「性格診断」とFFS理論の最大の差異は

人の思考の軸を「凝縮性、受容性、弁別性、拡散性、保全性」という5つの因子の濃淡で分析して、その組み合わせで、安直に言えばパターンというか、考え方、感じ方のクセが推測できる、というのがFFS理論のざっくりした理解なんですが。

古野 俊幸・ヒューマンロジック研究所代表取締役(以下、古野):はい、おおむねそれで結構だと思います。ただ、そこまでだといわゆる性格診断の範囲を出ていないですよね。

では、どこが違うのか。

古野 俊幸(ふるの・としゆき)ヒューマンロジック研究所代表取締役
古野 俊幸(ふるの・としゆき)ヒューマンロジック研究所代表取締役
新聞社、フリージャーナリスト、出版社を経て、1994 年にFFS理論を活用した最適組織編成・開発支援のための会社を設立して、現在に至る。現在まで約900 社以上の組織・人材の活性化支援を行っている。チームの分析と編成に携わった実績は65万人、約6.5万チームを数える、チームビルディング、チーム編成の第一人者。(写真=大槻 純一、以下同)

古野:もちろん、たった1人だと「私はこんな人」はありますが、人は他人との関係の中で行動を起こすほうが多いですよね。例えば会議で発言すること1つをとっても、本当に疑問があって発言しているケースもあれば、この場で目立たなければいけないと思って発言しているケースもあるでしょう。

あるでしょうね。

古野:FFS理論は、さっきの言葉で言えばその人の思考パターンによって「こういうメンバーで、こういう状況だと、おそらくこの人は『自分も何か言わないとまずいな』という心理になり、それに促されて発言しているんだろうな」ということが見えてくるわけですね。

実際にそういうことが分かるんですか?

古野:FFS理論の診断を受けてもらえれば。実はいつもそういう分析をやっています。例えば役員会に出席する5~6人の自己診断データがあったら、「Aさんが口火を切って、Bさんがフォローして、Cさんがこう反論して……おそらくこういう会議になっているんじゃないですか」と、その会議の展開を説明することができるんですよ。

ご本人には会わずに?

古野:はい、一度もお会いしなくても議論がどう進むか予測して、それがだいたい当たります。「どうして分かるんですか、隠しカメラで見てきましたか?」と言われることもあるくらい。

チームの中のダイナミズムを予測できる

古野:まあ、これは自慢ですが(笑)、何が言いたいのかというと、「この人はこういう人ですよ」というところで終わるのではなく、チームの中のダイナミズムを予測できる、というのが企業にとってFFS理論が最も活用できるポイントだと思うんですよ。

今井のり・レゾナックHD常務CHRO(以下、今井):そう、人の個性は実は相対性なんですよね。固定したものではなくて、メンバーに新しい人が入ってくると、その関係性の中で変わったりする。

 実は私が本当に興味があるのもそこなんです。人って環境で変わるし、お互いの関係性でも変わる。さきほど話題に出た「カオス」(FFS理論×レゾナック=「“変な人”を受け入れて成長しよう」)は、環境や関係性を変える場面でもあるわけです。それをどうチームの力につなげていくのかというところが、本当に、自分が最も興味のあるところですね。

こういうご自身の興味関心と経営のつながり方を、企業の役員の方から聞くのは珍しいので、すごく興味深いですね。

今井:そうですか。こういう話をするのがめちゃめちゃ好きなんですよ(笑)。

メンバーによって出てくるところが変わる

古野:メンバーの関係性で言えば、今井さんは「拡散性」が高いんですけど、我々の知人にはもう1人、Nさんという、もっと「拡散性」が高い人がいるわけですよ。

今井:そう、彼女はすごいですよね。

古野:その彼女がメンバーに入ると、今井さんが静かな人に見える(笑)。

今井:めちゃめちゃ静かな、もう完全に「受容性」が高い人になりますよ。それで何でも受け止める。

向こうが「拡散性」が高いと、相対的に今井さんの次に高い因子の「受容性」が出てくると。

古野:そうそう。

なるほど。組み合わせで出てくる部分が変わる。

古野:「この人はこういう人です。以上」ではなく、「この人がこういうメンバーと組み合わさると、こういう面が出るし、違うメンバーだとこう出る」というところまで予測する。やっぱり誰と組むかとか、どういうチームに入るかによって、同じ人でもパフォーマンスが変わるわけですよ。

はい、それはおそらくこの記事を読んでいる方全員がうなずいてくださると思います。

ずっと「ロジカルに使える」ツールを探していた

古野:そうすると今、結果が出てない、評価されてない人がいたとして「では、こっちのチームに入ってもらいましょう」と異動してもらった途端に、この人の良さがぽんと出てくる。そういうことが実現できるんですよ。

そこまで言っていいんですか。

古野:もちろん。そして、僕らとしてはぜひFFS理論を活用してこれを実現してほしいんですが、やっぱり旧来の人事の仕組みだと、それはなかなかそういうチャンスがもらえないんですね。

今井:一方で、たぶん誰もが体感として、スキルセットは同じでも、座組が変わると成果も変わってくることは知っているはずなんですよね。じゃあ、それをロジカルにひもとこうよ、ということが、これでできる。ですので、FFS理論を導入したわけです。

今井 のり(いまい・のり)レゾナック・ホールディングス常務、最高人事責任者(CHRO)
今井 のり(いまい・のり)レゾナック・ホールディングス常務、最高人事責任者(CHRO)
1995年慶応義塾大学理工学部卒。旧日立化成に入社。経営企画、オープンイノベーション、海外営業(米国駐在)、複数事業の企画・事業統括を経て、2019年執行役(日立化成)に就任。昭和電工との統合では日立化成側の責任者として統合をリードした。

今井さんはそういうツールをずっと探してきて、出合ったという感じですか。

今井:探していました。例えばMIT(米マサチューセッツ工科大学)の研究とか、米国ではその手の、ソーシャルフィジックス(社会物理学:データを用いて人々の行動や社会の動きを理解し、予測する学問)などが進んでいて「この研究、面白いな」と思うことはあったんですけれど……なんといってもFFS理論は、実行がとても簡単なんですね。

いや、正直私もそうでしたし、読んだ方も、「こんなシンプルな診断で、どうしてそこまで言えるの」って思いますよね。

今井:でも、簡単に診断できなかったら企業で展開することができない。

あ、それはそうですね。

今井:複雑で、おカネと手間暇がかかって診断結果の理解も難しいとなったら、どんなに精度が高くても肝心の現場で使えないじゃないですか。この簡単さで、ここまでできるというのが、企業にとってはすごくありがたい。

能力は思考の上に伸びていく

お聞きしていて思ったのですが、人のパフォーマンスが関係性で変わってくる、という意識を持つと、「能力」という概念の印象も変わりますね。エンジンの最高出力みたいなイメージでしたけれど、環境によって出力が変わってくるわけだから、一定のものじゃないわけで。

今井:そう、そうなんですよ。能力の前にその人の思考があって。

古野:それは分けて考えてもらったほうがいいですね。

今井:能力は後から経験だったり勉強だったりでどうにかなるものなんです。だけど、思考、考え方のOS(基本ソフト)みたいなものでしょうか、こちらは、好きか嫌いかとか、快、不快とかなんですよね。人間の根本的なものをベースにしている。

古野:ですので、基本的に変わらない。

今井:その特徴、伸ばし方を知って、あとはどういう経験をどんな順番にしてもらうのかという、そこはもう人事戦略の話になると思います。

人事担当者の実体験でも組織が動いていた理由

それを考えて配置すれば、その人も伸びるし業績にもつながる。じゃあ、これまでの人事は何を頼りに人を動かしていたんでしょうね。

今井:それは人事の個人の経験値ですよ。

古野:実体験で得たものですね。

今井:例えば私みたいな立場の人が、自分なりの判断でその人をアセスメント(評価)して、「だいたいこんなところかな」と、組織にはめ込んでいたという。たぶん、その繰り返しなんです。

それでよくまあ……。

今井:うまくいってきたのはなぜかと言えば、昔はみんなが同じ釜の飯を食べて、全員一緒に新入社員のときから一緒に育ってきた組織が、右肩上がりの成長をしていたから、です。

 それはそれでよかったと思うんですよ。みんな知り合いだし、同じチームでやっていける、ということを確認しながら育っていくので。だけど、今みたいに事業環境が複雑になってしまい、人やおカネの流動性も高まって出入りも激しい中だと、変数が多くなって。

古野:文字通りの意味での「適材適所」が必要になってきた。

今井:そもそも、限られた人数の人事の人が社員全員を知るということからしてもう無理なので、従来のやり方での適材適所の実現はなかなか難しいんじゃないかなと。

古野:昔ある会社で人事部長に、まさにそういう説明をしたんです。「たった5、6分、質問に答えるだけで、その社員のことが分かるのか」と聞かれて「はい」と言ったら、「俺は新入社員のときから製造会社で現場の労務をやって20年、いろいろな社員と会ってきた。その自分の持っているデータベースが必要ないというのか。俺の20年の意味がなくなる。そんなもの絶対に使わない」と、はっきり言われました。

すごいですね。ある意味潔い。

「新しい試み」のために経験値を超える

古野:この方は決して能力がないわけではなくて、これまでの人事担当者の1つのモデルとも言えるんです。現場に行って、いろいろな人と飲み食いして、人となりを知って、ああ、彼はいいところがあるよね、彼女は今こんな希望を持っているんだね、ということでデータベースを作っていったんですよ。

 それは現代でも望ましいことだし、良き人事カルチャーかもしれないです。けれども、これをやっているだけだと、前例がないこと、新しい組み合わせが生まれにくいんですよ。

今井:ああ、分かりますね。

私には分かりません、どういうことでしょう。

古野:例えば、「この工場の人はずっとこの工場で、こっちの開発の人は開発で」と、人と組織が強くひも付くんです。失敗したことがなければないほど新しいことができないし、そもそも「1回交ぜてみようか」ということは思いつけない。理由がないから。そして思いついたとしても、やっぱり不安でできないんです。

 でもそこに、科学的なアプローチで、「いや、この人はこっちの組織で伸びる可能性が高いですよ」となったら、人事としても「やってみましょう」と決断ができるじゃないですか。未来をつくる人事としてはそれが必要になってくる。でも、どちらかというと過去を整理して、そのちょっと先ぐらいのところにしか意思決定できないのが従来の人事だったんじゃないかな、と思うんですね。

あー、FFS理論なり何なりの根拠がないと、新しいことをやるにしても「こうしたらこうなる」という仮説が作れないわけですね。やってみなければ分からない、という。

古野:そう。そして試すのが不安だから、できるだけ身近な。

あんまり影響が出ないような形で。

古野:その中でやる。

そうか。ロジックがあることで、大胆に長期的に試せるということか。

今井:そうですね。やっぱりみんながみんな、それですべてが解決できるわけではないんですけれども、1つの根拠に基づいてやってみて、じゃあ、検証してみよう、というサイクルを回せる。企業の人事担当としては、そこがとにかくありがたいんです。

(次回に続きます)

日経ビジネス電子版 2025年2月26日付の記事を転載]

この本が紹介している「FFS理論」は、すでにレゾナック、マネーフォワード、ポーラ・オルビスホールディングスなど日本の多くの企業に採用され現場で活用されています(チーム分析・編成の活用事例約900社、65万人)。部下の指導に悩む上司の方、そして理解のない上司に悩む部下の方どちらにとっても活用できる「楽しく働き結果を出す」ための本です。

古野 俊幸(著)/日経BP/1980円(税込み)