企業ネットワークの構造を可視化する「ネットワーク図(ネットワーク構成図)」を描く上では、様々な定石があります。本特集は書籍『ネットワーク図の描き方入門』(2025年12月22日発売、日経BP)から抜粋した内容を基に、これらの定石を易しく解説します。第2回はネットワーク構成図を描く手順の「基本の6ステップ」を紹介します。6ステップを覚え、見よう見まねで描く方法から卒業しましょう。
「良い」ネットワーク構成図はネットワークに関する業務をする上で実現したいことをうまく伝達できる図です。良いネットワーク構成図を描く上では、6つのステップを踏みます。
具体的には、(1)図を描く目的を決める、(2)構成要素をリストアップする、(3)表現ルールを決める、(4)どこに何を置くのかを決める、(5)ノード間をヒモで結ぶ、(6)ラベルや記号で情報を付加する――です。順に見ていきましょう。
ステップ(1) 目的を決める
最初のステップは「目的を決める」です。図を作る目的、つまり相手に伝えたいことをはっきりさせます。誰が何のために使うのかによって、ネットワーク構成図に記入すべき情報は変わってきます。目的を設定することで図に掲載する情報や目立たせる情報を検討する際の指針となり、良いネットワーク構成図を描きやすくなります。
目的がはっきりしないままネットワーク構成図を描こうとしても、どんな情報を盛り込めばよいのか迷って手が止まりがちです。なんとか図を描けたとしても、図をうまく活用できないことが多いです。不要な情報がたくさん載っていて分かりにくかったり、必要な情報を漏らしていたりしがちだからです。
「誰」に「何」を伝える図か明確にする
目的を決めるコツは、「誰」に「何」を伝える図なのかを明確にすることです。「良いネットワーク構成図はどのような図か」について説明したときに触れましたが、図はあくまでも道具にすぎません。図によって誰かに情報を伝え、何か(業務、タスクなど)を達成できて初めて価値が生まれます。
新人に仕事を依頼する場合と、ベテランの先輩に障害対応について報告する場合では、相手が前提とする情報も実現したいことを理解するために必要な情報も大きく異なります。誰に何を伝え、何を実現したいかによって、図に含めるべき情報や表現方法が変わるわけです。
ステップ(2) 構成要素をリストアップする
「誰」に「何」を伝える図なのかが分かる目的を設定できたら、その目的を達成する上で図に含めるべき構成要素をリストアップしていきます。長文を執筆するときはいきなり書き始めずに、目次案やアウトラインを作るというプラクティスがあります。ネットワーク構成図でも同じように、概要を固めておくわけです。
リストアップしたい構成要素は主に2つあります。1つは、ネットワークを構成する「もの」です。ルーターやスイッチといったネットワーク機器と、それらネットワーク機器が備える機能などが当たります。
もう1つはネットワークの「利用者」です。誰が、ネットワーク上のどこにいて、何をするのかが分かる必要があります。このとき、「利用者」は人ではなく他の機械やシステムかもしれません。どこから、どのようにネットワークが使われるのかを把握しましょう。
これらの要素を、設定した目的と照らし合わせながら検討します。例えば、「ユーザー部門」に「ネットワーク刷新の概要」を伝える図であれば、ネットワーク機器の機種名やポート数などの情報は必要ないでしょう。一方、「IT部門の担当者」に「ネットワーク構成の変更作業手順」を伝える図であれば、機種名などの情報は大切です。
ステップ(3) 表現ルールを決める
構成要素をある程度リストアップできたら、表現ルールを決めるステップです。ルーターやスイッチといったネットワーク機器や、機器同士を結ぶリンク(線)などの構成要素を、どのような記号(視覚的要素)を使って表現するのかを決めます。
凡例を先につくる
表現ルールを決めるに当たってお薦めしたいのが、ネットワーク構成図に掲載する凡例を先につくることです。先につくっておくことで、いわばネットワーク構成図の「用語集」として機能します。「用語集」を参照することで、構成要素を迷いなく表現しやすくなります。
ネットワーク機器やサーバーといった主なノードは一般的に、アイコンや図形(四角形・箱)で表現します。アイコンにする場合は、オープンソースや機器ベンダーなどが公開する無料のセットを利用できます。
表現ルールを決める際は、既存のネットワーク構成図のルールも配慮しましょう。全体のレイアウトや使われる記号、色などのルールを複数の文書で統一しておくと、少ない労力で相手に情報が伝わりますし、図を見る側も誤解しにくくなるからです。
ステップ(4) どこに何を置くのかを決める
凡例をつくれたら、どこに何を置くのかを決めるステップです。様々な構成要素の配置をそれぞれ検討します。
まず全体の大まかな構造を考える
配置はまず、部分よりも全体の大まかな構造を考えましょう。ネットワークには基本となる「型」「パターン」があります。
例えばコア、ディストリビューション、アクセスといった階層構造を持たせます。これらの型、パターンを意識して、「コアスイッチはこの辺りに、アクセススイッチはこの辺りに置こう」と配置を検討するわけです。
構造や様々な要素の配置を考えるときには多くの人が知るルール、具体的には物理現象や慣習、アナロジーなどを取り入れることをお薦めします。
一般的に、図を作成する上では物理法則の天地や上下左右、慣習の東西南北、視線移動の方向などがポイントになります。視線移動の方向とは、横書きであれば左から右、縦書きでは上から下へと文章が流れる言語が多いことを応用したものです。
先に見せたい構成要素を左に配置し、次第に右へと流れていくように配置します。そうすると見る側にとって自然な流れになります。
ステップ(5) ノード間をヒモで結ぶ
箱(ノード、インターフェース)の置き場所が決まったら、ノード同士のつながりを示す「リンク」を表現するためにそれぞれをヒモ(線)で結びます。情報システムの構築・運用では様々な図を描きますが、リンクを明示的に扱うところがネットワーク構成図の特徴といってよいでしょう。
箱の間を結ぶだけだと思うかもしれません。しかし、ヒモをうまく表現できるかどうかで図の分かりやすさは大きく変わります。ヒモを見やすくするポイントは多岐にわたるため、この第2回では基本的なコツに絞って解説します。第4回で詳しく解説します。
ヒモは原則として実線で描く
ヒモは原則として実線で描きましょう。二重線や点線などでも描けます。ただ、ネットワーク構成図は多数の線を描くことが多いため、複雑な線を使うと分かりにくくなりがちです。例えば点線は、線が交差するときのポイントや折れ線の線が折れる位置を識別しにくくなります。
ただし、実線以外の線を絶対に使っていけないわけではありません。特に点線は、意味を効果的に付与できるシーンがあります。
例えば「今は存在しない」という意味です。現状のネットワーク構成図に追加する予定のリンクや、以前に存在したリンクを表現するときに、点線を使うことで読み手にイメージしやすくなります。
交差は可能な限り避ける
ヒモの交差は可能な限り避けましょう。ヒモの主な役割は、ある2つの端点(ノードあるいはインターフェース)の関係を表現することだからです。ある端点と接続している端点を正確に突き止められる必要があります。ヒモが交差すると「分岐」が発生し、接続先を間違えてたどってしまう原因となります。
ヒモが交差して正しい接続先を読み取りにくいときは、工夫が必要です。お薦めの表現方法は「ジャンプ」と「重なり」です。
ジャンプは線が交差する箇所で、一方に「飛び越し点」などと呼ばれるマークを付け、もう一方をまたぐ表現手法です。後者の「重なり」は交差する箇所で一方の線を分断し、もう一方をくぐっているように見せる手法です。
ステップ(6) ラベルや記号で情報を付加する
線で要素間を接続できたら、続いて運用などに必要な情報を追加しましょう。ネットワーク構成図を作成する目的と合った情報を入れておくことで、図が分かりやすくなります。
情報を追加する方法はいくつかあります。1つは、線の上または近くにテキストのラベルや記号を置く方法、もう1つは線の太さや種類などを工夫することです。どのようにラベルや記号を配置するかによって、見やすさが変わってきます。
情報を置くのは線の上か、近くか
テキストラベルの配置方法には大きく2つの観点があります。1つは、リンクを表すヒモ(線)の角度にかかわらず水平に配置するか、角度に合わせて配置するかです。もう1つは、線の近くに置くか線上に置くかです。2つの観点の組み合わせで、4通りの配置方法が考えられます。
1つ目の観点である角度に注目します。ラベルを水平に付ける方法は線の角度をそろえる手間がなく、作図の観点では手軽です。ただ、どの線と対応するラベルかが明確に分かるように位置を決めましょう。リンクの周辺に十分な余白がないときは適切な位置を確保しにくく、線とラベルの対応が分かりにくくなりがちです。
一方、線の角度とラベルの角度をそろえて配置するとどうでしょうか。線とラベルの組み合わせを余白の有無にかかわらず認識しやすくなります。作図の手間は、線の角度に合わせず水平にラベルを付ける方法よりもかかります。
ここまで6つのステップをたどりました。基本の手順をたどることで、ネットワーク構成図を一通り描けたはずです。
[日経クロステック 2026年1月13日付の記事を転載]
萩原学(著)、木村博之(監修)/日経BP/3300円(税込み)







