コロナ禍で働き方が見直されつつある今、目標が見えず将来に不安を持つビジネスパーソンが増えている。多くの人たちが働きがいを感じられないのは、「これまでのキャリアの常識や方法論が新たな時代にフィットしていないため」と人材育成コンサルタントの片岡裕司氏は分析する。ポストコロナ時代のキャリアの新たな常識とは。社会変革のあおりを最も受ける、就職氷河期世代を襲う新たな危機とその処方箋とは。 『「目標が持てない時代」のキャリアデザイン 限界を突破する4つのステップ』 (日本経済新聞出版)を刊行した片岡氏、共著者の阿由葉隆氏が解説する。

中堅の40代でも7割近くがやりがいを感じていない

 コロナ禍で仕事のストレスが増えた、達成感がない、将来が見えないといった声が増えています。

 私たちが2021年7月に実施した「職場の感情調査」では、働く人の約7割が仕事への手応えややりがい、働きがいを感じていないという結果が出ました。経営層、管理者、人事部門を除いた全世代の数字です。

 また、やりがいを全く感じていないという回答が最も多いのは40代で20%に上ります。これは50代以上のベテラン社員を上回る数値です。


効力感(日々、働きがいを感じて働けている)を感じていますか?
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株式会社ジェイフィール実施 「ベテラン社員および職場への感情調査」
期間:2021年7月16日~19日 回答:660件
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 いったい40代に何が起こっているのでしょうか。

 まず申し上げたいのは、ここまで多くの人が悩んでいるとすれば、個人や個別の企業の問題ではなく、社会に問題の原因があると言わざるを得ないということです。今、仕事にやりがいを感じていなくて後ろめたさを持っている方がいても、自分を責める必要はありません。

少数精鋭だったはずなのに現実は……

 「職場の感情調査」で特に数値が悪かった40代はいわゆる就職氷河期世代です。厳しい就職活動を乗り越えて有名大手企業に就職できた人は「超勝ち組」、第1志望には就職できなかった人たちも社内では「勝ち組」と目されていました。少し上のバブル世代に比べて能力が高く、人数が少ないこともあり早くマネジャーに昇格できる少数精鋭と言われ続けてきた人たちです。

 しかし実際はそうはいきませんでした。大手企業を中心に、年功序列の解体が緩やかに進み、また“失われた20年”で企業業績は伸びず、多くの組織で統廃合が進みポストが減少していきました。

 多くの40代がプレイングマネジャー、あるいはプレーヤーのままで仕事をする中、技術進化、DX(デジタルトランスフォーメーション)、AI化の促進などにより、新たな専門性を獲得する必要性が新たに生じています。自分は学び直しをして本当についていけるのだろうかという不安、さらに人生100年時代の到来で何歳まで働くかも見えなくなってしまいました。

 そして、ダメ押しがコロナショックによる働き方の地殻変動です。在宅ワーク化が一気に進み、部下管理の限界から、これまで以上に個人が担う仕事とその成果でシンプルに組織運営をしていこうというジョブ型人事制度を志向する企業が増えてきました。こうした社会変革のあおりを一番強く受けているのが40代で、働きがいの数字の低さはそれを物語るものです。

「漠然とした不安」がやりがいを奪う

 多くの氷河期世代は、「こんなはずじゃなかった」という後悔と未来への不安を感じています。でも、ここで最も問題なのは、「不安の正体」が見えていないことです。

 私たちはビジネスパーソンへの聞き取り調査を多く行っていますが、そこで多くの方が口にするのが「何となく不安」ということです。漠然とした不安と聞くと大したものでないと思われるかもしれませんが、これは対処すべき問題が見えないわけで、適切な行動が取れなくなってしまう非常に危険な状態を招きます。そして先が見えないので、多くの人から働きがいも奪っていくのです。

 では、なぜ問題が見えないのでしょうか?

 それは、私たちがかけている眼鏡がよく見えないものになっている、つまり、現実に合わなくなってきているからです。眼鏡とは私たちのキャリア観、キャリアの常識を指します。

 キャリアとはこういうものだという古い常識が私たちを不安にし、働きがいを奪っているのです。

著者紹介

片岡裕司(かたおか・ゆうじ)
ジェイフィール 取締役コンサルタント、多摩大学大学院客員教授、日本女子大学非常勤講師、一般社団法人Future Center Alliance Japan理事
アサヒビール、同社関連会社でのコンサルティング経験を経て独立。ジェイフィール立ち上げに参画し現在に至る。組織変革プロジェクトや研修講師を担当。
著書に『なんとかしたい! 「ベテラン社員」がイキイキ動き出すマネジメント』、共著に『週イチ・30分の習慣でよみがえる職場』(いずれも日本経済新聞出版)などがある。

著者紹介

阿由葉隆(あゆは・たかし)
ジェイフィール コンサルタント、国家資格キャリアコンサルタント
外資系人材サービス企業営業支店長、アウトソーシングサービス部門の立ち上げ、運用部門長などを経て、2017年にジェイフィールへ参画し現在に至る。人材育成・組織変革プロジェクト、研修ファシリテーターを担当。

安定志向が不安をもたらす

 氷河期世代は就職活動で苦労をしたこともあり、企業内で成果を出し、昇格、出世を目指すというキャリアイメージを持つ方がほとんどです。転職者が増えているという印象もありますが、総務省の「労働力調査」を見ても、転職率(転職者/総労働人口×100(%))は2011年の4.5%から2019年の5.2%とそれほど顕著な変化はありません。

 1つの会社、1つの専門性を追い、管理職へとステップアップするという固定的なキャリアイメージ、すなわちキャリアの常識がある世界は、キャリアについて考える必要がなく、ある意味楽な世界でした。

 しかし、もはや昇格や出世といった成功モデルは成り立たない時代です。もしあなたがこれまでのキャリアの常識にとらわれていると、その通りにならない焦りや自己を否定する気持ちを持つことになりかねません。結果、強い後悔や不安が生まれ、仕事に前向きになれなくなってしまうのです。

 これまでのキャリアイメージは幻想。この事実をまずしっかりと認識しましょう。これは決してネガティブなことではありません。誰もが目指す共通の目標がなくなった代わりに、自分オリジナルのキャリアをつくる、つくることができる時代が到来したということです。

自分らしいキャリアをつくる3つの処方箋

 「新たなキャリア観、自分らしいキャリアイメージをつくる」と聞いてハードルが高いと感じる方もいるでしょう。具体的にはどうすればいいのか、これからお教えします。

 ポイントは3つです。1つ目はキャリアの目的を持つこと。目標ではなく、目的であることが大事です。「部長になる」「せめて課長にはなりたい」といった目標ではなく、自分は誰に対し、何をもたらす存在であり続けたいかという目的、すなわち自分の軸を見つけることです。

 2つ目は目標をたくさん持つことです。今までのキャリアの常識が出世という1つの目標の世界だったとすれば、仕事以外の分野も含めたくさんの人生の目標を設定しましょう。目標のポートフォリオを組むと言い換えてもいいかもしれません。自分の目的に沿うことであれば、仕事に関係するしないにかかわらず、どんどん活動を広げていくのです。例えば、ボランティア、副業、NPO活動、MBAでの学び、地域活動、趣味の仲間をつくるなどどんな活動でもOKです。

 そして3つ目は、キャリアの設計において安定を目指さないということです。もちろん、住宅ローンを抱え子育て世代でもある40代にとって、安定的な生活を送ることが重要なポイントであることはよく分かります。でも、「安定=変化しない」と捉えていると、変化の激しい不安定な時代に翻弄されてしまいます。

 地震対策の免震構造を考えていただくといいでしょう。大きな揺れには、建物を固く頑丈につくる耐震ではなく、一定程度揺れることで建物を安全に守る対策が有効です。キャリアにおいても、地震のような土台側の揺れがたくさん起きる時代です。固い安定を目指すといつかポッキリと折れる可能性が強い。それが実は皆さんを不安定、不安にしているのです。

 自分のキャリアの目的を大切にして、いろいろな目標にチャレンジするという、ある意味、不安定な状態をつくることが、変化の激しい時代では安定をもたらします。ポストコロナ時代のキャリアの新常識は、安定を目指すのではなく、自分の中に積極的に不安定状態を取り込んでいくことと言えます。

(写真: UV70/Shutterstock.com)
(写真: UV70/Shutterstock.com)

日経ビジネス電子版 2021年10月7日付の記事を転載]

先が見えない時代の「やりたいこと」のつくり方。
副業、社内起業、転職、パラレルキャリア、独立…… 働き方は1つじゃない!

「何かを変えたいけれど、どうすればいいのかわからない」というビジネスパーソンの必読書。
想像以上の自分に出会えるキャリアの方法論を「4つのステップ」で解説。講師のセミナーを聞き、ワークショップを受けるようなイメージで読み・実践できる。

片岡裕司・阿由葉隆・北村祐三(著) 日本経済新聞出版