「自分たちが親世代より豊かに暮らせる可能性は低い」。今、そう考えている若い人たちは少なくありません。しかし、日ごろから経済活動の現場に触れて会社を見る目を磨き、働きながら投資を行うことで、「普通の人」が相当の資産を持つことは十分に可能だとビジネスコンサルタントの山崎将志氏は言います。今回は、自らも残念な投資家だったという山崎氏が、努力してもうまく利益を出せない人の3つの特徴を紹介。『 父さんが子供たちに7時間で教える株とお金儲けの教養。 』(日本経済新聞出版)より抜粋、内容を編集してお届けします。

10年間損を出し続けた、私の残念な投資人生

 私は30代になってから株式投資を始めたが、最初の10年は損ばかりで、恥ずかしながら、年間を通してプラスになった年は一度もなかった。

 最も損失額が大きかったのは2011年で、あまりの悔しさに一度撤退した。それからの5年間は、いっさい取引はせず、様々な投資家の本を読みながらシミュレーションを繰り返した。その後再開してからはようやく年間を通じてプラスが出るようになった。それでも私の実力が寄与したのはほんのわずかで、単に株式市場が活況だったのが理由だと考えている。

 そう、何を隠そう、残念な投資家とは過去の私のことである。「どうすればお金が減るか」は痛いほど知っている。そこで本稿では残念な投資家の特徴を3つに整理してお話しする。

残念な投資家の特徴① ムダに努力をしてしまう

 現代社会に生きる我々が重視している世界観の一つに「人生は努力によって切り開かれるべきであり、あらゆることは努力によって実現する」というものがある。

 この世界観は、投資において時に失敗を引き起こす。一生懸命に銘柄を選んで、タイミングを見計らいながら売り買いを繰り返す。「○円上がったら売る」と決めて、その値段になったら「私の予測通りだ」と喜んで売ってしまう。逆に下がれば「損を確定させたくない」とナンピン買いをして、揚げ句は塩漬けにしてしまう。

 こんな失敗が起こるのは、「自分で手を下すことで達成する喜び」に価値を見いだしているからだ。

 買った株が上がるか下がるかは、投資家の努力とは無関係である。我々は投資先企業の成功を祈るしかないのだ。

 企業の利益が増えて株価が上がるのには、年単位の時間がかかる。

 例えばユニクロが店舗を増やすには、店の数だけ店長が必要になる。店長を適当に他の会社から引っ張ってきてそのまま店に立たせることはできない。時間をかけて仕事のやり方とユニクロイズム(的なこと)を一人ひとりに体得させる時間が必要だ。トヨタ自動車が新車を作るには、何年もの研究開発を要する。数万点にも及ぶ部品を丁寧に選び、設計通りの性能が出るようにすり合わせる。いざ量産となれば、大量の部品を過不足なくタイムリーに調達し、一点一点、一台一台組み立てる。こうして、ヒットする車があればラッキーだが、多くの新車の販売台数は目標以下とも聞く。

 あらゆる会社がこうである。そして投資家である我々は企業のこうした活動に対して手を下すことはできない。近くで見守ることさえできない。ただ成功を祈ってじっと待つ。我々にできるのはそれだけなのだ。ウォーレン・バフェット氏の金言通り、「株式投資の報酬は我慢の対価」なのである。

投資家の努力はムダに終わることも多い(写真:Oleksandr Lytvynenko/Shutterstock.com)
投資家の努力はムダに終わることも多い(写真:Oleksandr Lytvynenko/Shutterstock.com)

残念な投資家の特徴② 科学的に考えようとし過ぎる

 株価の本質は企業の利益である。利益はその企業が販売する商品やサービスがどれだけ多くの客から満足を得られるかによって決まる。この部分は科学では測れず、完全にアートの世界だと私は考える。この「お金を生む最も小さな単位」がアートである以上、企業業績を正しく予測することは不可能である。

 しかし勉強好きな人は株式の動きに何か法則があるはずだと考える。少なくとも過去の私はそうだった。そして研究するのが「テクニカル分析」である。

 私は実は2010年ごろ、日経平均の数字を用いて「ゴールデンクロス/デッドクロス理論」の妥当性をシミュレーションした。その結果、当てはまるときもあれば、当てはまらないときもあった。加えてその有効性はランダムだ。つまり「全く役に立たない」ということが判明した。

 その他の代表的な手法も全てシミュレーションしたが、その有効性は星占いと変わらなかった。Aという必勝法があるとする。確かに、ある時期・ある期間を取るとAで大勝ちすることがあるが、別の時期では大負けすることもある。では別のBを組み合わせるとどうかと言えば、パターンが見いだされなくなったりする。成果が実証できる法則は一つもなかった。それまでは「チャートを見ながら売り買いすべきで、勝てないのはチャートへの理解が足りない」と思っていたが、そうではなかったのだ。

 このことは、株価形成の基本に立ち返れば理屈上明らかである。株価は「将来の利益予想」で決まり、過去の株価は全く影響を与えない。チャートはいかなる形をしていようとも過去の情報であることには変わらない。だからチャートを見ても株価は予測できないのである。

残念な投資家の特徴③ 世の中に対して悲観的である

 本稿の読者も思い当たる節があるかもしれない。毎日情報収集を怠らず、しっかり勉強しているとどうしても世の中に対して悲観的になってしまうものである。

 勉強とは既に事実として確定したことを頭に入れることだ。日本経済はバブル以降低迷して、平均所得は一向に上がらない。高齢化はますます進んで社会負担は増すばかり。だから日本経済の先行きの見通しは暗い。それを何とかしようとアベノミクスが始まって、株価も上がったし雇用も増えた。しかし国の財政赤字は増える一方で、日銀が多くの上場企業の実質的な大株主になるなど、新しい問題も発生した。これらの情報に基づいて論理的に考えれば、未来はそれほど明るくない、という結論が出る。

 ところが、日本の企業業績はゆっくりとだが改善し、日本の上場企業の利益は年々増えている。任天堂は次々に新しい製品を成功させ、ソニーグループも復活した。過去10年近くのそうした状況を見ると、テレビや新聞が暗い話題ばかり報道していても、いい会社は成長するのである。

 私が悲観的な自分に気づいたのは、ちょうど株式投資を再開した頃だった。スマホに配信されるウェブニュースが同じ話題ばかりで、ダイエットやアンチエイジングの広告ばかりが表示されているのに気づいたのがきっかけだ。世の中こんなに話題があるのに、これは不可解だ。ご存じのように、ウェブニュースは「その端末の利用者が読みたいであろうニュース」を閲覧履歴から峻別(しゅんべつ)して配信している。ということは、私の閲覧履歴からは「悲観的なニュースを好む中年」と分析されていたのだ。

悲観的に物事を見る習慣によって、チャンスを逃すこともある(写真:polkadot_photo/Shutterstock.com)
悲観的に物事を見る習慣によって、チャンスを逃すこともある(写真:polkadot_photo/Shutterstock.com)

悲観的な人は株に手を出さないほうがよい

 しかし『FACTFULNESS(ファクトフルネス)』(日経BP)で語られている通り、世の中は過去よりもあらゆる面でずっと良くなっている。楽観的な視点で企業や株式市場を見つめ直したら、それらは事業と投資の活動を通じて世の中をより良くしようとしている人たちの集まりであると捉えられるようになった。そうであれば、上場企業は総じて見れば成長する可能性が高いと考えることができる。

 とは言え、個別の企業が本当に成長するかどうかは分からない。自分の経験や周りの事業家との付き合いの中で実感するのは、どんな新規事業も成功するかどうかは事前には全く予測できないことだ。そもそも失敗しようと思って事業を始める人はいない。誰もがうまくいくと考え、周りの人を説得し、お金を集めたり予算を取ったりして、汗水たらして客に提案する。それでもうまくいくのは千に三つ。だから最後は確率論、平たく言えば「運」である。

 株式投資に話を戻せば、詳細な分析に基づいて個別の銘柄を買うとしても、最終的は「期待」するしかない。だから投資家は、楽観的な態度で物事を見る習慣をつけなければならないのだ。

 チャート分析に基づく銘柄選びに時間を使い、短期的な株価の上下に一喜一憂するのは貴重なお金と時間のムダである。それならば「日経225」や「S&P500」などに連動したインデックスファンドを毎月決まった日に一定額買い続けるほうが、長期的にはお金を増やせる可能性が高い。これは様々なデータが証明している。

 また、あえて断言するなら悲観的な人は株式投資には手を出さないほうがよい。買った株が上がってもせっかくの利益が減るのが怖くて小さな利益で手放してしまいがちだし、不定期に必ず起こる暴落時には「狼狽(ろうばい)売り」しがちである。利小損大の取引の繰り返しにより、お金を減らす結果になる。それでも株式投資でお金を増やしたいなら、楽観的なモノゴトの見方を体得すべきであろう。

日経ビジネス電子版 2021年11月9日付の記事を転載]

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