ビジネスに役立つ「いま読むべき本」を選出、表彰することを目的としたアワードで、今年で11回目を迎える「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」の「<特別賞>グロービス経営大学院賞」に、『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』(シバタナオキ著/日経BP)が選ばれました。なぜこの本を選んだのか、選者を代表してグロービス経営大学院経営研究科 研究科長の君島朋子さんに聞きました。

経営者視点で書かれたAI本

 『アフターAI 世界の一流には見えている生成AIの未来地図』(シバタナオキ著/日経BP)は、「アフターAI(人工知能)」にどんな世界が待っているのか、その道筋を描き出した1冊です。少子高齢化社会による人手不足など深刻な社会課題を解決するためにもAIの活用が必要ですが、実際にどうすればいいのか。この本では6つの職種と2つの業種についての最新事情が詳しく解説されています。

 今回、私たちはこの賞を決めるにあたって、2つのポイントに着目しました。1つは今の時代に必要な視点や視座を与えてくれること。そしてもう1つは、単なる流行ではなく、独自の視点や知見を与えてくれること。『アフターAI』はまさにこの2つを兼ね備えた本です。

 まず、1つ目の「先進的な視点や視座」という点から見ると、現在はAIに関するさまざまな本が出版されています。「明日からこうやって使ってみよう」というハウツー本もあれば、どんなAIがあるのか、カタログのように最新事情を説明した本もあります。

 その中で『アフターAI』が特徴的なのは「経営者視点」で書かれていることです。著者のシバタナオキさんが投資家として数多くのスタートアップ企業を見ているからこそ、技術の解説でもハウツーでもなく、AIビジネス全体の流れが分かり、その中で生成AIがどのような役割を果たしていくかについて言及できるのだと思います。

 私たちグロービス経営大学院の授業でも、「リーダーはテクノロジーで何ができるかを理解する必要がある」と教えていますが、この点もシバタさんの視点と非常に近い部分があると感じました。

 2つ目の「独自の視点」という点では、シリコンバレーで活躍しているシバタさん独自の視点だと感じる部分が随所にありました。先端的なAIのトレンドを押さえ、今後AIで何がどこまでできるかに踏み込んでいるのは、さすがです。

グロービス経営大学院経営研究科 研究科長の君島朋子さん
グロービス経営大学院経営研究科 研究科長の君島朋子さん

 私たちグロービスも、グループ会社にベンチャーキャピタル(グロービス・キャピタル・パートナーズ株式会社)があり、スタートアップへの投資を行っています。一般財団法人KIBOWでは、「KIBOW社会投資ファンド」によって、社会的課題の解決に寄与するスタートアップへの「社会的インパクト投資」を行っています。またグロービス経営大学院も、ビジネスプランコンテスト「G-CHALLENGE」、投資プログラム「G-GROWTH」、研究・起業プロジェクト「G-INCUBATE」などを通じた起業支援を展開しています。

 『アフターAI』では、私たちも注目している企業が数多く紹介されていました。各企業の説明を見ると、「なるほど、AIで世の中がこう変わっていくのか」「この仕事やこの事業がAIに置き換わっていくのか」と腑(ふ)に落ちると思います。

LLMなどのAIを開発する必要はない

 この本でシバタさんは、「日本企業が自分でLLM(大規模言語モデル)などのAIを開発する必要はない」と明言しており、私たちも同感です。AI、デジタルの最先端の技術について、リーダー自身が技術的細部まで知る必要はないと思っています(もちろん、AI開発企業であれば話は別です)。

 LLMなどのAI開発には莫大な資金がかかり、世界で先行企業やビッグテックに勝てる企業は多くありません。それよりも、日本企業はリアルなデータのアプリケーション開発や活用に特化すべきです。特にモビリティやロボット分野には多くの知見があり、日本企業が強いところでしょう。

 そのためにリーダーが知っておくべきなのは、「ビジネスにどう使うか」「ビジネスや消費者の動きがどう変わるか」です。

 この本では「顧客対応・カスタマーサポート」「マーケティング・クリエイティブ」といった6つの職種、「ヘルスケア」「フィンテック」という2つの業種ごとに、今後の変化について分かりやすく整理されています。著者のシバタさんだけではなく、森本典繁・日本IBM最高技術責任者、堀田創・シナモン共同創業者など各分野の専門家が登場して解説していますので、リーダーにとっては今後の変化を見通し、自分たちが次の一手として何を仕掛けるべきかの参考になるはずです。

「『経営者視点』で書かれている」という『アフターAI』(シバタナオキ著)。画像クリックでAmazonページへ
「『経営者視点』で書かれている」という『アフターAI』(シバタナオキ著)。画像クリックでAmazonページへ

人間に最後に残されるのは経営判断

 私たちは10年前から「これからは『テクノベート』が重要になる」と提唱し、大学院のカリキュラムにもテクノベート科目を設置してきました。テクノベートとはテクノロジーとイノベーションを掛け合わせた造語です。「テクノロジーの進化が社会やビジネスの構造を根本から変えつつある」ことを踏まえ、技術を使いこなすだけでなく、自ら変革を起こすことが重要です。

 10年前にテクノベートを打ち出したときにはまだそれほど実例はありませんでしたが、今やこの本にも書かれているように、AIによって経営やビジネスのあり方が目に見えて変わってきています。まさに「アフターAI」、AIが実装段階に入っているので、今後はその変化を見通すことがビジネスで勝ち抜くポイントになるでしょう。

 ただ、AIの細かい技術的な部分を知る必要はありません。技術面よりも「AIを使って自分のビジネスや業界をどう変えていくか」「産業構造がどう変わっていくのか」を思い描くほうが重要です。

 さらに言えば、私たちは「経営」という職種はAIに代替されるものではないと考えています。何十年後かにシンギュラリティー(AIが人間の知能を超えて急速に進化すること)の時代が来ればどうなるか分かりませんが、当面は、「イシューを設定し、何を変えていくか見極め、経営における判断をする」のは人間に残されるのです。

「『経営』という職種はAIに代替されるものではない」
「『経営』という職種はAIに代替されるものではない」

 これだけAIが発達すると、「自分の仕事が奪われる」「AIに使われる」と心配する人がいるかもしれませんが、私たちは「人間がどのような仕事をすべきか」を考える側の人材を育てたいと思っています。いくらAIが発達したとしても、最終的に「これがやりたい」という意思を持つのは人間です。消費者、顧客、経営者も人間。「どんな思いがあって、何を提供するのか」は人間にしか考えられませんし、経営の意思決定そのものはなくなりません。

 私たちは「創造と変革の志士を育てる」大学院ですので、これからも意思決定をして創造または変革をする、ビジネスの新潮流をつくる人材を育てたいと思っています。その意味でも、『アフターAI』は、読めば読むほど私たちの視点に合致している本だと感じました。AIへの不安を解消し、改めて自分にできることは何かを考えるためにもお薦めしたい一冊です。

<受賞者・シバタナオキさんのコメント>

 このたびは「読者が選ぶビジネス書グランプリ2026」にて、「<特別賞>グロービス経営大学院賞」という栄えある賞をいただき、誠にありがとうございます。

 私は普段シリコンバレーでベンチャーキャピタリストとして投資を行っています。そんななか、あえて日本語でこの本を書こうと思った理由は、日本企業には、生成AI、特にVertical AIエージェント(特定領域に特化したAI)においては世界で勝てるポテンシャルが大きいと思ったからにほかなりません。

 日本企業ならではの特徴を生かして、課題先進国である日本の社会課題を解決するAIエージェントは世界にも通用するはずと信じています。

 グロービスさんの言葉をお借りすると「テクノベート」。生成AIというテクノロジーを駆使して、日本発のAIエージェントが、世界のビジネスや社会のあり方を根本から変革し、新たな価値を創造していくことを期待しています。


取材・文/三浦香代子 写真/小野さやか

生成AI時代の「ビジネス実装」が、この一冊で見える

生成AIは、もはやバズワードの時代を超え、実装の巧拙が企業価値を左右する段階へと突入しました。投資家としてシリコンバレーを中心に1000社超の生成AIスタートアップを精査した著者が解説するほか、日本企業の現場で生成AI導入に取り組むトップランナーたちの生の声が収録されています。

シバタナオキ著/日経BP/2420円(税込み)