「自分たちが親世代より豊かに暮らせる可能性は低い」。いま、そう考えている若い人たちは少なくない。しかし、日ごろから経済活動の現場に触れて会社を見る目を磨き、働きながら投資を行うことで、「普通の人」が相当の資産を持つことは十分に可能だとビジネスコンサルタントの山崎将志氏は言う。日経ビジネス人文庫『父さんが教える株とお金の教養。』より抜粋、内容を編集してお届けする。
アクセンチュアの株を持ち続けていたら
株式投資は「タラ・レバ」、つまり「あれ買っといタラ……」、「これを持っていレバいまごろ……」の連続だ。
一例として、私が昔、勤めていたアクセンチュアという会社の株の話をしよう。アクセンチュアの株は2024年3月で370ドルくらいになっているが、これは2001年の上場から20数年で約26倍になった。
同社に勤めていた頃、いくらかのストックオプションを持っていた。上場時の時価で総額400万円くらいだったため、それを辞めてからもそっくりそのまま持ち続けていれば、いまごろ1億円前後になっていた計算になる。
しかし、2003年に会社を辞めるタイミングで全部売って現金にしてしまっていた。独立して商売を始めるのに軍資金が必要だったからだ。加えて、中にいた私には、あの会社の当時の戦略が実現するとは到底思えなかったことも大きい(実はこれが辞めようと思った理由の一つでもある)。
その当時の戦略というのは、いまでは当たり前になった情報システムのアウトソーシングである。上場企業クラスの会社は、ご存じのように、大規模な情報システムを持っていて、工場の部品や完成しかかった製品の数を管理したり、社員のデータを管理したり、売り上げやコストなどの会計データを管理したりしている。アクセンチュアはもともと、こういうシステムを開発する会社だった。
2000年ごろからアクセンチュアは、そうした情報システムを情報システム部の代わりに運用しますよ、何なら情報システム部という組織も運用代行しますよ、というビジネスに力を入れると宣言した。
当時、私が持っていたイメージをたとえて言うなら、「ある会社が、中学校の教材を、教科書だけでなく小テストなどのプリントも全部代わりに用意しますよ、何なら先生もうちが派遣しますよ」というビジネス。その場合、学校の先生は○○中学に勤めているのではなく、所属はアウトソーシング会社だけど、派遣先が学校、というふうになる。
20年前は「情報システムを他の会社に管理してもらう」ことすら稀(まれ)だったし、「情報システム部という組織そのものを他社に任せる」ということなど、皆無だった。だから、そんなビジネスがうまくいくはずがないと思っていた。
ところが実際、その事業は大成功した。いまやアクセンチュアは世界中の大企業の情報システムを管理している。企業だけではなく、官公庁もたくさんやっている。そして情報システムのアウトソーシングで世界トップクラスの会社になった。
その結果、20数年で株価26倍である。私の予測は大外れである。
「学校の先生をアウトソーシングする」というくらい非現実的な話にあまり将来性はないかなと考えていたが、大間違いだったのである。
頭脳とカネと実行力があれば未来は実現
さて、ここからが私の言いたいことである。
それは「天才的頭脳を持つ何人かで考えたことに、十分な資金が投入されると、未来は実現してしまうことがある」ということ。
アクセンチュアのような会社はもともと頭のいい人たちが集まっているが、その中でも本部で戦略を練っているような人は世界でもトップクラスの頭脳を持っている。その人たちが企業における情報システムの今後のあり方を考えた。もちろんいくつかのシナリオがあったと思うが、アウトソーシング事業を伸ばすと決めた。それをやるには大量の資金が必要だと見積もった。だから上場した。そして集めた資金を計画通りに使って、自分たちが描いた未来をつくり上げていった……私はそう解釈している。
日経ビジネス人文庫『父さんが教える株とお金の教養。』で取り上げている株価が伸びている会社はみな、非現実的な未来を描き、それを実現している。GAFAMも、ソフトバンクも、ユニクロも、ニトリもそうだ。
世の中には頭のいい人はたくさんいる。お金がある人もたくさんいる。でも両方がないとダメである。加えて実行力も必要だ。お金を集めるのは大変だし、集めたお金をちゃんと使うのも勇気がいる。結果が出るまではお金が減っていく一方だからである。
ソフトバンクの孫正義氏は「日本のインターネットを安くする」と言って、首都圏の各駅にアルバイトを何人も置いて、行き交う人に声をかけてモデムを配りまくった。人海戦術だからお金もかかるし非効率極まりない方法ではあるが、それでも目標の契約件数に達するまでそれをやり続けた。
さらに、携帯電話事業に参入するためボーダフォンという会社を買収したが、この時も反対意見が多かった。だがその中で、孫氏はちゃんと収益の出るビジネスに仕立て上げたのである。インターネット回線と携帯電話というインフラをしっかりビジネスにしたことで、ソフトバンクは巨大企業にのし上がったといえる。
余裕資金で「突拍子もないアイデア」に夢を託す
株式投資で平均的なリターンを上げる可能性の高い方法は、「ドルコスト平均法」で「手数料の低い」「インデックスファンドを買う」ことである。この考え方はかなり広まっているようで、最近のいわゆる「オルカン投資」の人気上昇でも見て取れる。
しかし、もし余裕資金があるのなら新NISAの成長投資枠で少しくらい一獲千金の夢を持つのも悪くない。グーグル、アマゾン、テスラ、エヌビディアなどは、上場した時点では期待の声があった一方で、「本当にその事業計画が実現するのか」と懐疑的な意見も多かった。しかし彼らは期待を超える実績を上げて、株価は何十倍にもなった。
その一方で、上場したものの計画が水泡に帰した会社も数多くある。中にはインチキをあたかも発明だと喧伝(けんでん)するような例も実際にある。「突拍子もないアイデア」が本当に実現するのは、千に三つくらいが現実なのだろう。
それでも逆に「千のうち三つくらいはモノになる」ともいえる。特に創業社長が営む新興企業の経営メンバーは、全人生をかけてその計画の実現に邁進(まいしん)している。そんな会社に資金を投じることで応援するのも立派な社会貢献だし、投資先の描く未来が実現すれば、それ自体まさに社会貢献である。
ニュースを読んで気になる商品やサービスを目にしたら、その会社の情報を調べるのを習慣化することから始めてはどうだろうか。そのうち、これに期待してみようという会社が現れるはずだ。
山崎将志著/日本経済新聞出版/990円(税込み)

