ビジネスに役立つ「いま読むべき本」を選出、表彰することを目的とした「読者が選ぶビジネス書グランプリ」は2026年で11回目を迎えました。今回はどのような本が選ばれたのでしょうか。共催者であるフライヤーの大賀康史・代表取締役CEO(最高経営責任者)が、「総合グランプリ」のほか、「イノベーション」「マネジメント」「経済・マネー」「自己啓発」「リベラルアーツ」「ビジネス実務」の各部門賞と、特別賞「ロングセラー賞」の各受賞作と選考理由を解説します。第2回では、イノベーション、マネジメント、リベラルアーツ、ビジネス実務、ロングセラーの各賞と、今後のビジネス書のトレンドについて。
前回に続いて、「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」の各部門賞を紹介します。
イノベーション部門賞『 1つの習慣 』
イノベーション部門賞は『1つの習慣 うまくいく人は、なぜ「これ」を大切にするのか』(横山直宏著/すばる舎)です。この本はタイトル通り、「1つの習慣」について書かれ、「これ」とは何かというと「楽しむこと」です。仕事も生きることも「楽しむこと」が大事である、とさまざまな角度から語られています。私たちフライヤーもバリューの1つ目が「楽しむこと」ですので、我が意を得たりと感じました。
一昔前までは、楽しそうに仕事をすることに罪悪感を持つ人もいたのではないでしょうか。内心は楽しんでいても、「眉間にしわを寄せながら働く」という美学がありましたよね。でも、やっぱり心から楽しんで仕事をするほうがいい仕事ができます。新しい切り口を世の中に訴えられたり、機械的なアウトプットではなく彩りある仕事ができたりします。
本書では「仕事をゲーム感覚で楽しむ」「失敗を学びとして捉え直す」といった、「頑張っている意識がないほど楽しむ」ためのヒントが書かれています。
マネジメント部門賞『 冒険する組織のつくりかた 』
先ほどの『1つの習慣』が仕事における個人のあり方を書いた本だとしたら、マネジメント部門賞の『冒険する組織のつくりかた 「軍事的世界観」を抜け出す5つの思考法』(安斎勇樹著/テオリア)はチームや組織、自分の周りの環境について書かれた本です。随所で、著者の安斎勇樹さんからの「仕事を楽しもう」「チャレンジできる冒険的な組織に変えていこう」というメッセージが感じられます。
本書で指摘しているように、仕事で使う「戦略」「オペレーション」といった言葉は軍事的です。それよりも、不確実性のある世の中に対して、楽しみながら価値を追求していく「冒険」という世界観が必要なのだと思います。
本書ではたとえ話として、漫画『 ONE PIECE(ワンピース) 』(尾田栄一郎著/集英社)が取り上げられています。主人公のルフィは海賊王になりたいけれども、そこに集まる仲間は、世界一の剣豪になりたかったり、世界地図をつくりたかったりと目的が違います。もともと組織で求められるミッションと、個人のミッションには距離があるものですが、両者が満たされるような組織をつくるべきだというのは非常に現代的なメッセージだと感じました。
リベラルアーツ部門賞『 お金の不安という幻想 』
リベラルアーツ部門賞『お金の不安という幻想 一生働く時代で希望をつかむ8つの視点』(朝日新聞出版)の著者の田内学さんは、『 きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」 』(東洋経済新報社)で、2024年の「ビジネス書グランプリ」の「総合グランプリ」を受賞された方です。今回の本では、お金だけではなく、生きることの不安についても書かれていて、田内さんが本当に伝えたいのはこの部分なのではないかと感じました。
第1章の「不安は、他人のモノサシから生まれる」「安心は、自分のモノサシから始まる」という言葉も印象的です。現代はSNS(交流サイト)やさまざまなコンテンツに触れ、人と比べれば比べるほど不安になります。やはり自分のモノサシをしっかりと持って、物事を見ていくことが大事です。また、お金自体が価値を生んでいるのではなく、モノやサービスを生み出す人にこそ価値があるという本質を突いた考え方にも納得です。
私の個人的な意見ですが、今の日本で「お金をたくさん持っているぞ」と公言して、得なことはあまりないと思います。軽蔑されたり、ねたまれたり。防犯面でも不安です。だからこそ、持っているお金の額ではなく、お金の本質的な価値を見ることが重要で、それは美学というよりも合理的な帰結です。お金の本質とは何かを考えるときに役立つ一冊です。
ビジネス実務部門賞『 人は話し方が9割 2 』
ビジネス実務部門賞『人は話し方が9割 2』(永松茂久著/すばる舎)は前作『 人は話し方が9割 』(同)などと合わせてシリーズ累計200万部という大ベストセラー。それだけコミュニケーションにおける人の悩みも欲求も普遍的なのですね。前作が出たのは2019年で、その後の新型コロナウイルス禍でコミュニケーションが大きな課題となった時期でした。今はAI(人工知能)が台頭し、悩みがあれば生成AIに相談するなど、自己完結しやすくなっています。人と人とのコミュニケーションが断絶しやすい環境だからこそ、また違う悩みが出てきたように思います。
このシリーズが面白いのは、著者の永松茂久さんらしい「ひねり」が効いていることです。前作は「話し方が9割」と言いつつ、実は「人の話を聞くことが大事」と書かれていました。コミュニケーションの悩みというと「苦手な上司や同僚とどう話すか」が大きいと思うのですが、今作では「無理してそんな人と話そうとしなくていい」と書かれていて、意外でした。もちろん、実際のコミュニケーションに役立つ「感嘆」「反復」「共感」「称賛」「質問」というコツも書かれていて、学びが多い一冊です。
ロングセラー賞『 【改訂版】本当の自由を手に入れる お金の大学 』
ロングセラー賞の『【改訂版】本当の自由を手に入れる お金の大学』(両@リベ大学長著/朝日新聞出版)は2020年に出版され、140万部売れた前作の改訂版です。お金に関する本はコミュニケーション本と同じぐらい多く出版されていますが、その中で読み続けられているというのは改めてすごいことですね。
この本には有意義で、実践的なお金のテクニックが数多く紹介されています。体系的に書かれていて、難しくもない。誰が読んでも学びがある一冊です。
お金の本というと、どうしても投資がメインになりがちですが、この本では保険の選び方や固定費カットの原則、そして改訂版では副業についても加筆されていて、非常にロジカルに資産を増やす方法が紹介されています。また、これだけお金に関する情報があふれるなかで、何が正しくて、何が正しくないのかを見極めるときにも役立つでしょう。例えば、さまざまなタイプの商品が宣伝されている保険についても、「必要な保険は3つだけ」と断じています。
「AIへの反動」が起きる
最後に、今後のビジネス書のトレンドを展望すると、「AIへの反動」が起きるのではないかと思います。AIの進化が社会にインパクトをもたらす半面、各社が開発するAIに大きな違いを感じなくなってきています。そうした中で、AIブームに対する疲れ、AIへの失望を感じやすくなるかもしれません。
AI活用のハウツー本が増える一方で、人間力や対話力、リベラルアーツに関する本も必要とされるでしょう。また、さらに混迷を深める現代世界の構造を読み解く本、ユヴァル・ノア・ハラリさんの『 サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福(上)(下) 』(柴田裕之訳/河出文庫)のようにビッグヒストリーの視点を持った本が出てくるように思います。
何が起きるか分からない時代ですが、本を読み、物事を大局から見る視点を養えると、少しは安心して暮らせるのではないでしょうか。
取材・文/三浦香代子 写真/ビジネス書グランプリ2026





