2022年12月から2023年11月に刊行された本を対象に、ビジネスパーソンが読むべき本を読者の投票で選出する「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」(フライヤー、グロービス経営大学院共催)の結果が2024年2月13日に発表され、「特別賞・グロービス経営大学院賞」に『冒険の書 AI時代のアンラーニング』(孫泰蔵著/日経BP)が選ばれました。同賞の選考にあたったグロービス経営大学院経営研究科長の君島朋子さんに選出理由を聞きました。
AI時代を捉えた1冊
私たちがビジネスパーソンに『冒険の書』をお薦めしたい、読んでもらいたいと思う3つの理由についてお話しします。
まず、1番目の理由としては、非常に「時代を捉えた本」だということです。サブタイトルは「AI時代のアンラーニング」ですが、この本が出版された2023年といえば、我々もビジネスカンファレンスをすれば生成AI(人工知能)が話題となった1年でした。AIをはじめとするテクノロジーの進歩は、産業のあり方や仕事のあり方を大きく変え続けています。生成AIの登場によって、将来の労働の変化(AIがロウワー・ホワイトカラーの業務を代替すること)がいっそう現実化しました。これは単なるITの進歩にはとどまらず、さらに産業の再編が進み、労働のあり方が変わる、大きな変化と捉えるべきです。
この変化を前に、リスキリングがよりいっそう強く叫ばれ出しています。リスキリング自体は以前から注目されていたものの、新型コロナウイルス禍が落ち着き、ビジネスパーソンがようやく自分の課題として捉えたのが2023年だったのではないでしょうか。しかし、何をどう学べばいいのか分からない──という時代の流れに「AI時代のアンラーニング」がマッチしていたと感じます。
そして、2点目は「アンラーニング」というメッセージです。リスキリングは一般的に、企業側が推進して労働者のITスキルをアップデートし、新たなITを活用した業務に就けるようにすることを指します。しかし、今やプログラミング自体もAIに置き換えられる時代ですから、単にITスキルを習得するだけでは生き残れません。今までの経験や価値観を問い直し、何を学び、どんなことがしたいのか、自ら考えねばなりません。このような姿勢が、まさに「アンラーニング」という学びのあり方や自ら問いを立てる力に通ずるのではないでしょうか。
一方で学ぶ側の人々の価値観も変化してきており、スキルを習得して労働力の一部になるよりも、「社会課題を解決したい」「より良い未来をつくりたい」といった思いが強まっているのではないでしょうか。人生100年時代となり、もしかしたら70歳、80歳まで働くかもしれない──となると、「そんなにも長時間働いて、いったい自分は仕事を通じて何をすべきなのか」という思いが湧き上がってくるのは当然のことだと感じます。
「意義ある仕事を行っていくためには新たに学ぶ必要があるけれども、どうやって学べばいいのか分からない」、そう悩む方も多いのではないでしょうか。「今までの自分にどのような知識を追加すればいいのだろうか」「新たに学ぶのは気が重い」といったビジネスパーソンの心の声に、「だからこそ、既存の価値観や固定観念から問い直す“アンラーニング”が必要なんだ」という答えをこの本が示してくれた意味は大きいと思います。
また、3点目は「グロービス経営大学院賞」と私たちの学校名を賞に付けさせていただいていますが、この本の勧める学び方がグロービス経営大学院での学びとも通ずるためです。
私たちはビジネスパーソンの学び方について、時代に合わせてどのようなリーダーを育てるべきか、学習方法は何がいいのか探求を重ねてきましたが、この本の最後の章で書かれているように、「異なるバックグラウンドを持つ他者との対話」を重要視しています。ビジネスパーソンが学ぶとき、座って講師の話を聞くだけの座学ではなく、インタラクティブな対話が効果的です。グロービスのクラスでは、それぞれが自分のキャリアに立脚した意見や価値観を持ち、他者にぶつけます。そうすることで自分自身の考えを掘り下げ、他者から新たな視点も学べ、自分を成長させることができるのです。
グロービスでは2025年度から、MBAプログラムを「テクノベートMBA」「エグゼクティブMBA」という2つに分けることになりました。変化の激しい時代において、求められる人材も変わっていきます。テクノロジーで変わりつつある経営環境を読み解き、新たな産業のあり方を見通し、自組織がどう変わるべきかを考えたり、新たにどのようなビジネスモデルを作ればよいかを構想したりできる人材が必要です。こうした人材こそ、本当に生み出すべきリーダーであり、あるべきリスキリングの行き先であると考えます。
本の世界に入り込める構成
ここまでグロービスとしてこの本を選んだ理由をお話ししてきましたが、『冒険の書』というタイトルの通り、手に取る楽しみがある本だと思います。ビジネス書には珍しく挿絵が多くあり、主人公が時代を超えて世界の賢者と対話して疑問を解決していく――といった構成も良く、本の世界に入り込めます。
主人公の疑問も「勉強は本当に必要なのか?」「どうして楽しくないのか?」など、子どもから大人になる過程で誰しもが思ったことのある素朴な問いから始まります。いくら主人公の問いや過去の賢者の知恵が素晴らしくても、今の自分とあまりにもかけ離れていると学びにつながりにくくなりますが、この本はそんな素朴な疑問から始まり、新時代を提示し今を生きるビジネスパーソンに直結する内容だと思います。
中には現代社会のあり方に対し批判的な記述もあり、すべてに賛同しているわけではありません。しかし、それくらい大きな警鐘を鳴らすほどの時代の転換点でもあると言えます。強烈なメッセージングだからこそ、多くのビジネスパーソンが一度立ち止まって「今までの自分の学びは何だったのか」「意味ある学びだったのか」と自分の考えを深めることにもつながるのではないでしょうか。
新時代を生きる上で指針や勇気を与えてくれる、まさに「冒険の書」をワクワクしながら読んでほしいと思います。
もしも今、1つの価値観や狭い世界の中で窮屈だったり、苦しんだりしているなら、「その外にも世界はたくさんあるよ」「そして、どんどん変わっていくんだよ」と伝えたいと思います。もっと気楽に、視野を広げていけば、きっと自分に合う世界はあるはずです。いわゆる「ビジネス書」とは違うかもしれませんが、ビジネスパーソンの皆さんにも読んでもらい、何かヒントになることがあればうれしいです。
取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか
起業家・孫泰蔵が最先端AIにふれて抱いた80の問いから生まれる「そうか!なるほど」の連続。読み終えたあと、いつしか迷いが晴れ、新しい自分と世界がはじまります。
孫泰蔵著/日経BP/1760円(税込み)



