不祥事はどの企業でも起こりうる。それを隠ぺいしようとすると、マスコミの批判報道が繰り返され、致命的なダメージを受けてしまう。不祥事が起きた場合は、自ら公表することが必要だ。豊富な実務経験を持つ企業不祥事対策の第一人者、國廣正弁護士の著書、 『企業不祥事を防ぐ』 (日本経済新聞出版)から抜粋して解説する。
企業不祥事はなぜ深刻化するのか
企業不祥事を深刻化させる最大のファクターは「隠ぺい」だ。
不祥事はどの企業でも起こりうる。だが、それを隠したとなると、現場での不正といったレベルを超えた「意図的」で「組織ぐるみ」の行為とみなされ、企業のレピュテーションは大きく毀損(きそん)する。
企業にとって致命傷となるのは、最初の事件ではない。2番目の行動(隠したこと)だ。これを筆者は「2発目轟沈(ごうちん)の原則」と呼んでいる。船(企業)は1発の魚雷で沈むことはなく、2発目でとどめを刺されるということだ。
では、致命的なリスク拡大要素であるにもかかわらず、なぜ、隠ぺいが行われてしまうのか。不都合なことが起こったとき、誰しもそれを隠したくなる。「うまくすれば見つからないかもしれない」「この程度のことはマスコミも取り上げないだろう」「いちいち問題をつついていたら、困る人がたくさん出てくる」と考えるのは自然な感情だ。
しかし、今の時代、不祥事を隠し通すことは不可能だ。終身雇用が崩壊し、内部告発をためらわない社員も増えている。秘密情報もSNS(交流サイト)で瞬く間に拡散する。企業内では情報を持つ人間が1人だけということはあり得ない。必ず人の口から口へ(特に悪い情報ほど早く)伝わっていく。企業という組織の中で不祥事を「なかったこと」にするのは、「部屋の中にいるゾウを見るな」というに等しい。
不祥事は重大であればあるほど発覚しやすく、隠し通すことはできない。しかも、巧妙に隠した結果、事件発生から発覚までの時間が長くなればなるほど、発覚した場合の隠ぺい批判はより強いものになる。
報道を1回で終わらせる
隠ぺいをマスコミの事件報道という切り口で見てみよう。
事件が起こったが企業がそれを隠しており、それが数カ月後に発覚したとする。この事件がマスコミに報道されるときには、事件そのものに対する批判報道だけでなく、事実を隠していたという隠ぺい批判がプラスされることになる。むしろ、隠ぺいに主眼が置かれた報道になることも多い。
また、この場合、企業は公表準備ができていないので、きちんとした広報対応ができない。このため対応の不手際が責められることになる。さらに、事実を隠していたことから、「まだ隠されているものがあるのではないか」という臆測報道を生む。
このように、事件を「隠す」という行為は、事件自体に対する批判のみならず、隠ぺい批判報道、対応の不手際批判報道、臆測報道を誘発する。そして、これらの報道は連続して行われ、毎日のように企業名が新聞紙上をにぎわすことになり、企業のレピュテーションは大きく毀損する。つまり、企業価値を大きく損なうのは、連続報道だということになる。
逆に、企業が自分から事件を公表した場合はどうか。この場合でも発生した事件自体を消し去ることはできないため、事件に対する批判報道は避けられない。しかし、企業は自ら事件を公表しているので隠ぺい批判報道はできない。企業自身が準備の上で公表するので、対応の不手際を批判する報道を避けることも可能になる。きちんと事実を調査して公表すれば事実関係を明確に説明できるため、臆測報道も回避できる。
つまり、不祥事に対する批判報道から逃れることはできないが、連続報道は避けることができる。つまり、「報道を1回で終わらせる」ことが可能になる。
このように、企業は自ら事件を公表することで、事件に対する批判だけに報道の対象を限定して、それ以上の批判報道への拡大を防ぐことができる。その上で、企業が事態を収拾させるための対応策も同時に示すことができれば、不祥事を克服しようとする前向きの姿勢をアピールして、批判を低減させることも可能になる。
大手新聞社社会部長の証言
広報担当者の中には、いまだに「いかに報道を防ぐか」を使命と考える古いタイプの人がいるが、時代錯誤もはなはだしい。
筆者がパネリストとして参加した危機管理広報についてのあるパネルディスカッションで、大手新聞社の社会部長は次のように述べた。
「新聞社としては、事件が発生している以上、たとえ企業が事件を自主的に公表したとしても、これを批判する記事は書きます」
「しかし、企業が自主的に公表した場合、『新しい事実』は出てこないので、続報が書きにくいんですよ。また自主的に公表したことについては、当然、肯定的に評価して書きます」
「逆に、企業側が隠してくれると、いくらでも記事は書ける。『隠ぺいはこうして指示された』『実はこうだった』という記事で何週間も追及キャンペーンを張れることもあります」
「社会部としては、隠してくれたほうがありがたい」
危機管理広報でもっとも大切なことは、レピュテーション・リスクをどのように最小化するかということだ。そのためには「報道されないこと」ではなく「報道を1回で終わらせ、連続報道を防ぐこと」を目指さなければならない。
なぜ不正は起きるのか? 不祥事を防ぐために必要な対策は? “規則を厳守”するからうまくいかない。「コンプラ疲れ」を脱する3つのカギを明かす。企業不祥事対策の第一人者で、日本経済新聞社「2018年 企業が選ぶ弁護士ランキング」(危機管理分野)第1位の著者が解説。
國廣正著/日本経済新聞出版/1870円(税込み)