「自分たちが親世代より豊かに暮らせる可能性は低い」。今、そう考えている若い人たちは少なくありません。しかし、日ごろから経済活動の現場に触れて会社を見る目を磨き、働きながら投資を行うことで、「普通の人」が相当の資産を持つことは十分に可能だとビジネスコンサルタントの山崎将志氏は言います。今回は、意外と知らない「大金持ちの正体」について。『 父さんが子供たちに7時間で教える株とお金儲けの教養。 』(日本経済新聞出版)より抜粋、内容を編集してお届けします。

プロ野球選手になるのは東大に入るより難しい

 私には10代の息子が2人いるが、彼らに「お金持ちになれそうな職業は?」と尋ねると、スポーツ選手や芸能人をまず挙げる。

 確かに野球、テニス、ゴルフといったスポーツ選手の中でもトップクラスは桁違いに稼ぐ。テニスの錦織圭は2020年の所得が34億円以上、読売巨人軍の坂本勇人は年俸5億円、MLB(米大リーグ)に行った大谷翔平は2年で約9億円などと報道されている。

 しかしそれだけ稼げる選手は当然ほんの一握りである。プロ野球を例にとれば、プロ野球選手としての入り口に立てるのは年に100人前後である。毎年およそ3000人の合格者が出る東京大学よりも入るのが難しい。さらにプロ入りしても1軍の試合に出られるのは約300人。それも全ての年齢の選手合わせてだ。とても厳しい世界である。

 またプロゴルフの世界も厳しい。年々人気が上向いている日本女子プロゴルフ界の19年の賞金ランキングを見ると、トップの鈴木愛が1億6000万円、2位の渋野日向子が1億5000万円強となっている。賞金以外の様々な収入を加えると彼女らの銀行口座に振り込まれた額はもっと大きいだろう。

 しかしランキング100位に目を向けると賞金額は500万円を少し超える程度である。このクラスでは賞金以外の収入はあまり期待できず、さらに参戦に必要な旅費やプレー代も選手の自己負担である。ビジネス界の表現を用いれば、「サービス業に従事する年商500万円の個人事業主」ということになる(年収500万円ではなく年商500万円である)。繰り返すがこの金額は、「その年に日本で100番目に好成績をあげた女子プロゴルファーの本業での売上額」である。

 ちなみに人気が低迷している日本男子プロゴルフ界の19年ランキング100位の賞金額は500万円に満たない。さらに付け加えれば、獲得賞金額が1000万円を超えるのは、女子で85位、男子で64位だ。

スポーツや芸能界で大金を稼ぐためには、すさまじい競争を勝ち抜く必要がある(写真:Tom Wang/Shutterstock.com)
スポーツや芸能界で大金を稼ぐためには、すさまじい競争を勝ち抜く必要がある(写真:Tom Wang/Shutterstock.com)

 プロスポーツの世界はかように厳しいものである。

芸能界は3万人の椅子取りゲーム

 次に芸能界を見てみよう。現在、芸能人の所得を知るすべがないため、そのヒントとなる数字を見てみよう。20年年末で活動を休止したトップアイドルグループ「嵐」のファンクラブ会員数は約300万人ともいわれる。会員は4000円の年会費を払うため、ジャニーズ事務所は嵐のファンクラブビジネスだけで少なくとも約120億円の収入を得ていることになる。それに加えてコンサートなどの興行収入、CD販売や音楽配信で得られる収入、メディア出演料などが加わる。その合計からジャニーズ事務所の取り分を差し引き、5人で割った金額が個々のメンバーの所得になるはずだ。彼らの所得は相当な金額にのぼるだろう。

 しかし芸能界もスポーツ界と同様に人数が少ない。私が芸能プロダクションの経営者から直接聞いた話では、モデルも含めた一般に芸能人と呼ばれる人の数は日本に約3万人である。なかなかの就業者数に見えるが、この中には芸能活動だけでは生活できない人も含まれており、誰でも顔と名前が分かるレベルの芸能人は100人はいるが、500人はいない。だから実質的にはプロ野球選手並みの狭き門である。

 またこの人数は30年来、全く変わっていないそうだ。ビジネス的にいえば、30年間芸能人の需要が3万人で横ばいであることを示す。パイの大きさが変わらないため、新人が入ってくると古い人が出ていく。芸能人にはそれぞれ「ポジション」と見なされる場所がある。例えばかつて堀北真希という俳優がいたが、彼女は結婚して芸能界を引退した。彼女がいなくなると、別の人がすっとそのポジションに収まる(私の意見では有村架純、かな?)。

 私は堀北真希は堀北真希でしかないと思っていたが、どうやらそうではないらしい。青春ドラマの主人公、刑事役や犯人役、ママタレなどの様々なポジションが存在し、そこが空くと他の誰かがすっと入ってくる。

 まさに芸能界は「3万人の椅子取りゲーム」なのである。

日本の富裕層は経営者と開業医

 ではお金持ちになれる確率の高い職業は何か。それは経営者と開業医である。

 医師免許を持つ人の数は国内に30万人強存在する。医学部に合格する学生が毎年1万人弱おり、そのほとんどが国家試験に合格する。その点でもスポーツ選手や芸能人よりずっと多い。30万人のうち、開業医は10万人強いる。

 では経営者の数はどれくらいいるのか。日本には約400万の会社が存在する。複数の会社を経営する人も多く、また実質休眠している会社もあるため、仮にその4分の3としても300万人の社長がいることになる。日本の就業者数6600万人を分母にすると、「働いている人の22人に1人は社長」という計算になる。もちろん社長といってもピンキリである。しかし社長の中でもトップクラスと見なすことができるであろう、上場企業の社長だけでもおよそ3800人もいるのである。テレビに出るような職業は目立つため中高生の憧れの的になりやすいが、実現確率、現役を続けられる年数、所得水準を考えたら、経営者を目指す方がよほど堅実であると私は思う。

 もう一つ、経営者、特に創業経営者には他の職業では得ることのできない富の源泉がある。それは「自社株」である。

経営者の富の源泉は、多くの場合、給与ではなく株にある(写真:Andrey_Kuzmin/Shutterstock.com)
経営者の富の源泉は、多くの場合、給与ではなく株にある(写真:Andrey_Kuzmin/Shutterstock.com)

給料では大富豪にはなれない

 米誌『フォーブス』の長者番付によれば、本稿執筆時点(21年11月1日)のトップはジェフ・ベゾス(米アマゾン・ドット・コム創業者)で、資産額はおよそ20兆円である(数字は全て日本円に換算した上での概算。以下も同様)。2位はイーロン・マスク(米テスラ創業者)の約17兆円と続く。長年このリストのトップに君臨してきたビル・ゲイツ(米マイクロソフト創業者)はいまだ4位につけており、その資産額は約14兆円だ。

 日本人の中でのトップは5兆円の資産を持つ孫正義(ソフトバンク創業者)、そして柳井正とその家族(ファーストリテイリング創業者)、滝崎武光(キーエンス創業者)と続く。

 このリストに載っている人物の特徴はといえば、ほぼ全員「創業経営者」であり、持ち株の価値上昇と配当によって富を築いたことにある。孫正義が会社から受け取る給料(役員報酬)を30年分足し合わせても、とても5兆円には届かない。

 スポーツや芸能のトップクラスで、仮に年収10億円を10年続けられたとしても100億円である。100億円は確かに大金だが、1兆円に達することはない。創業した企業を大きく育てるのは、これほどまでに資産を膨張させるのである。

株を買うことは、成長企業の利益の分け前を享受すること

 巨大企業の創業者がどのように富を築いていったかをダイジェストで見てみよう。例えば孫さんは何十年も前に会社をつくった。その会社は株式を発行して、それを孫さんが買った。そして会社が成長することで株式の価値が上がり、それに従って、孫さんの持ち分は1億円になり、10億円になり、100億円になり……と増えていった。

 我々一般庶民には縁のないような話であるが、実は孫さんの富が増えるプロセスに、我々もまぜてもらうことができる。それはその会社の株を買うことである。

 たとえ、プロ野球選手にも芸能人にも、医者にも経営者にもなれなくても、それにより資産を増やすことができるのだ。それも日々、自分の仕事で収入を得ながら、である。

 例えば08年にリーマン・ブラザーズの破綻が引き金になって金融危機が起こってから20年までに、日本の証券市場で一番伸びた銘柄の株価は、何倍になったかご存じだろうか? 答えは朝日インテックの303倍である。もし08年に同社の株を10万円買い、そのまま持ち続けていたら最高額で3000万円以上になっていた計算である。

 例示した会社の株価上昇はもはや過去のものである。しかしこれから伸びる会社が次々と出てくるはずだ。まずは身近で慣れ親しんだ商品・サービスの提供会社を調べることから始めてみてはどうだろうか。

 あなたも次の大富豪が生まれる過程で、そのおこぼれにあずかることができるかもしれない。

日経ビジネス電子版 2021年11月10日付の記事を転載]

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