なんとなく不調が続いているという人は、自律神経が乱れている可能性大です。小林弘幸・順天堂大学医学部教授による『はじめる習慣』(日経ビジネス人文庫)刊行を記念して2024年1月17日に行われたオンラインイベント(丸善ジュンク堂書店主催/聞き手:産業カウンセラー・イイダテツヤ氏)をもとに、自律神経を整え心地よく暮らす行動習慣を紹介します。
第1回 「小林弘幸 『今日が一番若い』三日坊主でもまず動いてみる」
スマホケースの色をオレンジにする理由
対話コンサルタント、産業カウンセラーのイイダテツヤさん(以下、イイダ) 前回は今なぜ「はじめる習慣」なのかを聞きました。今回は毎日の中でストレスを減らす工夫について教えてください。
順天堂大学医学部教授の小林弘幸さん(以下、小林) はい。ストレスの蓄積は自律神経の乱れにつながりますから、毎日のひと工夫でストレスを減らしていくのは大事です。
イイダ 小林さんの著書『はじめる習慣』には、具体的に「カバンが黒色だったら、スマホケースはオレンジ色にして見つけやすくする」と書かれていますね。この意味は?
小林 年齢を重ねるごとに認知機能が低下していきますからね。それにあらがっても仕方がないので、僕は派手な色のスマホケースにして、カバンのどのポケットに入れるか定位置を決め、スマホを見つけやすくしています。スマホが見つからずに「あれ、家に忘れてきたのかな」「ランチのときに置き忘れてきたのかも」と思うだけで自律神経は乱れます。
イイダ スマホが見つからないだけでも、自律神経が乱れるんですね。
小林 はい。一事が万事で、スマホを探していて電車に乗り遅れたり、約束に遅れたり、いろんなトラブルが起こりがちです。だから、スマホ1つにしてもかなり気をつけていますね。
イイダ それから本の中で面白いと思ったのが、「鍵を閉めたらドアに話しかける」。確かに僕も「あれ、家の鍵を閉めたかな」「車に鍵をかけたかな」と1日中気になってしまうことがあります。ドアに「はい、鍵をかけました」と確認すると安心できますね。小林さんも実際に声を出して確認していますか。
小林 していますよ。玄関の鍵や火の元、エアコンも確認しています。玄関の鍵をかけたカチャッという音と、「鍵をかけました」という声でダブルチェックをしています。
イイダ やっぱり年齢を重ねると忘れっぽくなりますよね。それは仕方がないんですか。
小林 確かに年齢を重ねると忘れっぽくなりますが、忘れっぽい人は若いときも忘れっぽいと思いますよ。何でも年齢のせいにしたり、「もう年だから気をつけないと」と不安になったりするよりは、具体策を講じたほうがいいですね。
人間のトラブルの9割は対人関係
イイダ この本では具体的な方法がいくつも紹介されているのですが、「嫌な気持ちになったら上を向く」もいいですね。こんなに簡単なことでいいのか、と驚きました。
小林 大事なのは「メンタルの問題をメンタルで解決しようとしない」ことです。不思議と上を向くという「行動」を取るほうが元気が出るんですよ。今さらですが『上を向いて歩こう』は実に名曲ですね。
イイダ 小林さんも上を向くことがあるんですか。
小林 毎日、上を向いています(笑)。生きているといろんなことがありますが、人間のストレスの9割は対人関係だといわれています。でも、下を向いても良いことは1つもない。それなら上を向いて、自分を鼓舞したほうがいいですね。
イイダ その上で「トラブルはリカバリーしないと決める」と。これも深いですね。
小林 トラブルをあわててリカバリーしようとすると、たいてい泥沼にはまります。「急(せ)いては事をしそんじる」と言いますが、まずはいったん気持ちを落ち着けて、誰かに相談するなどして、じっくり対処したほうがいいですね。
イイダ 確かに嫌な気持ちのままメールに返信したりすると、余計なトラブルが起きますね……。
小林 トラブルが起きたら、もう物理的に動かない。今は昔と違って、即座に電話やメールで連絡できてしまうから自制が必要です。あおり運転のように、こちらもやり返すと大事故になる心配もあります。
イイダ 今年は元日から能登半島で大地震が起き、翌日には飛行機事故と大変な思いをされている方が多いと思います。ニュースを見ることで、精神的に不安定になっている方もいるでしょう。そうしたときはどうしたらいいですか。
小林 例えば決まった時間に起床・就寝する、ストレッチをするなど何かルーティンをつくるといいですね。自分の心が乱れるのをどうにかしようとするのではなく、まず生活のリズムを整える。「心技体」という言葉がありますが、大事なのは「体技心」の順番です。まずは体を整える。すると心も整います。
イイダ 体技心の順番は覚えておきたいですね。
小林 ストレスは体のイライラもあれば、心のイライラもあります。大変な状況の方もいらっしゃると思いますが、そんな中でも「とにかく元気であればどうにかなる」と気持ちを切り替えられるといいですね。僕は今年に入ってから布団の上で、夜は正座して「今日も無事に過ごせました。ありがとう」と感謝をし、朝もまた正座して「今日1日、頑張ります」と自分に言い聞かせています。大変な毎日の中でも、どんな仕事をしていても、「元気であれば何とかなる」という意識を持っていると、毎日が整ってくると思います。
イイダ 小林さんは本も出して、テレビにも出て、元気なスーパードクターなのかと思っていたので意外です。
小林 患者さんからも「小林先生はいつも元気でいいですね」と言われるんですが、ぜんぜん元気じゃありません。とにかく、どうにか元気で頑張ろうと思っているだけです。だからネガティブなことは言わないようにしたり、深い呼吸をしたりと気をつけています。毎朝ジョギングしている人を見ると、「すごいなあ、とてもまねできない」と感心します。でも、元気じゃないからこそ、ストレスを減らす工夫を見つけたり、こうして本を書いたりしているのかもしれません。
イイダ はじめる習慣のためには、自律神経が乱れない健やかな毎日が必要だということですね。
文/三浦香代子 写真/鈴木愛子
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小林弘幸著/日本経済新聞出版/880円(税込み)


