合うことができて、本が今の自分を映す鏡になってくれるんですよね。だから、これは自分にとって必要不可欠な本だ、と思うものはやっぱり丁寧に読んでほしいと思います。
読書特有の「静寂」が内面を育てる
藤吉 昨今、学びのツールとして動画を利用する人も増えていますよね。これまた否定するつもりはなく、動画は知識の即時的な獲得には優れていて、その利便性は認めざるを得ません。ただ、同じ知識に触れたとしても、情報が流れ込んでくる受動的な動画の視聴と、能動的に自分でたどる活字の読解は、僕たちの思考や内面にもたらす影響が根本的に異なると感じるんです。
大野 読書をするときと、動画を視聴するときの決定的な違いは「静寂」です。読書中は外部からの映像や音の刺激が途絶えるため、意識が自分の内側へと向きやすくなると思います。動画の視聴中は、意識は流れる映像に向きます。気になった箇所でいったん停止して、これはどういうことか、自分ならどうするか、などと考える人はあまりいないでしょう。読書はそうした内省が促されやすいから、著者との対話、ひいては自分との対話が深まるわけです。
僕は、難解な本を読むとき、1行読んでは考え込む、ということがあります。数行読んで全く歯が立たなくてため息をつく、ということも。それはいわば著者との格闘で、己との格闘です。その味わい深さは、動画では到底手に入らない体験だと思います。
藤吉 読書の静寂は、自分で考えて内省する「余白」をもたらしてくれますよね。動画にその余白は存在し得ません。
大野 灘校という、常に東大合格率上位に位置して、各界のトップリーダーを輩出する中高一貫校がありますよね。その元・国語教師でのちに教頭になった橋本武先生は、独自のスローリーディング教育法を実践された方として知られます。橋本先生は、中勘助の小説『銀の匙(さじ)』を中学3年間をかけてじっくり読み解く、という“伝説の国語授業”を行い、作中に出てくる動植物や漢方医学、風俗、言葉の語源など、あらゆる事柄を生徒に調べさせました。それによって、自ら知識を探求する力をはじめ、真の読解力や論理的思考を育成したわけです。
橋本先生の手法にならって、僕は「1冊の本を一生かけて読む」という気持ちがあってもよいと思います。多くの本を読んだからといって、必ずしもそれが優れた読書とは限りません。読書の真価は、ページをめくる速度ではなく、自己を変容させる深度にあると思います。
(構成=茅島奈緒深、写真=稲垣純也)
大野栄一(著)、日経BP、1980円(税込み)
藤吉豊、小川真理子(著)、日経BP、1870円(税込み)







