毎年、ビジネスに役立つ「いま読むべき本」を選出、表彰することを目的とした「読者が選ぶビジネス書グランプリ」(主催:グロービス経営大学院、フライヤー)。2026年はどのような本が選ばれたのでしょうか。共催者であるフライヤーの大賀康史・代表取締役CEO(最高経営責任者)が、「総合グランプリ」のほか、「イノベーション」「マネジメント」「経済・マネー」「自己啓発」「リベラルアーツ」「ビジネス実務」の各部門賞と、特別賞「ロングセラー賞」の各受賞作と選考理由について解説します。第1回は、受賞作全体の傾向と、総合グランプリ、自己啓発部門賞について。

不安と戸惑いの時代に求められる指針

 グロービス経営大学院とフライヤーが主催する「読者が選ぶビジネス書グランプリ」も11回目を迎えました。「読者が選ぶ」というところがポイントで、今年も「総合グランプリ」のほか、「イノベーション」「マネジメント」「経済・マネー」「自己啓発」「リベラルアーツ」「ビジネス実務」の各部門賞と、特別賞「ロングセラー賞」でビジネスパーソンにとって価値の高い本が選ばれました。

 今年の特徴は、やはりAI(人工知能)の影響が大きかったこと。多くの会社がAIに投資し、ビジネスモデルを変えていく時代だからこそ、現代人の抱える悩みを解消し、自らを俯瞰(ふかん)できるような内容の本が選ばれました。仕事の効率化はAIが得意とするところですが、だからこそ人間力、対話力が求められていると思います。

 また、新NISA(少額投資非課税制度)が始まって以来、お金にまつわる関心、不安も高まっています。そのため、今回はお金に関する本も多く選ばれました。

「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」の授賞式が2026年2月に開催された
「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」の授賞式が2026年2月に開催された
画像のクリックで拡大表示

 今年の受賞作を評するならば「不安と戸惑いの時代に求められる指針」です。真偽が定かではないAIの回答、フェイク動画などがあふれる中で、本は誰が書いたかが明らかですし、内容も体系的にまとめられています。編集者や校正者の目が入ることで、確かな情報が得られる。今回の受賞作が選ばれたのには、そうした背景もありそうです。

 以下では、各部門の受賞作を紹介します。

総合グランプリ/経済・マネー部門賞『 億までの人 億からの人

 総合グランプリと経済・マネー部門賞を受賞したのは、田中渓さんの『億までの人 億からの人 ゴールドマン・サックス勤続17年の投資家が明かす「兆人」のマインド』(徳間書店)です。この本では、田中さんがゴールドマン・サックスに17年間勤務し、20カ国以上、300人以上の資産1000億円を超える「億円」資産家、1兆円を超える「兆円」資産家、原油産出国の王族といった人たちと接する中で知り得た、豊かになるための考え方や行動指針が示されています。

『億までの人 億からの人』の著者、田中渓さん
『億までの人 億からの人』の著者、田中渓さん
画像のクリックで拡大表示

 私が読んで印象的だったのは、超富裕層には金融業界のエリートもいれば、ITベンチャーのトップもいるけれど、彼らが必ず自分で意思決定をしていることでした。投資をする、ビジネスで決断をする、といった重要な判断を人に委ねることはしません。自分の信じた判断で進める、という点が共通しているのです。

 また、田中さんは株式だけではなく不動産も取り扱っていたので、その分野について詳しく説明されていたり、ご自身のライフスタイルについても紹介されていたりして、読み応えがあります。田中さんは毎日の規律を大事にしていて、毎朝3時45分に起きてトレーニングをしているそうです。そのため寝る前にはトレーニングウェアとシューズを用意しておき、起きたら自動的にトレーニングに向かえるようにしておく。また、タクシーで移動するときは英会話レッスンを受けて時間をムダにしない──と、そのストイックぶりがうかがえます。

 本は「万人に読まれてこそ」という側面があるので、角を丸くして書かれた内容のものも多いのですが、本書では変に丸めた表現にせず、田中さんが思うことをそのまま伝えているのも魅力です。非常に強いメッセージが込められた一冊ですね。

自己啓発部門賞『 ハーバード、スタンフォード、オックスフォード…科学的に証明されたすごい習慣大百科

 続いては自己啓発部門の『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード…科学的に証明されたすごい習慣大百科 人生が変わるテクニック112個集めました』(堀田秀吾著/SBクリエイティブ)。この本は「やるべきことがまったく分からない」というよりは、「やるべきことが分かっているのに、続けられない、どうにも始められない」という人のための本でしょう。

『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード…科学的に証明されたすごい習慣大百科』の著者、堀田秀吾さん
『ハーバード、スタンフォード、オックスフォード…科学的に証明されたすごい習慣大百科』の著者、堀田秀吾さん
画像のクリックで拡大表示

 今の時代は「チャンスは皆にある」「それを努力してつかみ取るのは自分次第」という風潮があります。とはいえ、出世することが正義ではないし、どんな生き方をするのも自由です。すべて自分で選べるがゆえに、何か情熱を燃やすものがない、興味関心を持てるものがないと自己効力感が下がります。

 私は3人の子どもを育てていますが、今はネット上に勉強するためのコンテンツが山ほどあり、日本のどこで暮らしていても手に入ります。私が30年前に受験勉強をしていた頃とは様変わりしています。したがって、本人に勉強する気さえあれば、環境は整っているし、たいていの進路は目指すことができます。しかし、一方で、自分を駆り立ててやり遂げられないと、自分はダメなんだと自信を失いやすい。今は子どもにとってもビジネスパーソンにとっても、自由で環境が整っているがゆえに「すべては自分次第」という残酷な時代なのだと感じます。

 言い訳のできない時代ですが、人間はそんなに合理的な生き物ではありません。「どうにも続けられない」という人にとって、科学的に証明された習慣が紹介されているこの本は励みになります。

 『億までの人 億からの人』の著者、田中さんも、先ほど触れたように、毎日早朝からトレーニングをするため、寝る前にトレーニングウエアを用意しておくという習慣を持っています。この本にも「習慣化に意志力はいらない」と書かれていて、つながる部分を感じます。

 見開き2ページで1つの習慣が紹介されているので、自分に必要なところから読めるのもいいですね。大学や研究機関で科学的に効果があると証明された方法が紹介されているので、効果が期待できそうです。

 次回はほかの各部門の受賞作についてお話しします。

授賞式で話すフライヤーの大賀康史CEO
授賞式で話すフライヤーの大賀康史CEO
画像のクリックで拡大表示

(第2回に続く)

取材・文/三浦香代子 写真/ビジネス書グランプリ2026