新刊『売り方の正解 小さなお店が生き残る50のヒント』の著者で、マーケティングコンサルタントの竹内謙礼さんは、これまで650を超すお店や小さな会社を取材、経営指導してきた。その竹内さんに、本書で取り上げたトピックをさらに深掘りし、寄稿してもらった。今回は「業務用」商品のすすめ。
「業務用」というマジックワード
業務用のソーセージ。業務用のヘアドライヤー。業務用の大容量パスタ…。商品に「業務用」という言葉がついているだけで、あなたは思わず商品を手に取りたくならないだろうか。
「業務用」という言葉は、量が多く低価格、高品質、丈夫でシンプル、などをイメージさせる。物価高が定着し、節約志向が高まるなかで、「業務用」というワードは、お客の目を引く魅力的なキャッチコピーになっている。
「業務用」という言葉が市場に浸透したのは、新型コロナウイルス感染が広がった時期と重なる。外出の自粛要請をきっかけに、消費者は買い物の回数を減らし、まとめ買いがトレンドになった。業務スーパーやコストコがテレビの情報番組などで取り上げられることが契機となって、まとめ買いで節約生活を楽しむ風潮が高まった。
同じ時期、業務用の“プロ向け”商品が消費者に注目され始めた。たとえば、ワークマンは、作業現場で使う安くて丈夫な服を、アウトドアウエアとして提案したことから、一般消費者が店舗に足を運んだ。美容室で使う大風量ヘアドライヤーや、清掃業者が使用する高圧洗浄機が通販番組などで紹介されるようにもなった。
ネット通販のモノタロウで専門工具や自動車の消耗部品を購入し、東京・浅草の合羽橋商店街でプロの料理人が使う調理道具を買う人も増えた。こうして「業務用」は、品質の高さとコスパを保証するマジックワードとして、市場に浸透していった。

業務用商品は普通の小売店やスーパーでも目につき始めた。10~20個もの商品を1まとめにして販売する方法は、消費者にとってお得なだけでなく、売り手にとっても客単価を容易に上げられるメリットがある。まとめ買いで1個当たりの商品価格を下げても、安売りのイメージはないし、大量に売りさばくことによって、在庫の回転率を上げることができる。
BtoB企業にとって、プロ向けの業務用商品を個人に売ることは、まさに“金脈”の発見であった。それはネットショップでも同様である。問屋を通さないから、ネット広告の費用がかかったとしても、消費者向けに販売したほうが利ざやを確保しやすくなる。
業務用商品は販促も容易
業務用商品は販路拡大も容易である。品質はプロ向けに実証済みなので、その点をアピールしやすい。また、価格訴求力があるので、ファクスやDMによるセールスが効き、展示会の場や飛び込み営業でも新規客を獲得しやすい。
これまでプロの専門職しか利用しなかった、極めてニッチな商品も、個人客に提案することによって新たなマーケットが生まれやすくなる。たとえば、養生テープを製造販売していたメーカーが、女性客から「はがしやすくて文字が書けるかわいいテープを作ってほしい」という要望を受けて、文具としてのマスキングテープが誕生した。これは、業務用から個人用にターゲットをずらすことで新市場が生まれた好例である。
業務用の商品を個人に販売するには、お得感をうまく伝えることが重要である。たとえば、業務用の5キロ入りパスタを販売する場合、「たっぷり60人分」「約2カ月分」など、お得感が伝わるキャッチコピーを添えることによって、コスパの良さを具体的にイメージさせる。また、「洋食レストラン用」「プロの料理人御用達」など、厳選された業務用商品であることを伝えれば、おいしさを同時にアピールでき、付加価値を伝えることができる。
一方、業務用の大きなサイズを販売する際は、持ち運びの難しさや食べ残しのリスクに配慮する必要がある。配送料を無料にしたり、袋をつけて小分けにできたりするサービスをつけるだけで、お客の満足度は大きく変わる。
特に業務用の食品は、長期間にわたって食べ続けてもらえるので、味になじみ、ファンになってもらいやすいという利点がある。LINEなども活用して、定期的に情報発信をすることによって、お客の囲い込みを進めるのもいいだろう。
業務用の商品には、使い方が特殊だったり、専門的な知識がないと使いこなせなかったりするものもあるから、注意が必要だ。「素人が業務用を使うのは難しい」と思わせないために、ホームぺージのFAQを充実したり、使用法を詳しく解説する動画を作ったりして、個人がストレスなく使える情報を提供する必要もある。
他方、業務用商品というのは使いこなせたときの喜びが大きいので、SNS(交流サイト)で写真や動画がアップされ、クチコミで広まりやすい。店側もSNSで拡散することによって、商品の認知度を高めることができる。
桁違いの提案をしてみる
桁違いの“まとめ買い”を提案してみるのもいいだろう。これは法人向けの例だが、生卵を業務用で販売する場合、30個よりも300個で提案したほうが、飲食店チェーンや食品工場からの大型発注を受ける可能性がある。
電気ストーブのような「1台買うのが当たり前」という商品も、30台、50台をまとめて業務用として販売すると、宿泊施設やイベント会社などからまとまった注文が入る可能性がある。
2025年9月にマイボイスコムが行った消費動向調査によると、「常に節約を意識している」と回答した人は21.3%に達し、データを取り始めた2011年以降、最も高い数値になった。また、購買意欲は「低い」が32.5%で、「高い」の10.1%を大きく上回った。物価高の定着、実質賃金の低下が消費に影響を及ぼしていることがうかがえる。
「こんなプロ向けの商品を買う消費者はいない」「こんな大ロットの商品は誰も買わない」というような、これまでの常識を捨てれば、厳しい消費動向の中でも新たなチャンスをつかめるかもしれない。
竹内謙礼著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)
