生成AI企業の台頭とともに、テキスト生成や画像生成の技術は目覚ましい進歩を遂げている。しかし、その運営にかかるコストや厳しい競争環境から、これらの企業が構築するビジネスモデルが長期的に持続可能か疑問視されつつある。『生成AI・30の論点2025-2026』(城田真琴著/日本経済新聞出版)より、その問題点を詳しく見ていこう。
OpenAI、急成長の陰に巨額損失
OpenAIはChatGPTの爆発的な普及により、史上最速のペースで成長を遂げている企業の一つだ。米国の複数のメディアによる報道を総合すると、OpenAIの2024年の年間収益は37億ドルに達する見込みで2023年の16億ドルから約230%も増加する。しかし、この急成長の陰で、OpenAIは莫大な運用コストに直面している。
2024年の年間運営費用は推定87億ドルに達するとされ、内訳は以下の通りである。
(1)推論コスト:約42億ドル(マイクロソフトのクラウドから提供される計算資源に対する支出)
(2)トレーニングコスト:約30億ドル(モデルのトレーニングとデータに関する費用)
(3)人件費:約15億ドル(推定1500人の従業員に対する報酬)
年間収益が37億ドルに対して、運営費用が87億ドルとなると、2024年の損失額は約50億ドル(約7500億円)に達することになる。
OpenAIは収益源としてChatGPTの有償版「ChatGPT Plus」や企業向けの「ChatGPTエンタープライズ」などのChatGPTのサブスクリプションサービスと呼び出し数に応じたAPIの利用料による収入を挙げており、これらが急成長しているにもかかわらず、運営費用の増大を補えない状況となっている。
OpenAIの成長は提携関係にあるマイクロソフトやアップル、エヌビディアなどからの外部資金に大きく依存しており、技術的リーダーシップを維持するためには巨額の投資が必要とされている。長期的には、技術革新によるコスト削減が不可欠であり、現行のビジネスモデルのままで持続可能かは疑問視される。
CEO(最高経営責任者)のサム・アルトマン氏は、「OpenAIはシリコンバレー史上最も資本集約的なスタートアップである」と述べており、今後も大規模な資金調達が不可欠であることを示唆している。
Stability AIの苦境
一方、Stability AIは、「Stable Diffusion」などの画像生成AIモデルで知られ、オープンソースAIの旗手として注目されてきた。しかし、Stability AIは、2023年の予想収益が1100万ドルに対し、コストは1億5300万ドルに達するとされ、厳しいキャッシュフローの問題を抱えている。主な収益源は以下の3つである。
(1)「DreamStudio」の利用料:ユーザーがStable Diffusionの画像生成機能をAPI経由で利用できるオンラインプラットフォーム
(2)AIに関するコンサルティングサービス
(3)企業向けのカスタマイズサービス
一方、支出のうち、大きな割合を占めるのは、AWS、Google Cloudなどのクラウドサービスの利用料で、年間9900万ドルに上る。このクラウドサービスプロバイダへの支払いの遅延が頻発しているとされ、同社の資金繰りの厳しさを物語っている(その他のコストは人件費等で5400万ドル)。さらにはメディアライブラリ企業であるゲッティから著作権侵害で訴えられるなど訴訟リスクも抱えている。
Stability AIは苦境から脱出するため、サムスン、Snap、Canvaなどの企業や、シンガポール政府との提携を模索したが、条件面で合意に至らなかった。また、エヌビディアやグーグルなどからの資金調達も目論(もくろ)んだが、不調に終わっている。
深刻な経営危機に直面した同社は、創業者でCEOを務めていたエマド・モスタケ氏が2024年3月に退任し、一部では買収を模索していると報じられた。
しかし、2024年6月、一転してSound Ventures、Lightspeed Venture Partnersなど複数の投資家からの資金調達に成功したことを発表した。そして、映画製作と視覚効果のトップ企業であるWeta Digitalの前CEOであるプレム・アカラジュ氏が新たにCEOに就任することも合わせて発表し、当面の危機は脱したようだ。
Stability AIはオープンソースAIの旗手として注目を集めてきたが、オープンソースであるがゆえに収益化の難しさが際立っている。一般的にオープンソースモデルは、技術の普及と発展に大きく貢献する一方で、直接的な収益化が難しい。
Stability AIは、企業向けのカスタマイズサービスや、高度な機能を備えた有料版の提供などを通じて収益化を図っているが、現状ではコストを賄うには至っていない。
OpenAIとStability AIの2社の収益状況から見えてくるのは、AIモデルの推論、及びトレーニングコストが莫大であり、現状ではAIモデルの利用料収入だけではカバーしきれていないということだ。オープンソースをメインに展開するStability AIの場合は、多くの利用料収入は見込めず、さらに事態は悪化する。
現在のビジネスモデルは持続可能か
生成AI企業、特にスタートアップの現在のビジネスモデルは、外部資金に強く依存している。そのため、資金調達が停止すれば短期的には経営が厳しくなる可能性がある。一方で、将来の収益予測が楽観的である限り、投資家は引き続き資金を提供する。実際、OpenAIは、2024年10月にマイクロソフト、エヌビディア、ソフトバンクなどが参加し、1570億ドル(約23兆円)の企業評価額で66億ドル(約9670億円)の資金調達を完了したと報じられている。
OpenAIの収益は2025年に2024年の3倍以上の116億ドルに達し、2029年には1000億ドルに到達すると予想されており、今後も急成長が続く見込みである。巨額の資金調達に成功したのは、この楽観的な収益予測の裏付けがあったからである。
ただし、こうした大規模な資金調達に成功するスタートアップは決して多くはない。推論やトレーニングにかかるコストを削減し、収支構造を抜本的に変えられなければ、数年後まで生き残っている企業は一部に限られるだろう。
収支構造の見直しポイント
現在の生成AI企業は、運用コストが高く、収益がそれに見合わないという問題に直面している。このため、持続可能なビジネスモデルを実現するためには、収益を増加させつつ、運用コストを下げる努力が必要になる。
すでにOpenAIはモデル機能の向上を根拠に、有料版のChatGPTの料金を現在の月額20ドルから2024年末までに22ドルに値上げし、その後5年間で44ドルにまで引き上げることを示唆している。
これに加えて、新たな収益モデルの導入も検討する必要がある。企業向けAIソリューションの強化、あるいは広告モデルの導入などである。すでにOpenAIはAI検索サービス「SearchGPT」で広告モデルの導入を検討しているとされており、多様な収益モデルを持つことで、収益の安定性の向上が期待される。
一方で、AIモデルの推論やトレーニングコストの削減に寄与する技術革新が不可欠である。例えば、より効率的なハードウェアの開発や、トレーニングデータの効率化、推論プロセスの最適化などである。これらが実現すれば、収益とコストのバランスが取れ、事業の持続可能性が向上するはずだ。
まとめ
OpenAIやStability AIが直面している財務的な課題は、生成AI企業全体のビジネスモデルの持続可能性に対する大きな警鐘である。特に、生成AIの運用コストが非常に高く、収益がこれに見合わない場合、そのビジネスは長期的に持続不可能となる可能性が高い。
現状では外部資金に大きく依存しているが、外部資金に依存し続けることは、不確実性を伴い、投資家からの圧力も受けやすい。
このため、将来的には自己資本を拡大し、外部資金に依存しない経営体制を整えることが今後の重要な課題となるだろう。
城田真琴著/日本経済新聞出版/2200円(税込み)


