IT業界で数多くのサービスを生み出してきた経営者・川邊健太郎さんと、ブロガーとして活動し、現在はnoteやソーシャルメディアの企業活用をサポートする徳力基彦氏が、ファン主導のコンテンツビジネスの可能性について語ります。対談後編。

AI時代に光るのは「身体性」と「ストーリー」と……

徳力基彦さん(以下、徳力):AIの進化でコンテンツがコモディティ化するのは間違いないなか、ファンは生成AIによるコンテンツを支持するのか。クリエーターが作ったものが勝るのかという議論があります。

川邊健太郎さん(以下、川邊):AIはツールであって、もうとっくに混じり合っていますから、AIか、そうではないかを分けるのはあまり意味がない話ですよね。例えば、AIで音楽作成ができる「Suno」を使えば、僕でもいくらでも楽曲がつくり出せます。しかも、出来上がるのは毎回名曲。それはそうで、生成AIはパターン認識の塊で、言語よりも音楽に向いていますし、僕好みにパーソナライズされた曲を作ってくれるから。ただ、1回、2回聴くと、またかけようとは思わないんですよね。いいなとは思うけど、愛着は湧かない。

徳力:以前、音楽プロデューサーの浅田祐介さんが「これからの音楽で重要なのは身体性とストーリーテリングだ」と語るのを聞いたことがあって、ここにAI時代のコンテンツの最適解が詰まっていると思うんです。音楽で言えば、なぜ、アーティストはこの曲をつくり、この歌詞で歌い、踊ろうと思ったのか。そのストーリーが重要になるだろう、と。

川邊:たしかに。

コンテンツを作ったのが人間か生成AIかというのは問題ではなくなってきていて、背景にストーリーがあるかどうかが重要
コンテンツを作ったのが人間か生成AIかというのは問題ではなくなってきていて、背景にストーリーがあるかどうかが重要

徳力:そして、人は身体性に感動する。目の前でパフォーマンスしているアーティストの歌やダンス、演奏の技量に驚き、熱量が伝わり、ファンになっていく。私はまだ推し活素人ですが、ここ2年くらいXG(日本人7人で構成されたヒップホップ/R&Bグループ。2022年3月にデビューし、全英語詞の楽曲と高いパフォーマンス力で世界的に注目を集めている)を推していて、ストーリーと身体性の重要性を感じているところです。川邊さんはハロプロを推していますが、いかがですか?

川邊:身体性とストーリーの話はまったくその通りだと共感します。僕はハロプロとそのOGの中で最大の推しが、鞘師里保さんなんですね。それを公表してからは取材を受けていると、「鞘師里保さんのどういうところに引かれるんですか?」と聞かれることがあります。普通は「歌が上手」「ダンスがうまい」と答えるんでしょうけど、僕の回答は常に「気迫がいいっすね」なんですよ。

 鞘師さんのポッドキャスト「 鞘師里保とこれからの時間 」に出演したときに、その魅力について話しています。下の写真はそのときのものです。

鞘師里保さんのポッドキャスト「鞘師里保とこれからの時間」に出演した川邊さん
鞘師里保さんのポッドキャスト「鞘師里保とこれからの時間」に出演した川邊さん

徳力:気迫(笑)。まさに身体性。

川邊:これね、鞘師オタが聞いたら全員100%「ですよね。よく分かってらっしゃる」となるんです。やっぱりAIから気迫は感じないじゃないですか。いかに滑らかに踊るロボットを見ても、「あのロボットの気迫やべえ」とはならない。そして、ストーリーと身体性に付け加えたいのが、一体感。人間は社会的な動物だから、みんなで物事を作り上げていくことで感じる気持ちよさがあると思います。

Juice=Juiceの「盛れ!ミ・アモーレ」の広がり

川邊:体感に関しては象徴的な事例があります。徳力さんもnoteに書かれていましたが、Juice=Juiceの「盛れ!ミ・アモーレ」の広がりです。

徳力:あの曲は、すごいですよね。僕もYouTubeの動画を見て、ライブ会場のコール(観客が曲のイントロ、間奏、サビなどで歌に合わせて叫ぶ、独特な掛け声や合いの手の総称)の熱量に驚きました。

川邊:実はあのコールはJuice=Juice台湾公演に合わせて行われた台北でのカフェイベントから生まれていったんですよ。元々ファンの間では「盛れ!ミ・アモーレ」が発表されて以降、コールを多く入れられる余地の多い曲だといわれていたんですね。ただ、日本のアイドル文化は奥ゆかしいところがあって、どのくらいコールを入れ込むかはライブを通じて醸成されていきます。それがこのカフェイベントのとき、リーダーの段原瑠々さんがファンに直接「『盛れ!ミ・アモーレ』に収録されているコーラスは、全部みんながコールしていいんだからね」と伝えたそうなんです。

徳力:おお。公式が許可を出したんですね。

川邊:で、台湾公演には日本から濃いファンが行っていたんですね。そのカフェイベントの夜、ライブの前夜に彼らがホテルの一室に集まって会議をした……。

徳力:会議?

Juice=Juice ポーズを取る川邊さん。Juice=Juiceの「盛れ!ミ・アモーレ」の広がりは、まさに身体性とストーリーがファンを魅了した好例
Juice=Juice ポーズを取る川邊さん。Juice=Juiceの「盛れ!ミ・アモーレ」の広がりは、まさに身体性とストーリーがファンを魅了した好例

川邊:段原さんもああ言っているんだから、元々のコーラス部分はやるし、俺たちがやれると思っていたこの辺りで「盛れ!」コールでやろう、と。公演初日に向けて、蒸し暑い部屋で男10人がパンツ一丁になって練習したらしいんですよ。

徳力:アツい(笑)。

川邊:迎えた翌日のライブ。会場の後列に陣取った彼らがコールをすると、「めちゃくちゃ入った」と言っていました。

徳力:入った?

川邊:サビや曲の間奏のタイミングにピタッと入ったという意味でもあり、それによって会場の一体感が高まったという意味でもあります。ある意味、コールが入ったことで、「盛れ!ミ・アモーレ」の完成度が増した。台北でのライブはめちゃくちゃ盛り上がり、それが原型となって台湾の次の香港公演、国内でのライブへ、そのまま熱量が続いていったんです。

徳力:つまり、海外公演をハシゴする濃厚なファン、Juice Familyによって作られたコールと、それによる一体感の感染者が爆増していった、と。

川邊:それがライブの現場で起きた話です。

ニョキ、ニョキっと出てくるペンライト

川邊:一方、ネット上では台湾公演の数日前に後輩グループのOCHA NORMAがYouTubeの「ファミ通ゲーム実況ch」にて配信された番組『ハロ通GAMES』で、ゲームの合間にノリノリで「盛れ!ミ・アモーレ」を踊り始めたんですね。それを見た人たちが、「なんだこの曲は!?」となり、ここから「隙アモ」(隙あらばアモーレを踊りたくなる)という言葉がミーム化していくんです。

徳力:なるほど。

川邊:それで「盛れ!ミ・アモーレ」の”踊ってみた”がTikTokで広がり始め、最初はハロプロファンがマネして、そのうち楽曲の良さも相まって浸透していき、普通の人たちにも「隙アモ」が拡散していったわけです。

徳力:楽曲の魅力と「隙アモ」っていうキャッチーな言葉の組み合わせが良かったんでしょうね。

川邊:その流れに拍車をかけたのが、事務所の対応の変化です。ある意味、ファンの力が組織を動かしたところがあって、YouTubeに上げるライブ映像で音源の作り方を変えたんです。今までは歌手のマイクからとった音だけだったのを、ライブ会場の客席側の音も混ぜて、コールが大きく聞こえるようにしたんです。

ファン主導で生まれた熱がYouTubeなどによって波及し、さらに大きなうねりが生まれるという
ファン主導で生まれた熱がYouTubeなどによって波及し、さらに大きなうねりが生まれるという

徳力:それを聴いて予習して、次に来た人がコールできるようになる?

川邊:そうなんです。で、極め付きが曲のリリースから4カ月後に行われた1月下旬のコンサートでした。僕も現場にいたんですが、「All That Music ~あなたに贈るラブソング~」という、演歌歌手、ミュージカル俳優、アイドルが集まってカバー曲を歌うコンサート。そこにアイドルとして出たのがJuice=Juiceの段原リーダーとモーニング娘。’26の小田さくらさん。ハロプロの中で特に歌がうまい2人です。

徳力:何が起きたんですか?

川邊:1曲目にみんなが知っている「LOVEマシーン」を歌い、最後から2曲目で「盛れ!ミ・アモーレ」をやったんです。その際、「盛れ!ミ・アモーレ」は出演者全員で歌ったんですね。ただ、ファンの間での認知度は高くても、まだ一般の人は知らない曲じゃないですか。僕は「反応はどうかな?」と心配していたら、段原さんがステージから「今日、Family、来ているんだよね?」と。すると、それまで目立たなかったのにニョキ、ニョキっとみんなペンライトを出してきて、「え、こんなにいたの!」と驚くうちにすさまじいコールになったんですよ。

徳力:他のお客さんも巻き込んで?

川邊:そう。僕の隣にいた演歌歌手のファンのおばあちゃんが「これ何ですか?」って聞いてきて、僕がコールを教えたら「フラッシュ、フラッシュ」って一緒に叫び始めたんですよ(笑)。しかもハロプロファンって歴史が長い上にマナーがいいし、サービス精神も旺盛だから、いつもJuice=Juiceメンバーに対してやっているコールをミュージカル俳優や演歌歌手に対してもやったんです。その結果、曲が終わった後に出演者が「超楽しい」「初めてアイドルがコールされる気持ちが分かった」となっていった。まさにこれなんか、身体性ですし、ストーリーですし、一体感ですよね。

ファンが主導する、AI時代の勝ち筋

徳力:今回の「盛れ!ミ・アモーレ」のブレークは、成功事例として業界に広がってほしいんですね。

川邊:事務所主導じゃなくて、ファン主導だったっていうのが重要です。

徳力:ファンのエネルギーを、日本のエンタメ業界はもっと役立てた方がいい。従来は、著作権を守ろうとするとファンの動きを制限する方向になっていたけど、これからは「ファンと共創する」方向にシフトできるか。

川邊:ディズニーが先にそこに行っちゃったから、日本も本気で焦らないと。

徳力:ただ希望があるのは、日本には元々ファンダム文化があるってことで。コミケもそうだし、コール文化もそう。人間くささ、ファン側の人間くささも含めた文化がある。

川邊:これはAI時代に日本のIPビジネスが世界で負けない要素になりますよね。勝てるかどうかは分からないけど、少なくとも「ずっと変わらぬ熱量でやっているよね、あそこ」となる。そのためにも広く見られる環境をつくっていくことですよね。僕が今一番期待しているのは、NHKの紅白歌合戦にJuice=Juiceが出て、あのコールが全国に流れること。

徳力:それは見たいですね。

川邊:僕がNHKの演出だったら、絶対ハロプロファンを呼んで、コールさせますよ。だってそこで伸びた曲ですから。これを1つのきっかけとして、ファンの力で鎖国状態だった日本のエンタメ業界が開国されていく流れが見たいですね。

日本には元々ファンダム文化があり、日本のコンテンツが世界に広がっていく可能性は十分にある
日本には元々ファンダム文化があり、日本のコンテンツが世界に広がっていく可能性は十分にある

文/佐口賢作 写真/鈴木愛子 編集/木村やえ