企業ネットワークの構造を可視化する「ネットワーク図(ネットワーク構成図)」を描く上では、様々な定石があります。本特集は書籍『ネットワーク図の描き方入門』(2025年12月22日発売、日経BP)から抜粋した内容を基に、これらの定石を易しく解説します。第1回はネットワーク構成図の役割や種類を見ていきます。

 ネットワーク構成図は、ネットワーク機器やパソコン、サーバーといった情報システムの構成要素とのつながりを示した図です。「ネットワーク図」や「トポロジー図」などとも呼ばれます。あなたが企業のIT部門でネットワークを担当していれば、きっと1度は見たことがあるでしょう。

ネットワーク構成図の例
ネットワーク構成図の例
(出所:萩原 学)
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実際に描いてみると意外と難しい

 では、ネットワーク構成図を実際に描いたことはありますか。描いたことがあるあなたは、描いたときに「思ったよりも難しい」と感じませんでしたか。

 ネットワーク機器とパソコンなどのIT資源を線で結べばよいわけですから、簡単に描けそうです。ところが、いざ描いてみると「必要な情報を全て記載したらごちゃごちゃしてしまった」「多くの線が重なってしまい分かりにくい」といった悩みに陥りがちなのです。

 でもご安心ください。ネットワーク構成図を描く上では、実は表現方法や描く順番といった様々な「定石」があります。定石を取り入れることで、仕事に役立つ「良いネットワーク構成図」をあなたも描けるようになります。

システムの構成要素の配置とつながりを表す

 ネットワーク構成図は、情報システムのネットワークが持つ「構造」を表すための図です。情報システムを構成する様々な要素がどこに配置されていて、どのようにつながっているのかを表現します。

 様々な計算機リソースが連携して動く情報システムを「都市」に例える場合、ネットワーク構成図は都市の姿を図示する「地図」に当たります。

都市の道路地図と情報システムのネットワーク構成図の比較
都市の道路地図と情報システムのネットワーク構成図の比較
(出所:萩原 学)
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 都市では、住宅地や商業地、工業地域といった区画をひとたび決めて道路を敷設すると、後から変えるのは大変です。道路に面する区画はもちろん、その道路を経由してやり取りする離れた区画にも影響を及ぼすからです。

 そのため新しく都市を作るときには、地形だけでなく周辺地域の産業や隣接する都市との物流なども考慮し、適切な区画配分と今後の発展に必要な道路網を検討する必要があります。検討する際には、都市計画に必要な様々な情報を盛り込んだ地図を作成します。

 情報システムも同様です。一度作って稼働させたネットワークの構造を変えると、ネットワークにつながる様々な構成要素が影響を受けます。従って、情報システムの設計においても様々な情報を基にした配置を検討する必要があります。例えば次のような情報です。

●システムのどこにどのような計算機リソースがあるのか
●その上でどのようなソフトウエアが動作しているのか
●システム構成要素間でどのようなデータがどれくらいの量やり取りされているのか

 ネットワーク構成図は構成要素の配置を検討する過程で必要になる、情報システムに対する「地図」といえます。「地図」があることで、次のような設計・運用上の検討ができるようになります。

●システムの構造、どこに何が配置されているかを理解する・最適化する
●利用者やシステム構成要素間の通信(コミュニケーション)の問題を把握し、解決する
●システムの拡張や縮退、要求変更に対してどのように変更すべきかを検討する
●検討した内容を他の関係者と共有して議論する

設計でも運用でも活用しがいがある

 ネットワーク構成図を描く場面や、活用する場面についても触れておきましょう。結論から言えば、ネットワークの構築・設計や運用の検討、ステークホルダー(利害関係者)への説明など、様々な場面でネットワーク構成図が役立ちます。

 特にネットワークの構築・設計や運用を検討する際に有用です。ネットワークの検討は一般に「あるべき情報システム像」、つまり、達成したい状態を「要求(インプット)」として始めます。構築・設計であれば「新しいシステムを動かせるようにネットワークを強化したい」、運用であれば「ネットワークが関わるシステムトラブルを解消したい」といった具合です。

 どの場合も、達成したい状態の実現方法を考えなければなりません。その過程でネットワークの構造や、目的を達成するために組み合わせられる手段を整理する必要があるでしょう。

 こうした状況でネットワーク構成図が役立ちます。図を描くことによってネットワーク構造の把握や手段の検討が容易になります。

4種類あるネットワーク構成図

 ネットワーク構成図には複数の種類があります。ネットワークの構築・運用に携わる現場では一般に、これら複数のネットワーク構成図を目的、用途に合わせて使い分けます。

 この特集では4種類の図を紹介します。(1)全体概要図、(2)論理構成図、(3)物理構成図、(4)物理・論理合成図――です。なお、物理・論理合成図は筆者が名付けた独自の呼び方です。それぞれの図が何をするための図か、どのように役立つのかをざっと眺めておきましょう。

 (1)全体概要図はネットワーク全体を大まかに描き出した図です。情報システムで実現したいことの整理と、そのために必要なネットワーク機能を検討する土台となります。

 情報システムを活用する現場では一般に、サーバーやパソコンといったコンピューターを組み合わせて実現したい要件と、その要件を満たすためにどのようなネットワーク機能が必要になるのかを、全体概要図を作成しながら整理・検討するわけです。

全体概要図のイメージ
全体概要図のイメージ
(出所:萩原 学)
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 (2)論理構成図は、システムの構成要素であるネットワーク機器やコンピューター同士がどのように通信するのかを論理的なネットワーク構造として示すための図です。例えばサーバーを役割別にどうグルーピングして異なるネットワークに分割するのか(サブネット)や、分割されたネットワーク間でどのように通信がされているのかなどを表します。

 一般に、業務要件や必要なネットワーク機能を整理した後の設計フェーズで作成します。整理された業務要件をネットワーク技術、つまりIP 通信の仕組みでどのように表現するのかを、論理構成図を描きながら検討するわけです。

 論理構成図は運用フェーズでもよく使われます。例えば、通信トラブルが発生したときに役立ちます。論理構成図を参照しながら、通信ができない機器を確認することで、どの範囲に影響が及んでいるのかが一目で把握できます。

論理構成図のイメージ
論理構成図のイメージ
(出所:萩原 学)
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 (3)物理構成図は現実世界のコンピューターやネットワーク機器、ケーブルといった機材をどこに、どのような方法で設置するかを示す図です。例えば、ネットワーク機器などの機種名やポート、ケーブルの規格や長さ、機材の設置場所などの情報を盛り込みます。

 論理構成図では、業務要件を満たす論理的なネットワークの構成、例えばIP アドレスの割り振り方法などを検討しました。検討の結果を受けて、現実の環境でどのように実現していくかを考えます。そのために物理構成図を描くわけです。

物理構成図_のイメージ
物理構成図_のイメージ
(出所:萩原 学)
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 ネットワーク設計の文献は一般に、論理構成と物理構成のそれぞれで図を作成するところまで解説します。この特集ではさらに、それらの図を合成する(4)物理・論理合成図を紹介します。

 情報システムの構築において、設置済みの機器や配線を置き換える作業は時間、費用ともに大きくかかります。これを避けるには、設計の段階で論理構成と物理構成の整合性が取れているのかをチェックすることが大切です。

 具体的には、これまでに検討してきた論理構成図と物理構成図をまとめ、システムに対する要求を、物理的な仕様や制約の中でも実現できるかどうかを検討します。

 このような検討で物理・論理合成図が必要になります。現在稼働する多くの情報システムで「仮想化」と呼ばれる技術が導入されているからです。

物理・論理合成図のイメージ
物理・論理合成図のイメージ
(出所:萩原 学)
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 仮想化技術を使うと、物理的な構成と論理的な構成をある程度切り離して考えられる利点を得られます。その半面、どこに何があるか、どのようなデータが流れているのかが分かりにくくなるという複雑さを生む原因にもなります。

 特に、仮想化の活用が進んだ大企業(エンタープライズ)の情報システムでは、論理構成図で検討する構造と、物理構成図で検討する構造とは大きく異なることが当たり前になっています。論理と物理が明確に分かれた図だけでは整合性を検討しにくく、物理・論理合成図が必要になるのです。

日経クロステック 2026年1月9日付の記事を転載]

多くのIT現場で使われているにもかかわらず、描き方はあまり伝わっていないネットワーク図(ネットワーク構成図)。実は、描く手順である「基本の6ステップ」をはじめとして、描き方に様々な「定石」があります。本書が紹介する定石を体得すれば、あなたも業務に役立つネットワーク図を迷いなく描けるようになります。

萩原学(著)、木村博之(監修)/日経BP/3300円(税込み)