SNSやテクノロジーの進化によって、個人のスキルやノウハウをインターネットで手軽に販売できる「指名経済」が浸透してきています。しかし、何の準備もせず、いきなりオンラインスクールを開講しても受講生の申し込みは集まりません。一方で、オンラインスクールで「指名される人」には共通点があると語るのは、延べ8万人のクリエイターを支援するMOSH創業者の籔和弥さんです。本コラムでは籔さんの新刊書籍『8万人の講師から学んだ 1億稼ぐオンラインスクール』からの抜粋・再構成して、オンラインスクール成功のポイントをお届けします。第1回はボディワーカー・森拓郎さんの取り組みをご紹介します。
オンラインスクールの可能性を最も鮮やかに示しているのが、ボディワーカー・森拓郎さんです。
森さんは長年にわたり運動指導の専門家として活動し、著書の出版や対面ジムの運営など、幅広い形で「体を整える」価値を届けてきました。
しかし、2020年のコロナ禍で対面ジムの営業が停止し、売上はほぼゼロに。森さんにとっても、これまでの事業を根本から見直す転機となりました。
そこで着手したのが、オンラインでのサブスクリプション事業です。
2020年5月、MOSHを活用して月額1万2000円(税抜)の会員制プログラムを開始。週1回のライブレッスンに加え、アーカイブ動画を200本以上蓄積し、全国どこからでも学べる仕組みを整えました。
「動画でどこまで伝わるのか」という不安を抱えながらも、フォーム指導の再現性を高めるカリキュラムや、続けやすい設計、顧客の声を可視化する仕組みを丁寧に磨き上げていきました。
その結果、わずか数年で会員数は1000名を突破。1人で運営しながらも、オンライン上で大勢に価値を届けるスケーラブルなモデルを築き、安定的に高収益を生み出す事業へと成長しました。
MOSHの自動決済や会員管理機能により、運用の多くを仕組み化できたことで、森さん自身は「レッスン内容の改善と顧客への深い価値提供」に集中できる環境を実現しています。
オンラインでも講師の“熱量”は伝わります。むしろ、森さんの理念や哲学に共感した受講者が、居住地を問わず全国から集まり、共に学び、継続していく姿は、まさに「指名経済」の原点を体現しています。オンラインスクールは、時間や場所の制約を超えて、専門家の知識や想いを何倍にも拡張できる、新しいビジネスモデルなのです。
森拓郎さんに聞きました

現在までの経緯は?
以前はスポーツクラブのトレーナーをしていました。15年前に独立し、現在は東京の恵比寿でパーソナルジム「rinato(リナート)」を経営しつつ、サプリやストレッチマットなどの物販や、zoomを使ったオンラインレッスンを提供しています。会社の年商は4億円弱、SNSの総フォロワー数は約30万人。YouTubeが11万2000人、Xが10万4000人、インスタグラムが6万3000人、最近始めたThreadsは1万6000人です。
フォロワーが多いのは、SNSを始めた時期が早く、発信の量が多かったこと。そして私の書いた『運動指導者が断言! ダイエットは運動1割、食事9割』(ディスカヴァートゥエンティワン)という本が、15万部のベストセラーになったからかもしれません。実は最初にこの本の企画を出版社に持ち込んだときは、「実績がない」という理由で出版を断られました。やむを得ず電子書籍の形で販売したところ、電子では異例の1万部のヒットに。実は運動を勧める立場であるトレーナーが、「運動をしてもダイエットにそれほど効果はありません。それよりも食事のほうが大事です」という本を書くのは、ちょっと勇気がいることでした。しかし本当のことなので、それを多くの方が支持してくれたということでしょう。
現在の収益のメインであるオンラインレッスンを始めたのは、コロナの緊急事態宣言でお客さんがジムに来られなくなり、「このままでは店舗の売上がゼロになる」と不安に駆られたから。以前からSNSで盛んに発信していたので、「オンラインレッスンを始めます」と告知したら1000人くらい来てくれて、「またやってください」という声を多くいただきました。「次は有料でやりますよ、それでも来ますか」と言いったら本当に大勢来てくれた。それ以来、サブスクにしてオンラインレッスンを常時行っています。
活動の原動力は?
陸上競技をしていた学生時代から、「競技成績を上げるにはどうすればいいか」を突き詰めて考えるほうでした。先生が「やれ」と命じる練習メニューも、「それをすべき理由」に納得しない限り、素直に従えない。「ただの根性練じゃないですか」と先生にたてつくこともありました。自分で本屋に行って運動や栄養について調べるかたわら、インターネットにも小6くらいから触れていました。これからは絶対にインターネットが社会的な影響力を持つとわかっていたので、早くからブログやSNSを始め、トレーニングやボディメイクに関する情報を発信していました。おかげで完全に先行者優位をとれたと思います。もっとも、若いころは自己顕示欲の塊だったので、「もっと自分の知っているフィットネスの真実を伝えたい!」という気持ちを抑えきれず、頭の中にあることをネットにまき散らしていただけかもしれません。でもおかげで存在が認知され、30歳くらいのときに本を出せました。以来、50冊以上の本を出版し、累計部数は100万部超です。
いまはトレーナーとしてはベテランの年齢になってきました。今後は若いトレーナーの応援もしていきたいと思っています。
目の前の顧客課題に向き合うからこそ理解できること
MOSHには現在、8万人のクリエイターが登録しています。その中で特に売上を伸ばしているトップクリエイターは全員、顧客に変革を与え、人生が変わるような体験(Life Changing Experience)を提供でき、その人の人生をプラスの方向に変えることができる方々です。
・人前で自信を持って話せるようになった
・教わったトレーニングを実行したら、スタイルがとてもよくなった
・英語の発音が外国人に伝わるようになった
という明らかな変化を実感した顧客は、「これからも、この人を指名したい」と強烈に支持してくれます。そして自分にとっての「推し」の先生や講師のよさを、ほかの人たちにも伝えたくなる。その結果、口コミでよさが伝わり、新しい指名が生まれるという好循環が起きています。
そればかりか、もともと教わる側だった人たちが熱狂した結果、「次は自分も教える側になりたい」と思うようになることもあります。たとえば漫画を夢中になって読んでいる人が、「自分も漫画家になりたい」と思うように、サービスを享受した側が提供するようになっていく。こんな社会の動きを生むことは、実は私たちのミッションの一つでもあります。
伸び続けるクリエイターは、こんなLife Changing Experienceを顧客に提供できているわけですが、ではなぜ彼らは人生が変わる体験を提供できるのでしょうか。逆説的ですが、私は「顧客の成果が上がらない理由」を熟知しているからだと思います。
そもそも自分のターゲットが見つかっていなければ、顧客の課題の分解もできないので成果が上がらない要因を理解することもできません。当然、顧客にフィットしたサービスも提供できないでしょう。
その結果、顧客の課題が解決できずに、成果が出にくくなり、Life Changing Experienceに至らない。私たちが整理した中では、トップクリエイターと、苦戦するクリエイターの一番の大きな差はこのポイントでした。
籔和弥(著)、日経BP、1870円(税込み)
