累計140万部のベストセラー『さあ、才能(じぶん)に目覚めよう 最新版』(ジム・クリフトン、ギャラップ著/古屋博子訳)は、ウェブテストによって自分の強みを34に分類された資質で知ることができ、企業や団体での活用が広がっている。立命館守山中学校・高等学校の教諭であり、ギャラップ認定ストレングス・コーチ(*)の資格を持つ加藤智博氏も、学校の教員など向けにクリフトンストレングスを活用している。教育現場での可能性について語ってもらった。

*『さあ、才能に目覚めよう』の著者であるギャラップ社が、クリフトンストレングス[R]を使用して、他者の能力開発を支援することを認定したコーチ。

価値観が違う相手とも対話できる

 加藤氏がクリフトンストレングスを知ったきっかけは、8年ほど前、あるストレングス・コーチが開催したワークショップだ。参加者が2人1組になって、ウェブテストで明らかになった自分の資質が、日常生活の中のどんな場面で表れているかを互いに説明し合い、自己理解・他者理解を深めるという内容だった。

 「その衝撃はすごかったですね。事前に『さあ、才能に目覚めよう』を買ってウェブテストを受けてみて、自分の資質として示されたものを見たときには、“半分納得・半分はハテナ”と思っていましたが、ワークショップを経て自己理解が深まりました。強みがあると自覚できたことで、自分の中のネガティブな部分でさえかわいらしく感じてくる、自己受容のような感覚もありました」

 また、「どうしてこの人はこうなんだろう」という、それまで抱いていた他者への批判的な思いは、「この人は自分にない資質を持っている人なんだ」という捉え方に変わったという。

クリフトンストレングスのワークショップに参加して衝撃を受けたという加藤氏(写真:小野さやか)
クリフトンストレングスのワークショップに参加して衝撃を受けたという加藤氏(写真:小野さやか)
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加藤 智博(かとう・ともひろ)
立命館守山中学校・高等学校 教諭
1982年、鳥取県鳥取市生まれ。2008年より教員となり、15~20年まで、教育改革で注目を集めた東京・千代田区立麹町中学校で生活指導主任と学年主任を兼務。20年より現職。コーチングや脳神経科学、ポジティブ心理学、マインドフルネスなどを取り入れた教育実践を行っている。最近は、学校の組織開発にも関心を持っている。ギャラップ認定ストレングス・コーチ。

『さあ、才能に目覚めよう』と「クリフトンストレングス」

 書籍『さあ、才能に目覚めよう』に添付されたアクセスコードを使用することで、自分の強みが分かるウェブテスト(クリフトンストレングス)を受けることができる。テストの質問に答えていくと、回答者の強み(資質)が明らかになる。資質は4つのカテゴリーで34に分類されており、テストによって上位5つの資質が分かる仕組みだ。

 各資質の内容やそれを生かすための行動アイデア、各資質を持つ人との働き方については、本書で詳しく解説している。

<34の資質>
○実行力
 達成欲/アレンジ/信念/公平性/慎重さ/規律性/目標志向/責任感/回復志向
○影響力
 活発性/指令性/コミュニケーション/競争性/最上志向/自己確信/自我/社交性
○人間関係構築力
 適応性/運命思考/成長促進/共感性/調和性/包含/個別化/ポジティブ/親密性
○戦略的思考力
 分析思考/原点思考/未来志向/着想/収集心/内省/学習欲/戦略性


 この体験後、クリフトンストレングスを教育現場に取り入れたいと考えた加藤氏は、ストレングス・コーチの資格を取った。

 「教育現場に導入したい理由の1つは、組織開発に役立つからです。残念ながら、今の学校には組織開発のノウハウがありません。経験ベースの組織づくりが多くて、教員がそれぞれの資質を生かし合えていないのです。クリフトンストレングスによって資質を視覚化できれば、有効に働くと思いました。

 また、他者と対話ができる環境をつくることもできます。教育現場では今、いろいろな価値観が入り乱れています。『従来の教育を変えなければならない』とか『時代が変わっても、守っていく教育スタイルがある』とか考え方は様々で、中には自分とタイプの違う同僚をなかなか受け入れられない人もいます。こうした状況を打開するためには、互いを尊重し、対話ができる土壌づくりが必要です。ここにもクリフトンストレングスが使えるのではないかと考えました」

教員でクリフトンストレングスを実践

 ストレングス・コーチの資格を取得後、加藤氏は知り合いからの依頼でオルタナティブ・スクールの教員向けにチームコーチングをしたり、教員を中心に自身の強みやクリフトンストレングスに関心のある人に1 on 1コーチングをしたりといった活動をしていたが、2023年には自身が務める立命館守山中学校・高等学校で、同じ学年を担当する教員8人とクリフトンストレングスを利用したチーム・ビルディングに取り組むことになった。

 「前の学年から引き続き担当する人もいましたし、その年から担当に加わる人もいましたが、これから1年間、同じ学年を担当するワンチームになるわけですから、お互いの資質を理解し、尊重し合えるようになれたら……と思ってやってみたんです。

 最初に私が1人ずつと話をして(1 on 1)、その後チーム全員で資質に基づいた自己紹介を行う(チーム・コーチング)というステップで進めました。それぞれが自分の資質を発表すると、他のメンバーが『分かる!』とリアクションしていたことがとても印象に残っています」

教員8人の資質の分布。数字は資質のトップ5を表す。仕事の特徴からか「人間関係構築力」に資質が集まっている
教員8人の資質の分布。数字は資質のトップ5を表す。仕事の特徴からか「人間関係構築力」に資質が集まっている
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 チーム・コーチング後は、互いに「今の行動って、○○の資質が出てるんじゃない?」というようなやり取りが盛んに交わされていたという。そうした会話の中でメンバーは互いの資質を理解し、尊重し合う関係性を築いていったようだと加藤氏は振り返る。

 「クリフトンストレングスだけの効果とは限りませんが、結果的にものすごく明るいチームになりました。日常的なコミュニケーションも活発で、周りから『やかましい』と言われるくらいでした(笑)」

 こうした加藤氏の取り組みを知った四條畷(しじょうなわて)学園からは、11名が参加する自主研修会の場でのチーム・コーチングを依頼された。加藤氏は立命館守山中高と同様の内容に加え、与えられたミッションを成功させるため、どうすればチームメンバーの資質を生かし合えるかを考えるワークショップも実施した。

 「参加してくださった先生たちからすごくいいフィードバックをもらえました。自己理解が深まったとか、学園全体でやったほうがいいと思うとか、どこをリスペクトすればいいかがすごく分かりやすくなって、他者への眼差しが変わったとか……。これは価値観の違いがあっても対話できる環境をつくるのに重要なことで、コーチをした私としても成果を感じました」

四條畷学園で行われた研修(チーム・コーチング)(写真提供:四條畷学園)
四條畷学園で行われた研修(チーム・コーチング)(写真提供:四條畷学園)
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生徒理解やウェルビーイングに役立つ

 変化したのは教員同士だけではない。生徒たちに向ける眼差しにも変化があったと加藤氏は言う。

 「私自身もそうですが、子どものポジティブな面に目が行くようになると、皆さんおっしゃっています。我々教員は、その子のできていないところに目が行ってしまいがちです。できていないところを伸ばす、つまりマイナスをゼロにすることを教育と捉える文化は、日本ではまだまだ根強いと思うんですよね。でも、生徒指導(私はこの言葉はあまり好きではないのですが)、生徒支援においては、その子の持つ強みに目を向けて、そこを伸ばしていくことが大切だと感じています」

 さらに加藤氏は、教員のウェルビーイング(心身の健康や幸福)向上への効果にも期待している。

 「同僚の働きを見て『自分はどうしてできないんだろう』とか『なぜ自分はここをうまくやれないんだろう』とかそんなストレスが積み重なっていく、それで自己肯定感が下がる、多忙での疲労もあいまって負の気持ちが強くなる、気持ちに余裕がないから子どもに対して強く当たったり自分が望んでいない指導をしたりしてしまう、そのことへの自己嫌悪からパフォーマンスが下がる……そういう悪循環にはまって、ウェルビーイングが下がっている教員がとても多いんです。

 でも、自分の資質を理解して、どうすればそれを強みとして発揮できるかが分かれば、働きがいが見えてきて、いいサイクルを回し始める起点になるのではないかと思います」

 学校における組織開発、生徒理解、教員のウェルビーイング。この3方向の可能性を持つクリフトンストレングスを、さらに世の中に広げていきたいという加藤氏。現在はストレングス・コーチとしての活動のほか、講演会などで、人それぞれが持つ資質を理解することの重要性を説いている。

「子どもが持つ強みに目を向けて、そこを伸ばしていくことが大切」(写真:小野さやか)
「子どもが持つ強みに目を向けて、そこを伸ばしていくことが大切」(写真:小野さやか)
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取材・文/暮 論子

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ジム・クリフトン、ギャラップ著/古屋博子訳/日本経済新聞出版/2420円(税込み)