「自分たちが親世代より豊かに暮らせる可能性は低い」。今、そう考えている若い人たちは少なくありません。しかし、日ごろから経済活動の現場に触れて会社を見る目を磨き、働きながら投資を行うことで、「普通の人」が相当の資産を持つことは十分に可能だとビジネスコンサルタントの山崎将志氏は言います。今回は、著者の山崎氏が注目している米国企業について。『 父さんが子供たちに7時間で教える株とお金儲けの教養。 』(日本経済新聞出版)より内容を編集してお届けします。

大きく成長する企業には、3つの共通点がある

 数年前からGAFAM(グーグル[の持ち株会社アルファベット]、アップル、メタ[フェイスブック]、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)の5社がビジネス界でも株式市場でも注目されている。

 その理由を一言で言えば、「1)自社でしか提供できない製品・サービスが、2)世界中の会社・個人に使われており、3)これからも新しい領域を切り開いていくと期待されている」、この3点である。

 過去10年をとってもGAFAMの株価は大きく成長し、この5社の時価総額を足し合わせると、東証1部の時価総額を優に上回る。我々のビジネスや個人生活は、特に他人とのコミュニケーションにおいてGAFAMのサービスを使わなければ成り立たないことが多いが、世の中のすべてのビジネスがGAFAMに支配されているわけではない。

 ビジネスや日常生活を支える製品・サービスを提供する企業の中に、冒頭の3点を満たす会社はたくさんある。例えば、台湾積体電路製造(TSMC)は半導体業界での売上高ランキングでは米インテル、韓国サムスン電子に次いで3位だが、ファウンドリー(受託生産)ビジネスに限れば、54%のシェアを持っている。また米ビザと米マスターカードは世界のクレジットカード業界で圧倒的なシェアを持ち、毎日兆円単位での決済を支えている。今回は米国株の中から、私が興味を持っているエヌビディア(NVIDIA Corporation)の話をしたい。

 エヌビディアは、GPU(グラフィック・プロセシング・ユニット)とそれに関連するソフトウエアを提供する企業である。GPUはゲームなどのグラフィックを早く動かすための半導体で、これが搭載されているPCとそうでないPCとではグラフィック描画のパフォーマンスに雲泥の差が出る。

 例えば動画を編集する人ならば、GPU(ミドルクラスで十分)が載っているPCに買い替えれば、すぐにその速さを体感できるだろう。eスポーツに入れ上げるプレーヤーは、もっと高性能なGPUを載せている。コンマ秒単位の操作が勝敗を分けるからだ。

現段階で使いにくいサービスだからといって、ダメな会社と決めつけるのは早計だ(写真:bbernard/shutterstock.com)
現段階で使いにくいサービスだからといって、ダメな会社と決めつけるのは早計だ(写真:bbernard/shutterstock.com)

 GPUは、ほかにも人工知能(AI)やビットコインのマイニングにも使われている。これらの処理になぜGPUが使われるのか。エヌビディアのビジネスとその将来性を検討する上で、簡単におさらいしておこう。

自動運転が実現すれば、年間約1億台分のGPUが必要に?

 コンピューターの脳と言えば、CPU(セントラル・プロセシング・ユニット)である。CPUは極めて高度な計算能力を持っている。高度な計算とは例えば、「Aの計算をしたらBの計算をして、結果によってCやDの計算をする」といった複雑な条件分岐を含む計算だ。

 しかしグラフィックの処理には複雑な条件分岐のある計算は必要がない。例えばフルHDサイズ(1920×1080)のディスプレーでは、「独立した200万個の点のRGB色指定を、同時に行う処理」を「1秒間に30回」実行することで動画を表示させている。この処理は大変な処理ではあるが、複雑ではない。単純な処理を、大量かつ高速に行う処理である。それに特化したチップがGPUだ。GPUは単純な計算を並列処理できる上に、CPUより安価である。これがグラフィックの処理にGPUが使われている理由である。

 また、AIの中でも特に機械学習の領域や、ビットコインのマイニングにGPUが使われる理由は、大まかに言えば単純な処理を、短時間かつ低コストでどれだけたくさん行うかが勝負だからだ。

 さらに自動運転技術にも、GPUが必要不可欠である。自動運転における画像認識では、カメラが撮影した画像を読み、そこに映っているものを解析する処理を連続で行っている。つまり、簡単に言えば、「動画の表示と反対方向の処理」が行われている。

 自動運転はまだ研究段階ではあるが、実用化の道筋はだいたい立っていると見ていいだろう。自動運転にはGPUが使われ続けると仮定すると、日本だけで年間300万台以上の車に搭載させることになる。世界規模で見ると年間1億台弱。少なくとも自動運転車用のGPUだけでこれだけの数が必要になるのである。

メタバースの実現にもGPUが欠かせない

 フェイスブックは21年10月、短い告知期間を経て社名をメタに変更した。同社は今後メタバース(インターネット上の仮想空間)への投資に注力し、年間1兆円以上を投資すると発表した。この金額は、我が国の文教および科学振興費の5分の1に相当する。そのしばらく後、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが「私たちの社会のDXはメタバースによって新たなステージに移行する」と発言した。22年前半にはプレビュー版として、オンライン会議ツールの「Microsoft Teams」をメタバース対応させ、3Dアバターと仮想空間を使い、現実のミーティングや共同作業を再現すると発表した。

「何となく上がりそう」という理由で投資していないか?(写真:Serg64/Shutterstock.com)
「何となく上がりそう」という理由で投資していないか?(写真:Serg64/Shutterstock.com)

 メタバースはVR(仮想空間)技術が基になっている。そしてVRの実現にはGPUが使われる。

 我々一般人がメタバースに着目し始めたのはザッカーバーグ氏の発表がきっかけだったが、エヌビディアは「オムニバース」というリアルタイム3Dシミュレーションプラットフォームを開発し、かなり前からその準備を進めていた。日本経済新聞の記事(「エヌビディア、メタバース開発基盤に日本パートナー24社」2021年12月7日付電子版)によれば、同社が提供するメタバースの開発基盤について、日本での導入支援にSCSKやNTT系など24社が参画すると発表した。エヌビディアのオムニバースは21年11月に商用展開が始まり、ドイツBMWなどで採用実績を積んでいる。

 仮にメタバース市場が拡大したとすれば、エヌビディアはさらに大きなマーケットを獲得することになるはずだ。

 今のところエヌビディアは、GPUの市場ではトップである。もちろん他社との競争に敗れるかもしれないし、誰かが全く新しい技術を発明し、GPUそのものが駆逐されるかもしれない。しかし今、一般に手に入る情報だけに基づいて楽観的に考えれば、GPU市場はかなり有望だろう。

きつねうどんが好きでも、ハンバーガーに投資する

 とはいえ、最近のエヌビディアの株価は乱高下している。この先もっと大きな下げがあるかもしれない。そんなときに自信を持って持ち続けられるか、確信を持って買い増せるかどうかは、どれだけエヌビディアという会社や製品の技術、市場動向などを理解しているかにかかっている。

 もう一つ、我々一般投資家に必要なのは楽観的な態度である。正直に個人的な意見を述べれば、メタバースが実現するかどうかは全く分からない。プライバシーが心配だし、何より薄気味悪く感じる。同様の見方をする読者も少なくないだろう。メディアからもメタバースのコンセプトは非現実的、もしくは完全にディストピア的だという批判の声も出ている。

 しかし歴史を振り返れば、一般人には理解できなかった技術があっという間に広まった例は枚挙に暇(いとま)がない。本稿と関連する分野で言えば、自動運転が「技術的に」実現不可能だと考える読者は今はいないだろう(リスク負担の社会的合意形成に失敗する可能性はある)。しかし、ほんの5年前は右折すらできなかったのだ。

 メタバースに関しては、私の個人的な興味や心配にかかわらず、実現する可能性が高いと考えている。なぜなら、メタ社の経営陣のような、(良くも悪くも)世界を変えてきた人々が考えた計画に十分な資金が投入されると、そのほとんどは実現してしまうからである。

 日本マクドナルドの創業者である藤田田氏は、かつてその著書の中で「ハンバーガーよりきつねうどんの方が好き」と公言していた。投資においても、このように個人の好き嫌いを超越した視点を持って市場を見ることのできる人が成功するのではないかと思う。

*記事内で個別の企業について触れていますが、当該企業の株式の購入を推奨するものではありません。投資は自己責任でお願いいたします。

日経ビジネス電子版 2022年1月27日付の記事を転載]

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