ITサービスや社会インフラなどの事業を手掛けるNEC(日本電気)は、グループ全体で約12万人の社員を擁する巨大企業だ。2018年、ある1人の社員が、累計140万部のベストセラー書籍『さあ、才能に目覚めよう』と出合ったことをきっかけに始めた自分の強みを理解するための草の根的な活動が、今、徐々にグループ企業にまで拡大しつつあるという。この活動の推進役となっており、ギャラップ認定ストレングス・コーチ(*)の資格を持つ同社の山田朱美氏、篠原知子氏、下川裕太郎氏に詳細を聞いた。

*『さあ、才能に目覚めよう』の著者であるギャラップ社が、クリフトンストレングス[R]を使用して、他者の能力開発を支援することを認定したコーチ。

口コミで他部門へも広がる

 書籍『さあ、才能に目覚めよう』のウェブテストで分かる自分の強み(資質)の活用を18年に始めたきっかけについて、山田朱美氏はこう説明する。「当時、現場革新をリードする役割を担っていたのですが、社員同士のコミュニケーションに課題を感じていました。そんなときに読んだのが『さあ、才能に目覚めよう』です。同じ頃、ある部門でもこの本が話題になっていて、一緒に本の内容を実践してみることになりました」

『さあ、才能に目覚めよう』と「クリフトンストレングス」

 書籍『さあ、才能に目覚めよう』に添付されたアクセスコードを使用することで、自分の強みが分かるウェブテスト(クリフトンストレングス)を受けることができる。テストの質問に答えていくと、回答者の強み(資質)が明らかになる。資質は4つのカテゴリーで34に分類されており、テストによって上位5つの資質が分かる仕組みだ。

 各資質の内容やそれを生かすための行動アイデア、各資質を持つ人との働き方については、本書で詳しく解説している。

 さらに、有料サービスを活用することで、すべての資質のランキングを知ることができる。

<34の資質>
○実行力
 達成欲/アレンジ/信念/公平性/慎重さ/規律性/目標志向/責任感/回復志向
○影響力
 活発性/指令性/コミュニケーション/競争性/最上志向/自己確信/自我/社交性
○人間関係構築力
 適応性/運命思考/成長促進/共感性/調和性/包含/個別化/ポジティブ/親密性
○戦略的思考力
 分析思考/原点思考/未来志向/着想/収集心/内省/学習欲/戦略性

 同部門で始まった活動は徐々に口コミで広まり、21年にはカルチャーXチームというタスクフォース・チームが立ち上がった。現在は主にデジタルプラットフォームビジネスユニットを対象に、ワークショップを通して自他の強みを理解し、仕事やチームビルディングに役立つ取り組みを展開している。活動が広がる中で、34の資質すべての結果を見ることができる有料サービスの利用を始めた。

山田朱美氏
山田朱美氏
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山田 朱美
NEC デジタルプラットフォーム企画統括部 兼 カルチャー変革統括部 主任
入社後、金融部門の予算担当を経て、人材開発、戦略企画などに従事。現在はビジネスユニットのカルチャーX活動を中心に、チームビルディングや対話会ファシリテーションなどのコミュニケーション活性化に注力。心理学やコーチングのスキルを生かして、企画立案、各種施策推進を行っている。Top5資質は、「社交性・コミュニケーション・ポジティブ・活発性・最上志向」。

自他理解を深める基礎ワークショップ

 カルチャーXチームでは、ウェブテストを受けて自身の強みを明らかにした社員を対象に、2時間の基礎ワークショップを、前編・後編の2回に分けて実施している。テストを受けるのは任意であり、受けた人には基礎ワークショップを展開している。グループ全体で約3600人がテストを受け、1900人以上が基礎ワークショップに参加したという。

 基礎ワークショップは参加者を3~4人ずつに分け、グループワークを中心に行われる。前編の大きな目的は、参加者が自分の強みを理解することにある。まず自身の資質トップ5を対象に、それがこれまでのどういう行動に表れていたかを振り返って、グループメンバーに説明する。

 「過去の体験と資質をひもづけてエピソードとして話すことで、無意識だったものを意識化、言語化するのです。テストで見えてきた資質には、自分では納得できないものもあるかもしれませんが、グループの中で話しているうちに気づきが生まれるケースもあります」(下川裕太郎氏)

下川裕太郎氏
下川裕太郎氏
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下川 裕太郎
NEC ピープル&カルチャー部門 HRコンサルティング統括部 主任
入社以来、人事および組織・人材開発業務に従事。事業部門単位から全社単位まであらゆる層の組織・人材開発を担当。19~22年の3年間は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に出向。スキル標準やデジタルリテラシーの整備、調査事業、トラパタ・まなパタの作成などを担当。現在は人事業務を行いつつ、カルチャーXの活動に力を入れている。Top5資質は、「最上志向・着想・適応性・個別化・自我」。

 後編では、自身の資質トップ10が書かれたパネルを机のイラストの中に置いていく(図1)。資質AとBを利き手とは逆の引き出しに入れる理由、資質Cを照明の下に置く理由など、過去の自分の行動パターンを考えながら作業することによって、自分の中での資質の位置づけや資質を活用する順番、さらには資質同士の関係性も見えてくる。

図1 資質を机のイラストに置いた例
図1 資質を机のイラストに置いた例
(出所)Gallup[R]より NEC作成
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 「人が持つ強みは1つだけではないので、こうした作業を通して、強みを活用する際の勝ちパターン、方程式が見つけられるのです。最後にこの方程式をグループメンバーに発表します。このワークを実施すると、『初対面なのに人となりやキャラクターが分かった気がする』『普段、どんなふうに仕事をしているのかが見える』という意見が多く出てきます。クリフトンストレングスという共通言語のもとでワークをするので、短い時間で他者への理解が深まり、グッと距離が縮まるのです」(篠原知子氏)

篠原知子氏
篠原知子氏
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篠原 知子
NEC ピープル&カルチャー部門 HRコンサルティング統括部 プロフェッショナル
入社後、製品・サービスの企画、販売推進業務を経て、事業戦略、パートナーアライアンスに従事。20年にNEC Growth Careers(社内異動制度)を利用し、人事および組織・人材開発業務担当にキャリアチェンジ。現在は人事業務を行いつつ、組織の枠を超えてカルチャー醸成の活動を進めている。Top5資質は、「個別化・着想・最上志向・適応性・活発性」。

役割が分かるチーム・ワークショップ

 基礎ワークショップを受講し、自己理解を深めた人を対象として、チーム・ワークショップも実施されている。基礎ワークショップは組織の横のつながりをつくるという目的も含んでいるので、できるだけ違う組織の人を組み合わせてグループを組成しているが、チーム・ワークショップは業務チーム単位(おおむね20人まで)で実施される。

 こちらも前編・後編に分かれており、前編では用意されたフォーマットに合わせて各自が「私の取扱説明書」を作りメンバーで共有、後編では、様々な強みを持つ個人が集まったチームがどうすれば生き生きできるか、どういう強みを出せるかを全員で考える。

 「自分がチームにどう貢献できそうかを話したり、他のメンバーから『あなたはこういう面で貢献してくれている』という意見を聞いたりすることで自己肯定が促され、自分の“居場所”が分かってくるようになります」(下川氏)

 優秀な人材が数多くいる技術チームに配属され、自分には何もできないと思っていた人が自分の強みを知り、「こういうことをやるとチームに貢献できるかもしれない。知識がないから役に立たないわけではない」と気づいて、モチベーション向上につながった例もあるという。

 効果は数字にも表れている(図2)。チーム・ワークショップの実施後、参加者にアンケートを取ったところ、「チームメンバーの強みや頼りたいことの理解度」は1.5ポイント、「チーム内における自身の強み理解度」は1.3ポイント、「チーム活動で貢献できそうか」は1.1ポイント向上した。

図2 チーム・ワークショップ実施前後の意識の変化
図2 チーム・ワークショップ実施前後の意識の変化
(注)各項目を5段階で評価したものを集計して平均値を求めた
(出所)NEC作成
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 チーム・ワークショップを実施した部門の中には、チーム全体でメンバーの資質を共有し、コミュニケーションの円滑化に利用しているところもあるという。

 「資質を公開するかどうかは、あくまで個人の判断です。ただ行動パターンや思考パターンは日常的に見えているもので、そのことに気づくと公開に抵抗がなくなる人も多いようです」(篠原氏)

リーダーの「取扱説明書」を公開

 ワークショップを実施するにあたっては、以下のギャラップが唱える「ストレングス5原則」を徹底するよう、注意しているという。

1 資質は中立である
2 資質はレッテルではない
3 ポジティブな意識で接する
4 違いは利点である
5 人はお互いを必要とする

 「この資質を持っているから成功するというわけではなく、資質はすべて中立であるということ、テストによって判明した資質は目安であって、レッテルを貼らないということは、ワークショップのたびに繰り返し伝えています」(下川氏)

 また、約5000人が所属するデジタルプラットフォームビジネスユニットでは、約50人のリーダー(執行役員、統括部長クラス)のウェブテストの結果と、それぞれが作った「私の取扱説明書」を公開している。これによってリーダーにも様々なタイプの人がいることが分かり、どの資質が高くても、あるいは低くてもリーダーになれるという多様性の証明になっているという。

 「リーダーの『取扱説明書』は、コミュニケーションの円滑化にもつながっています。例えば、部下のプレゼンに対して『過去の事例は?』『前例は?』という質問を繰り返し、部下を詰める印象を与えていたリーダーの資質が『原点思考』だったと分かって、『ああ、詰めているのではなく、過去の事例にヒントを求めているんだな』と、その行動を理解できるようになりました。リーダーへの理解も深まりますし、プレゼンの対策にもなります」(篠原氏)

 「資質だけで決めつけるのはよくありませんが、コミュニケーションを取る上でのヒントにはなっていますね。返事の仕方を変えるだけで関係性が良くなったという話も聞いています。秘書が異動になるときには『取扱説明書』を引き継ぐこともあるようです」(山田氏)

取材はNEC本社(東京・港)で行われた
取材はNEC本社(東京・港)で行われた
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 ユニットのリーダー自らも、他ユニットやグループ会社で自己紹介をする機会があると、自分の資質について語るようになり、それがまたクリフトンストレングスへの関心を呼んでいる。カルチャーXチームには、「うちでもやってみたい」という声が数多く寄せられるようになった。また、23年度からは、既存のワークショップに加え、希望があれば個別のコーチングにも対応するようにしている。

 「今後、認定ストレングス・コーチをもっと増やして、面としてこの活動を広げていきたいと考えています。クリフトンストレングスをグループ全体の共通言語にするのが目標です」(山田氏)

取材・文/暮 論子 写真/鈴木愛子

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