マーケターの森岡毅氏率いる刀がプロジェクトを主導するテーマパーク「ジャングリア沖縄」が7月25日、開業した。構想が生まれたユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)時代から含め、苦節14年。森岡氏のジャングリアにかける思いとは。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』から、森岡氏へのインタビューを抜粋してお届けする。(※取材は2023年秋に実施)

刀は、事業に限らず、人材活用などすべてにおいて、今ある特徴をうまく活用する考えが一貫しているように見えます。

森岡毅氏(以下、森岡):その物件、その人、その文脈……。すべてに特徴があります。それをプラスに捉えるのかマイナスに見るのかは戦略家次第。私には特徴をプラスに見た方が良いとの実感知があります。

数学マーケティングも森岡さん自身の強みを伸ばしたところから生まれました。

森岡:プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)に入社した2年目の頃です。周りには、どういうコンセプトにすれば商品が当たるのかが感覚的に分かる先輩が多くいました。でも、どれだけ一生懸命彼らのまねごとをしてもうまくいかないので、大きなストレスを感じていました。

 一番しんどかった頃、長女が生まれてきてくれたのです。この子のために頑張って会社で生き残らなければと思いました。必死に取り組むなか、私は苦手を克服するという目的を捨てたのです。自分の長所を使いながら課題をクリアする、私の得意な数学の領域に課題を持ち込みました。

 試行錯誤を重ねるなか、米国の数学者で経営学者の論文に出合ったのを機に、数学によって精密に勝ち馬を見極められることに気付いたのです。次第に「会社の中にいてもいいかな」となり、やがて「いてもらわないと困る」と言ってもらえるようになった。それがきっかけとなり、さらに磨きをかけて数学マーケティングが構築されてきました。

刀は22年から、オンライン診療ビジネス「高血圧イーメディカル」を始めました。テーマパークとは全く異なる業種です。どのような軸で事業を選んでいますか。

森岡:刀は3つの視点で事業を選びます。まず、社会的意義があるか。例えば、パーク新設では新たな事業を生むことで日本に食いぶちを生み出せます。2つ目は刀のマーケティングノウハウを生かせるかどうかです。我々は何でも万能にできるわけではない。刀がやることで価値が上がるかどうかを重視します。そして3つ目は、フェアなリターンが望めるかどうか。刀が会社としての持続性を保つためにはここを無視できません。

外資のカジノ企業も出資を打診してきた

25年に沖縄でジャングリアが開業します。事業規模は700億円に上りますが、資金集めは大変ではなかったですか。

森岡:新型コロナウイルス禍にウクライナ危機まで起こり、もうダメかと思うときもありました。実は、資金集めの過程では外資のカジノ企業が出資をしたがっていました。しかし、これを受け入れては、沖縄をはじめとする日本企業が主導権を握って日本社会の発展のために貢献するという大義が担保できなくなる。外資の出資は最悪の場合に採る最後の手段だと考え、歯を食いしばってオールジャパン体制での枠組みを構築しました。

 沖縄にパークをつくるのに当たって、沖縄や日本企業が主体になることはとても重要です。持続可能な事業にするには、物理的にも精神的にも地域に根ざしていなければならない。遠隔から経営することは可能で、その方がむしろ早いかもしれない。

 しかし、地元の人たちが自ら生み出して育てていく構造をつくり、(ジャングリアの運営会社である)ジャパンエンターテイメントを地域が「自分たちの会社だ」と思えるものにしなければ、私たちが死んだ後の次の世代まで継続するのは難しいでしょう。

沖縄パークはUSJ時代からの構想です。構想が動き始めたのは10年以上前のUSJ時代に遡ります。

森岡:調印を間近に控える中で15年、USJが米コムキャストに買収されたことで計画は白紙になりました。半年以上にわたって彼らを説得し続けましたが私の力が及びませんでした。

 沖縄パーク計画が白紙になったから私がUSJを辞めたわけではありませんが、会社を出て私は何をするかを複数考えました。その一つが沖縄パーク計画だったのです。やはり、ここで終わるのは無念すぎると。私には当時、仲間と一緒につくった計画での勝ち筋が見えていた。これが実現できれば沖縄だけでなく日本を強くできるのです。

バタフライエフェクトを起こす

沖縄だけでなく日本も、ですか。

森岡:沖縄のパークに多くの観光客を呼び込むことができれば、南部の観光が中心だった沖縄全体が変わります。沖縄が元気になれば、日本のほかの地方の再生モデルにもなり好影響を与える。国内の観光ルートに変化を起こし、日本の観光やエンターテイメントビジネスを大きく成長させたいです。

 目指すのは「バタフライエフェクト」です。一つの揺らぎが広がれば、世界が変わる。かつて大阪でUSJが元気になったことが、その後の観光客や投資の誘致につながったのではないでしょうか。USJだけが理由ではないですが、一つのきっかけにはなったと思います。

(写真=菅野 勝男)
(写真=菅野 勝男)

パーク事業ではどのような将来戦略を描きますか。

森岡:我々はウォルト・ディズニーやユニバーサル・パークス&リゾーツに対抗する第3勢力になりたいと考えています。1000億円以下でパークをつくる沖縄モデルなら、多拠点展開が可能です。ディズニーやユニバーサルのような数千億円がかかるパークをつくろうとすると条件はなかなかそろいません。

 世界で人気のアニメや漫画といった、日本の眠れる知的財産も活用します。コンテンツを貸すと言ってくれているオーナーは多くいます。日本からディズニーやユニバーサルによるライセンス料を得て米国がどれだけ潤っているか。日本でもこのような知財で稼ぐ事業をつくり、国内総生産(GDP)のドライバーにしたいです。

 日本には「ドラえもん」「ポケットモンスター」など、世界で人気のコンテンツが数多くある。ストックされているコンテンツを使うことでマネタイズをしたい。パークで用いれば、コンテンツを不老不死にできます。

沖縄に次ぐ「ジャングリア」2号店のターゲットはアジア

不老不死、ですか。

森岡:ミッキーマウスのアニメを見たことがある人は少ないのに、なぜ世界の多くの人がミッキーを好きかというと、ディズニーランドがあるからです。ウォルト・ディズニーがディズニーランドをつくる前、ミッキーはこれほど人気ではありませんでした。パークがあれば、そのコンテンツを不老不死にできる。一方、日本のコンテンツの消耗が激しいのはパークがないからです。

 ジャングリアに次ぐ2号店でターゲットにするのはアジアです。東南アジアに日本のコンテンツを持っていけば、みんな日本文化を好きになってくれる。海外で開業しても、日本のコンテンツを使えばライセンス料は日本側に入ります。1人当たりの所得が一定水準以上の人々が増えていくと、パーク事業は非常に利益を得やすくなる。アジアにはそうした将来性がある。成功事例を早く示せるようにしたいです。

壮大な目標です。

森岡:どんな高い壁であっても、しっかり階段をつくれば必ず上ることができると私は考えています。私たちにはディズニーやユニバーサルに勝るマーケティングノウハウがあります。刀は、アニメなどのコンテンツは持っていないけれど、需要予測の数式で特許を取っています。日本企業はアニメなどの知財ではライセンス料を米国に払うばかりですが、我々の知財を使ってもらう仕組みもつくりたいです。

目の前に日本の大きな可能性がある

話を聞いていると、森岡さんは生き急いでいるようにも見えます。

森岡:たまたま1人で道を歩いていて、もしそこで誰かが倒れたとしたら絶対に助けますよね。私は今、そういった心境です。目の前に、世界的に評価の高いアニメやゲームなど日本の大きな可能性がある。そこにたまたま、私が通りかかった。これまでに得たノウハウを使えば何とかできると思えているこのときに、それを助けずして通り過ぎた先に納得して死ねる人生が待っているとは思えません。

 私はもともと、でこぼこな性格で、子供の頃は周囲となじめなかった。そんな不器用だった私の周りに今、人が集まり、同じ目標を実現するために必死になってくれる。そう思うと、絶対に成功させなければいけないし、もう、とんでもない情熱が湧いてくるのです。

 世のため人のために頑張れるのは、それをすることで私が幸せになれるから。だから、追い込まれても踏ん張れる。私の大きな原動力になっています。

2017年に刀を創業しました。これまでを振り返っていかがですか。

森岡:我々はまだ何も達成していません。しかし、ここまで歩む中で一番良かったと思うことを一つだけ挙げるとすると、事業目的に沿って多くの優秀な人たちに集まっていただけたことです。集団知を生かすのが刀の源泉。一人ひとりの目と耳と鼻と手をアウトプットにつなげる仕組みをどうつくるかに腐心してきました。

(写真=菅野 勝男)
(写真=菅野 勝男)

 人は他人を判断する際、総合的に見て優劣を付けがちですが、それに私は昔から違和感を覚えていました。人にはそれぞれ特徴があって、場面によって不利に働くこともあれば、輝くこともある。人を生かすというのは、その人たちの輝く特徴を組み合わせて大きなことを成し遂げることだと思うのです。

 これは私が英国数理社の5科目や社会にあるもっと多くの科目のすべてで1位を取るオールラウンダーだったらたどり着けなかった発想でしょう。議論もなく誰かに却下されたり、理不尽に押しつぶされたりといったことがないようにするのが我々、刀の約束です。

 50年後、私が生きていようが死のうが、集団知が生かせない会社になっていたら刀はないでしょう。いつまでも集団知を生かせる会社であり続けたいです。

人と事業をつくり出す

改めて刀をどんな企業にしたいですか。

森岡:刀は、日本のためになる、「人と事業をつくり出す会社」として存続させていきたいです。創業1日目からそれは変わらず、私たちはかなり遠いところに目的を設定しています。世に貢献できれば会社は潤うはずですが、会社を大きくすることやもうけることは私にとってさほど重要ではありません。お金は目的を達成するための手段です。刀の傘下にある事業会社は今後、大きくなれば独立していけばいい。日本を強くするという目的が優位です。

日経ビジネス電子版 2025年7月24日付の記事を転載]

希代のマーケターとして知られる森岡毅氏の強さの根源を日経ビジネス記者が徹底解剖。挫折を経験した森岡氏はどのようにして立ち直ったのか。快進撃の背景にある、森岡氏率いる100人の異能集団「刀」とは?マーケティングだけでなく、森岡流の組織論やリーダー論も学べる1冊!2024年12月発売。

中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)