臨床心理士の中島美鈴さんによる新刊『 会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動 』から、上司や同僚の評価が気になるという悩みを解決、改善する方法を紹介。書籍から抜粋して再構成した第1回・課題把握編。

上司、同僚にわからないことを聞けない

ケース
 20代のショウさん。仕事がいまだに慣れずにつらい。わからないところはたくさんあるけれど、同じ部署の人はみんな忙しそうだし、下手なことを聞くと「こんなことも知らないのか」と思われそうで怖くて聞けない。
 結果、わからないことは一人で調べ続ける。誰かに聞けば一瞬でわかることでも過去の資料を遡ったり、マニュアルを探したりしてしまう。
 就業時間内に仕事が終わらず、いつも遅くまで残っている。
 上司はそんなショウさんの実情を知らないので、「残業が多すぎる割に成果が上がらない」と低く評価。ショウさんの努力は報われない。

 この悩みは、20〜30代から寄せられる相談で一番多い内容です。
 他人事なら、
 「早く誰かに聞けば解決できるのに」
 「間違ってもいいから進めれば誰かがフォローしてくれるのに」
 と思えることでも、いざ自分事となると、誰にも言えず、抱え込んでしまうのかもしれません。

 ここ10年ほどの傾向ですが、世の中が、「失敗できない」雰囲気に包まれているようにも思えます。私がカウンセラーを始めた2000年代ごろは、「人よりいい成績を残したい」「目立ちたい」という人が割と多くいました。しかし最近では、「とにかく人と同じがよい」「目立ちたくない」という人が増えました。そうした「無難路線」が仕事において、「下手な質問はできない」「失敗できないから冒険もしない」という形で現れているように見えます。

相談の要点
・こんなことも知らないのかと言われそうで、質問ができない
・一人で調べて残業し時間がかかる割に成果が出せず評価されない

認知行動療法の視点で捉える

 ショウさんがこんなにも無難路線で、何もかも自分で解決しようと抱え込んでしまう背景には、自分の無能さを周囲の人に知られたくない、知られてしまえば評価が下がるという強い恐れがあるようです。誰しもコンプレックスの一つや二つあるものですが、ショウさんは特に「能力」に関するコンプレックスが強くあったようです。認知行動療法でいう「スキーマ*」ですね。ショウさんには「自分はできない」というスキーマが強かったのです。ここで、能力に関するスキーマの例を挙げますので、みなさんもチェックしてみてください。

*スキーマとは、諸説ありますが、思春期くらいまでの経験をもとに身につく、私たちが世界を捉えるフィルターのようなものです。スキーマは思考の深いところに根ざし影響を与えています。

□ 少しでも自分のできていないところを他の人が知ったら無能だと思われそう
□ 経験のないことにチャレンジする時に「うまくいく気がしない」と不安になる
□ 経験のないことにチャレンジすることをなるべく避けている
□ プレゼンの準備やタスクは締め切りギリギリまで努力しないと気が済まない
□ 完璧主義だと言われる

 「私はできないんだ」というスキーマを持っていると、他人に褒められても「まぐれでうまくいっただけ」「本当の自分を知らないだけ」「お世辞で言ってくれているだけ」と自分を過小評価したり、割り引いてしまうのです。こうして見ると、一旦身についたスキーマは、なかなか書き換えられないことがおわかりいただけるでしょう。

「自分はできない」というスキーマが強いと、失敗できないという意識が強く、わからないことを質問できなかったり、一度注意されると自己否定してしまったりする(写真:metamorworks/stock.adobe.com)
「自分はできない」というスキーマが強いと、失敗できないという意識が強く、わからないことを質問できなかったり、一度注意されると自己否定してしまったりする(写真:metamorworks/stock.adobe.com)

 さて、話をショウさんの事例に戻しましょう。
 もしも、自分に自信があって「自分はできる!」というスキーマを持っている人がショウさんの状況に置かれたとしたら、仕事でわからないところを質問することに躊躇がないかもしれません。なぜなら、相手から「え、このぐらいも知らないの?」と言われたとしても、「自分はできる」というスキーマは揺るがず、口に出すかどうかは別として、「そうなんですよ。まだ入社してすぐなので、わからないんです」と思えるはずなのです。

 ショウさんは、「自分はできない」というスキーマの持ち主なので、相手の反応を敏感に受け取り、「無能なことがバレてしまう」「悪い評価を受けるだろう」という悲観的な未来のイメージを想定してしまうのです。こうしたネガティブな結果を予測してしまうと、人は不安になってしまいます。不安を感じると、その状況を回避するために、逃げ出すのか、闘うのかを選ぶことになります。闘争か逃走か、という言葉を聞いたことがある人もいるでしょう。ショウさんは、自分の評価が下がるのが怖くて、「無知を曝(さら)け出して質問する」ことから逃げ出し、一人で殻に閉じこもっている状態なのです。

 しかし、これが上司から見れば、「よくわからないけど、残業ばかりしている。何をしているかわからない部下はマネジメントしにくいな」「長時間かけている割に、あがってくる結果はたいしたことない。サボっているのか?」というふうに見えてしまっているかもしれません。評価を最も気にする人が、皮肉にも悪い評価を生む悪循環に陥っているなんて、つらすぎますよね。ショウさんは、まずはこの悪循環に気づくことが先決でしょう。

 後編では、認知行動療法の手法を使った解決策を伝えます。

会社がつらい、でも簡単には辞められないという方へ。臨床心理士の中島美鈴さんが、行政や企業で行ってきた研修やカウンセリングをもとに、具体的な職場の悩みを扱いながら、認知行動療法の手法を用いて自分で解決・改善できる方法を伝えます。

中島美鈴著、日経BP、1760円(税込み)