内容紹介

雇用が不安定な人のほうが、セーフティネットも脆弱であるという問題を、どう解決する?
コロナ禍が浮き彫りにしたさまざまな社会課題を、最新のデータと調査をもとに丁寧に読み解く。

2020年以降の新型コロナウイルス危機は、私たちの仕事や生活にさまざまな影響をもたらし、生活困窮者のみならず、非正規雇用やフリーランスで働く人たちのセーフティネットの脆さも浮き彫りにしました。

しかしこれらの問題は、これまで長年解決策が探られてきた制度や政策の課題が表面化しただけとも言えます。たとえば、最新の調査・分析によると、実は最も対応が不足していたのは、生活が困窮しきってはいなくても、単に非正規雇用だったために失業給付がないような中間層のための所得保障であったことがわかります。

本書では、労働経済学、社会保障、労働法、人事管理などの気鋭の研究者が、それぞれの専門の立場から、現状のセーフティネットの制度的課題を明らかにするとともに、それを補完する集団の機能(ERGや労働組合)、制度を動かす基盤としての人と人、人と組織の必要な「つながり」の意義について、国内外で注目されたユニークな取り組み事例なども紹介しながら、縦横無尽に論じます。

雇用が不安定な人のほうが、セーフティネットも脆弱であるという問題を、どう解決するか。従来の措置に欠けているものは何か。「多様性」の尊重が、分断や孤立を加速させるという新たなジレンマに、どう対処するか。そのための必要な「集団」のあり方とは?

最新のデータと調査をもとに、現状の課題を解き明かし、今後求められる「安全網」とは何かに迫る一冊です。

目次

序章 安全とつながりの手応えを得るために
   玄田有史(東京大学社会科学研究所教授)

第1章 雇用のセーフティネットを編む──中間層に届かない支援
    酒井正(法政大学経済学部教授)

第2章 生活のセーフティネットを編む──誰もが利用できる安全網へ
    田中聡一郎(駒澤大学経済学部准教授)

第3章 セーフティネットの基盤を考える──必要な人に制度を届けるために
    平川則男(連合総研副所長)

第4章 職場の新たな「つながり」と発言──多様性のジレンマを乗り越える
    松浦民恵(法政大学キャリアデザイン学部教授)

第5章 セーフティネットとしての集団──法と自治の視点から
    神吉知郁子(東京大学大学院法学政治学研究科准教授)

第6章 ドイツの事例に学ぶ──「限界ギリギリのデリバリー運動」とは
    後藤究(長崎県立大学地域創造学部専任講師)

終章 これからのセーフティネットと集団のあり方
   玄田有史

あとがき