臨床心理士の中島美鈴さんによる新刊『 会社でいちいち傷つかない 認知行動療法が教える、心を守り成果を出すための考え方と行動 』から、上司や同僚の評価が気になるという悩みを解決、改善する方法を紹介。書籍から抜粋して再構成した第2回・課題解決編。

職場の人間関係を捉え直すだけで仕事が回り出す

ケース
 20代のショウさん。仕事がいまだに慣れずにつらい。わからないところはたくさんあるけれど、同じ部署の人はみんな忙しそうだし、下手なことを聞くと「こんなことも知らないのか」と思われそうで怖くて聞けない。
 結果、わからないことは一人で調べ続ける。誰かに聞けば一瞬でわかることでも過去の資料を遡ったり、マニュアルを探したりしてしまう。
 就業時間内に仕事が終わらず、いつも遅くまで残っている。
 上司はそんなショウさんの実情を知らないので、「残業が多すぎる割に成果が上がらない」と低く評価。ショウさんの努力は報われない。

 前回は、上司や同僚の評価を気にしすぎてわからないことを聞けないショウさんのケースをみてきました。今回は、認知行動療法のテクニックを使って、認知を変え、行動を変えていく方法をお伝えします。

 ショウさんには次の三つの認知行動療法のテクニックを使ってもらいました。

テクニック1 スキーマの自覚

 ショウさんには、まず「自分ができない」というスキーマ*を持っていることを自覚してもらいました。そして次に、仕事でわからないことがあって質問をためらってしまうような場面でそのことを思い出してもらったのです。

 「おっと、また自分ができないと思い込んでいるから、質問したら評価が下がると決めつけていた。違う違う」

 このように立ち止まることがスキーマに巻き込まれて自分を否定し、決めつけることを防ぎます。

*スキーマとは、諸説ありますが、思春期くらいまでの経験をもとに身につく、私たちが世界を捉えるフィルターのようなものです。スキーマは思考の深いところに根ざし影響を与えています。

思考の根っこにある「スキーマ」がネガティブに働き、できないと思い込んでいないか、一度立ち止まり認知を見直すことから、職場の人間関係は変わってくる(写真:ponta1414/stock.adobe.com)
思考の根っこにある「スキーマ」がネガティブに働き、できないと思い込んでいないか、一度立ち止まり認知を見直すことから、職場の人間関係は変わってくる(写真:ponta1414/stock.adobe.com)

 「評価を下げてしまうに決まっている」と思い込んでいる現実が、もしかしたら、単なる自分のスキーマが作り上げている虚構かもしれないのです。また、その両方が半分ずつあるのかもしれません。いずれにしても、一旦立ち止まってみないと、わかりません。私たちは、スキーマのメガネを通して見た風景を100%現実として受け止めてしまうのです。

 大切なのは、スキーマのせいかもしれないと、疑いを持ちながら立ち止まる習慣を持っておくことです。

テクニック2 不安イメージの具体化

 テクニック1を試しても、不安を感じている時には「理屈じゃスキーマのせいってわかるけど、不安なものは不安だよ!」と思ってしまいます。数ある感情の中でも、不安は最もコントロールが難しいものといわれています。そのため、理屈ではなかなかおさまらないのです。

 このような時には、「最も恐れている場面」について具体的に考えてみるのです。できるだけ最悪なシナリオを描いてみましょう。

仕事でわからないことを質問したとしたら最悪、どうなりますか?

「上司からはちゃんと調べてから聞けとか、こんなこともわからないのかとあきれられそう」

 最悪なシナリオを描いた割には、このぐらいでした。解雇されるわけでもなく、長時間罵られるわけでもなく、危害を加えられるわけでもなさそうです。具体的に想像してみると、漠然と心配するよりは意外にたいしたことのないものに変化します。「失敗したところでクビになる」とか「人に聞いて馬鹿にされたところで自分の人格が全部否定されるわけではない」などと自分の思考を書き換えていくこともできるでしょう。

 しかしショウさんの本当に恐れるべきシナリオは、実際には、質問しなさすぎて仕事が滞り評価が低くなっている可能性があるということです。これは短期的には無能さを隠すことのできている作戦ですが、長期的には悪い評価へつながる失敗かもしれません。

テクニック3 他者の視点で捉え直し

 認知行動療法では、自分以外の視点から物事を見つめ直してもらうことで、捉え方の幅を広げてもらうようにしています。こうすると視野が広がり、その悩みについて、より客観的に見ることができます。そうすると解決策も見えやすくなるのです。

 ショウさんには、次のように考えてもらいました。

もしも、仕事でわからないことがあるのに延々と調べ続けている後輩がいたら、先輩の立場として、どう思いますか?

 「急ぎの仕事でそんなことをされると困る。その仕事のやり方がわかるかわからないかだけでも早めに知らせてくれないと、教えようがない。マネジメントしにくい」

 ここまで答えて、ショウさんはハッとしました。

 初めて、上司から見た自分の姿が見えたような気がしたのです。

 一連の認知行動療法のテクニックを試してみたショウさんは、「短期的には恥をかいてでも質問した方がいいのかもしれない。上司としても、わかるかわからないかを早めに言われた方が、マネジメントしやすいだろう」

 こんなふうに自分の思考を書き換えていきました。

 「わからない=無能」なのではなく、わからないことを伝えることで、上司に誤解されず、正しい指示を受け、マネジメントしてもらいやすくなるのです。長い目で見たら、自分の実力を知ってもらっていた方が、それに応じた指導も受けられて、実力に見合った仕事を回してもらえて結果が出やすくなるはずです。

 ショウさんは、勇気を振り絞って試しに上司に質問してみました。すると、予想したより悪い顔はされなかったし、何より仕事が早く進んだのです! ショウさんの残業は徐々に解消していきました。

会社がつらい、でも簡単には辞められないという方へ。臨床心理士の中島美鈴さんが、行政や企業で行ってきた研修やカウンセリングをもとに、具体的な職場の悩みを扱いながら、認知行動療法の手法を用いて自分で解決・改善できる方法を伝えます。

中島美鈴著、日経BP、1760円(税込み)