新刊『売り方の正解 小さなお店が生き残る50のヒント』の著者で、マーケティングコンサルタントの竹内謙礼さんは、これまで650を超すお店や小さな会社を取材、経営指導してきた。その竹内さんに、本書で取り上げたトピックをさらに深掘りし、寄稿してもらった。今回のテーマは「SNS(交流サイト)販促」。
SNS運用3つの条件
『日経MJ』に連載中の「竹内謙礼の顧客をキャッチ」では、小さな会社のマーケティングの成功事例を数多く紹介している。取材した企業は650社を超え、SNSの事例も数多く取り上げている。一方、コンサルタントとしてもSNS販促のアドバイスを積極的に行っている。
そうした経験も踏まえて断言するが、小さな会社のSNS運用は「難しい」の一言に尽きる。その難易度は年々上がっており、「SNSはもうやめたほうがいい」と撤退のアドバイスをすることも増えてきた。
なぜ、小さな会社のSNS運用は失敗するのか。その理由は、SNSというのはウェブマーケティングの技術よりも、「熱量」が大きく影響するからである。
SNSの運用には、以下の3つの条件が必須である。
- SNSが三度のメシよりも好き。
- SNSに投稿したいネタが山ほどある。
- ほぼ毎日SNSに投稿している。
小さな会社やお店で、SNSの運用に成功している人は、三度のメシよりSNSが好きで、生活のすべてをSNSにささげている人だ。24時間365日、常にSNSを通じてお客に喜んでもらえることを考え続けている。
「投稿するネタがない」と愚痴をこぼすこともない。以前取材したInstagramで成功しているある事業者は、「頭の中で投稿したいネタが渋滞している」とボヤくほどだった。
また、SNSで成功している人は、ほぼ毎日、投稿している。週2~3回の投稿で、うまくいっている小さな会社はほとんどない。たとえば、X(旧Twitter)で成功しているあるネットショップの経営者は、1日に15~20回の投稿をほぼ毎日行っており、「食事中もスマホを手放さない」と言っていた。

もちろん、これは特殊な成功事例である。数多くの小さな会社のSNSの運用を目にして分かったことは、SNSは仕事の合間や片手間で投稿し、結果が出せるほど生やさしいツールではないということだ。
なぜ、SNSはこれほどまで難易度が上がってしまったのか。1つは、SNS全般で、フォロワー数より、コンテンツの質を重視するようになったことが挙げられる。
たとえば、悩み事を解決したり、笑ってもらえたりするコンテンツは、ユーザーの「いいね」やシェア、保存などのリアクションの数が圧倒的に多い。そのような反響の大きい投稿は、SNSのAI(人工知能)が「質が高い」と判断し、その内容に見合うユーザーに対して露出を高めようとする。アプリを開いた途端、トップに現れたり、キーワードを入力し検索上位に表示されたりするページは、AIで選ばれた優秀なコンテンツの証拠である。
反対に、ユーザーの反応の薄いコンテンツに対しては、AIは「質の低いコンテンツ」と判断し、ユーザーの目に触れにくくする。たとえば、興味のない商品のセール情報だったり、文章が多くて読みづらい投稿だったりすれば、AIは「つまらない」と判断、検索結果に出さなくなるし、スクロールしても表示できなくしてしまうのである。
ショート動画が主戦場に
もう1つ、SNS運用の難易度が上がった要因は、ショート動画の新規客への接近が強まったことがある。TikTokやInstagramの「リール」、YouTubeの「ショート」などのショート動画は、AIが「そのコンテンツが好きそうな新規客」に対して、積極的にアプローチしてくれるので、SNSの重要な集客ツールとなっている。
たとえば、Instagramのリールの場合、AIがショート動画を見てくれそうな新規客を選定し、積極的にコンテンツを露出する。AIが厳選したユーザーは、高い確率でそのショート動画を好きになり、その後、本投稿などを通じてファンとなって、そのアカウントを積極的に見続けてくれるヘビーユーザーへと育っていく。
しかし、ショート動画が面白くなくて、最後まで見なかったり、反応がほとんどなかったりすれば、AIは「質の低いコンテンツ」と判断し、露出を下げるアルゴリズムが働く。その結果、新規客へのアプローチは鈍くなり、フォロワー数が増えず、集客ツールとして機能しなくなる。
このように、今やSNSにおいてショート動画は重要なコンテンツである。質の高いショート動画を作れるか否かが、SNS運用を大きく左右する。ただでさえ高いスキルが求められる動画制作において、30秒前後の尺で、人を楽しませたり、喜ばせたりするのは至難の業である。SNSが好きで、動画の撮影、編集に対して時間を忘れるぐらい熱中できる人でなければ、質の高いショート動画を頻繁に制作できないだろう。
ショート動画を制作するクリエーティブな能力は、その人のセンスや、表現することが「好き」という前提がないと高めていくことはできないから、慢性的な人手不足に陥っている。大手企業であれば、難なく優秀な人材を採用できるが、小さな会社の給与体系ではまず無理である。また、時間をかけて既存のスタッフを育成するほど、時間とお金に余裕はない。
だから小さな会社がSNSで勝ち抜くには、競合相手に負けないほどSNSへの熱量を持つしかない。しかし、SNSに全力で熱量を傾けられるという人は、思いのほか少ない。
どうしてもSNSで成功したいなら、自分の一番好きなSNSを運用することをお勧めする。たとえば、Xを見るのが好きなら、Xに注力する。YouTubeが好きなら、下手でもいいから動画を撮影し、YouTubeにアップしてみることから始めるのである。
Instagramがはやっているからといって、Instagramを見たことも投稿したこともない人を担当につけても、挫折するのは目に見えている。好きではないから途中でやめてしまうし、運営していても面白くないから、作るコンテンツも面白くなくなる。
まずはアナログ販促を学べ
いろいろなSNSに挑戦して、どれもうまくいかなかったならば、アナログの戦略に切り替えることを視野に入れたほうがいい。たとえば、ポスティングや新聞の折り込みチラシは、SNSよりは複雑でないので、実践してすぐに結果を出すことができる。苦手なことに取り組み続けるよりも、自分の能力に適した売り方を実践したほうが、短期間で結果を出す「売り方の正解」となる。
たとえば、商圏を絞ってロードサイドに目立つ看板広告を設置したり(「 竹内謙礼 小さなお店は『看板広告』を本気で作りなさい 」参照)、月に1回、近所でポスティングチラシを投函(とうかん)したりするほうが、低コストで確実に新規客とファンを増やし、売り上げを伸ばすことができるだろう。
そもそも、月に1~2回程度のポスティングのチラシを作れない人が、毎日の投稿が必要なSNSの運用をこなせるはずがない。簡単な野立て看板すら作れない人が、高度なクリエーティブ能力が求められるSNSのコンテンツを作るのは難しいのである。
まずはチラシや看板などのアナログな販促に取り組んで、狭い商圏のお客を獲得できるようになってから、SNS販促に取り組んでも遅くはない。アナログの販促で情報発信の基礎を学び、お客を情報で楽しんでもらう方法を学んだ後でSNSに挑戦したほうが、よりお客を熱狂させるコンテンツを発信できるはずである。
竹内謙礼著/日本経済新聞出版/1760円(税込み)
