2022年12月から2023年11月に刊行された本を対象に、ビジネスパーソンが読むべき本を読者の投票で選出する「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」(フライヤー、グロービス経営大学院共催)が2024年2月13日に発表されました。総合グランプリを獲得した『きみのお金は誰のため』のほか、各部門賞のうち「イノベーション」「マネジメント」「政治・経済」について、共催者であるフライヤー代表取締役CEOの大賀康史さんが解説します。

トレンドが大きく転換した年

 「読者が選ぶビジネス書グランプリ」は2024年で9回目を迎えました。総合グランプリのほか、6つの部門賞、2つの特別賞(ロングセラー賞、グロービス経営大学院賞)があり、今回の受賞作は以下の通りでした。

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」の受賞作
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2024」の受賞作
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 今回の傾向としては、新型コロナウイルス禍が明けて、人々の価値観の仕切り直しを映し出した本や、「個」に焦点を当てた本が多かったと思います。

 そのうえで、この1年間はトレンドが大きく転換した年でもありました。まず、1つ目がChatGPTに代表される生成AI(人工知能)。もう、誰の目から見てもAIの進化が明らかになりましたよね。特に有料版のChatGPT Plusは人間以上のパフォーマンスを出す部分もあり、これまで「知性だけは人間がAIに勝る」と思われていた最後の砦(とりで)が崩壊しつつあります。「この先、自分の仕事はどうなるのか」といった現実を突きつけられたように感じた人も多かったのではないでしょうか。

 また、2つ目の大きな流れとしては、長らく日本はデフレ経済の中にありましたが、インフレに転換し、身の回りのモノの値段が上昇しています。今後はおそらく、米国の金利低下が予想される中で、株式市場がより活発になるでしょう。日本国内では新NISA(少額投資非課税制度)も始まり、「貯蓄から資産形成へ」という流れが加速していくと思います。

 3つ目は先ほども述べた「個」です。大谷翔平選手が野球の世界大会WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)と米大リーグでMVP(最優秀選手)を獲得したり、藤井聡太さんが将棋で史上初のタイトル八冠を達成したりと、圧倒的な個人の活躍が注目を集めました。

 入賞作品はこの3つの流れに、何かしら関係しています。まずはグランプリから見ていきましょう。

総合グランプリ『きみのお金は誰のため』

 総合グランプリとリベラルアーツ部門賞を同時受賞した『 きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」 』(田内学著/東洋経済新報社)は、今までのお金に対する考え方がかなり変わる1冊です。

総合グランプリを受賞した『きみのお金は誰のため』の著者、田内学さん
総合グランプリを受賞した『きみのお金は誰のため』の著者、田内学さん
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 従来、お金といえば「富の象徴」「人生をかけて手に入れるもの」と思われていたのではないでしょうか。しかし、この本では「社会をより良くするもの」「社会を回すためのもの」として位置づけられており、「お金自体には価値がない」「お金で解決できる問題はない」とも書かれています。

 面白いのはお金をもうけることを否定しているわけではなく、お金を肯定的に捉えているところです。あくまでフラットに、客観的にお金というものの存在を見つめ直せます。

 小説形式で、伏線があちこちに張られたミステリー的な要素もあり、最後まで飽きずに読み進められます。お金はすべての人にかかわるものですし、ぜひ手に取ってみてください。学生から働き盛りのビジネスパーソンまで、誰もが楽しめます。

イノベーション部門賞『温かいテクノロジー』

 『 温かいテクノロジー AIの見え方が変わる 人類のこれからが知れる 22世紀への知的冒険 』(林要著/ライツ社)が発売されたのは2023年5月下旬。まさにChatGPTによるAIショックが大きな注目を集めていた時期に発売された1冊ですが、この本に書かれているのは「仕事を奪うAI」ではなく、「人間と共存する」家族型ロボットのLOVOT(らぼっと)。著者はLOVOTの開発を手掛けた林要さんです。

イノベーション部門賞『温かいテクノロジー』の著者、林要さん。抱えているのはLOVOT
イノベーション部門賞『温かいテクノロジー』の著者、林要さん。抱えているのはLOVOT
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 LOVOTは38度ぐらいの体温があり、10億通り以上の瞳と声を組み合わせられる愛らしいロボットです。海外でロボットというと、ターミネーターのように人間を侵略・攻撃する存在として登場しがちです。でも、日本では鉄腕アトムやドラえもんなど、「人を支えてくれるもの」という認識ですよね。まさにLOVOTもそうした日本ならではのロボットです。本にはLOVOTと暮らす人々の声も紹介されているのですが、それが文学的で、泣けるんです。

 今はAIやテクノロジーと聞くと「便利な半面、人間の仕事を奪うもの」と考えがちですが、ロボットが人間を支えてくれたり、孤独を埋めてくれたりする──というまた違ったAIとテクノロジーの一面が見える1冊です。

マネジメント部門賞『任せるコツ』

 『 任せるコツ 自分も相手もラクになる正しい“丸投げ” 』(山本渉著/すばる舎)は、ビジネスパーソンの悩みである人のマネジメントについて書かれています。これまで「任せる」というと、上から下へと丸投げして、有無を言わせない雰囲気がありましたよね。

マネジメント部門賞『任せるコツ』の著者、山本渉さん
マネジメント部門賞『任せるコツ』の著者、山本渉さん
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 今では丸投げはパワハラ行為になりかねず、どうやって人に任せればいいのか悩むところですが、この本には相手のためにも自分のためにもなる「正しい丸投げ」の方法が書かれています。相手に対するリスペクトと思いやりが根底にあれば、任せることは相手のためにもなるし、自分のためにもなる──といったヒントがちりばめられていて、この本が話題になるのも納得です。

政治・経済部門賞『社会の変え方』

 『 社会の変え方 日本の政治をあきらめていたすべての人へ 』(泉房穂著/ライツ社)の著者は、衆議院議員(1期)、兵庫県明石市長(3期)などを務めた人です。市職員などに対する暴言も問題になりましたが、その一方で子どもの医療費無償化や犯罪被害者等支援条例、離婚後の子ども養育支援といった特色ある施策を進め、明石市は各メディアの住みたい街ランキングの上位にランク入りしています。

政治・経済部門賞を受賞した『社会の変え方』の著者、泉房穂さん
政治・経済部門賞を受賞した『社会の変え方』の著者、泉房穂さん
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 この本では、なぜ泉さんが政治家を志したのかという半生も書かれていますが、根底には実の弟が障害者であり、冷たい社会に対する憤りがあったそうです。そこで「覚悟を決めて政治をする」ため、NHKやテレビ朝日で働いたのち、弁護士に。そこから時を経て、2011年に明石市長選に出馬しますが、支持団体はなく、支持母体は市民だけという状態でした。それでも69票差という僅差で激戦を制します。その後、数々の改革を行ったことで、明石市は活気を取り戻します。

 こうした明石市の改革は、ほかの地方自治体や国政にも応用できるヒントがたくさんあり、再現性も高いと思います。そして、明石市長を退いた泉さんが今後、どのように活動されるかも気になりますね。

 次回はビジネス書グランプリ2024の残る3部門についてお話しします。

(後編に続く)

2024年2月13日、表彰式が行われた
2024年2月13日、表彰式が行われた
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取材・文/三浦香代子