「資格を取得する」「新しい分野の勉強をはじめる」「新規のコミュニティに参加する」……新年にあたり新たな挑戦を意識する人も多いだろう。もちろん素晴らしいことだが、何より大事なのは「今日が新しい人生のはじまり」とまず意識すること。自律神経研究の名医が実践する「自律神経を整え、心地よく暮らす」行動術とは。日経ビジネス人文庫『はじめる習慣』(小林弘幸著)から抜粋・再構成してお届けする。
最初にやるのは「机の上をきれいにする」
何かをはじめるにあたり、最初に必要なことは何でしょうか。
それはズバリ「机の上をきれいにする」です。実質的にも、比喩的な意味においてもまずは机の上をきれいにすることが大事です。
今、はじめたいことがあるけれど、なかなか手をつけられずにいる。あるいは「はじめる」といっても何をすればいいのかわからない。そんな人は多いでしょう。
どちらの人にもまずおすすめしたいのが、机の上や自分の周りをきれいに整理することです。
どんな人でも経験があると思いますが、「勉強しなきゃ」「仕事をしなくちゃ」と思っていても、机の上が散らかっているとなかなかその気になれません。
しかし、机の上が整理され、不要なものが乗っていない状態だと「さあ、はじめよう」と自然に思えるものです。
中には雑然とした状態でも勉強や仕事ができる人もいますが、少なくとも「なかなかはじめられない」「何をすればいいかわからない」という人ならば、まずは整理からはじめてみてください。
その際「机の上を完璧にきれいにするんだ」と過度に大きなゴールを目指すのではなく、ほんのちょっとでいいので片づける。これがコツです。
机の上に散らばっているペンや付箋を片づけるだけでもOK。無造作に置いていた本を本棚にしまうのでもかまいません。そうやって少しでも片づけはじめると、知らず知らずのうちに、いろいろ片づけてしまうものです。「はじめるハードル」さえクリアすれば、思った以上にはかどるものです。
そして、きれいになった机の前に座り「さあ、どうしようか」と考えてみてください。この時点で気持ちはリフレッシュされ、自律神経は確実に整っています。
あなたは自然に「はじめたくなっている」はずです。
終わったものを捨てる
片づけをするとき、ひとつ意識してほしいことがあります。
それは「終わったものを捨てる」です。何かをはじめるために片づけている場合には特に大事な意識です。
わかりやすいところでいえば、資格取得を目指してきたけれど、結局合格できず、別の道を目指すようなケース。そんなときに大事なのは、これまで使ってきた参考書や資料をすべて捨てること。
「せっかく勉強してきたのにもったいない」「もしかしたら、この先使う日がくるかもしれない」「思い出として残しておきたい」という人もいますが、捨てましょう。
人間の心はそんなに都合よく切り替えられるものではないからです。
目に見える形で「終わったものを捨てる行為」をしなければ、なかなか気持ちは切り替わってくれないのです。
恋愛でも、別れた恋人からもらったものをすべて処分することで気持ちを切り替える人は多いでしょう。これは理にかなっています。
「物理的にものを捨てる行為」によって気持ちがすっきりして自律神経も整ってきます。
私はよく「メンタルの問題をメンタルで解決しようとしない」と話していますが、何かを終わりにして次に向かいたいとき、いくら「気持ちを切り替えよう」とがんばったところでそうそううまくいきません。
必要なのは「物理的な行為」。次に向かうときには「物理的に終わらせること」が何より必要なのです。
何かをはじめようと思うなら、すでに終わっているものたちを勇気を持って捨ててください。「手放す」と表現してもいいでしょう。
物理的に手放すことであなたの気持ちはおのずと切り替わっていきます。
「30分だけ新たな気持ち」で取り組む
「はじめる」と聞くと、何か新しいことをしなければいけないと思われがちですが、決してそうではありません。これまでやってきたことに新しい気持ちで取り組む。これも立派な「はじめる」だと私は捉えています。
例えば、あなたにも「やりたくない仕事」「面倒な作業」があるはずです。その種の仕事はどうしても「嫌だなあ」「面倒くさいなあ」と思いながらダラダラやってしまいます。
そのときこそ思い出してほしいのが「はじめる習慣」です。
ダラダラ続けるのではなく、一度手を止めて深呼吸を5、6回して「さあ、今から30分だけ新たな気持ちで取り組もう」と切り替えてみてください。
正直いうと、私も外来の診察をしているとき「あと何人いるのだろう」「いつになったら終わるのか」などの思いにとらわれることがあります。
しかし、そんな状態で仕事をしてもパフォーマンスは下がり、早く終わるわけでもありません。むしろ集中力が下がり、いつも以上に時間がかかってしまいます。
嫌で面倒な仕事ほど、そんな非効率なやり方をするのではなく、とにかく「今から30分、新たな気持ちで取り組む」を試してみてください。
すると30分どころか、60分、90分と集中してしまっていることもよくあります。
日々自分が「なんとなくやっている業務」についても「もっと新たな気持ちで取り組むとしたら、どうするだろう?」と考えてみるのも有効なアプローチです。
今までずっとやってきたことでも新たな気持ちで取り組むようになれば、日々の充実度や満足度は違ってきます。
これも重要な「はじめる習慣」のひとつです。
三日坊主は当たり前。はじめるだけでいい
「何かをはじめることはできるのですが、それがまったく続かないんです」
そんな悩みをときどき相談されるのですが、私は迷わず「それって普通ですよ」と答えます。
慰めでも、気休めでもなく、それが純然たる事実。一度はじめたことをずっと続けられる人なんてほとんどいません。その人は継続する能力がずば抜けて高いのです。
一方、私も含めて普通の人なら三日坊主は当たり前。何かをはじめただけ優秀なくらいです。
一番よくないのは「続かなかった自分」を責めたり、クヨクヨ考えたりすること。続かなかったこと自体より、自分を責める行為によって自律神経が乱れ、コンディションが悪くなっていきます。
さらに悪いことに、「続けられなかった……」というネガティブな記憶によって次に何かをはじめることができなくなってしまいます。
何かをはじめて続かなかったら、またはじめればいいだけです。
それがまた続かなければ「これは私に向いてないのかな。じゃあ、ほかのことをやってみよう」と思えばいいだけです。
私は「はじめる習慣」を推奨していますが、決して「続かなければいけない」と説いていません。むしろ続かないのは普通。だからこそ、再びはじめたり、新しい何かをはじめたりすること自体を習慣にしてほしいのです。
ダイエットや勉強、散歩、日記、英会話など「続かないもの」は世の中にあふれています。
それでもいいので、ちょっとでも気になったなら、ぜひはじめてみてください。動画サイトで関連動画を見るだけでもいいですし、書店へ行って関連の本をパラパラと眺めるだけでもOK。
続かないのはごくごく普通のことなので「はじめること」をやめないでください。
小林弘幸著/日本経済新聞出版/880円(税込み)

