私たちの幸福度を左右するのは、家族、パートナー、友人、同僚、そして何より自分自身との「つながりの質」です。身近な人間関係を良好に保つことができれば、あらゆる困難も乗り越えやすくなると英国の心理療法士フィリッパ・ペリーさんは説きます。今回はシリーズ累計300万部のペリーさんの新刊『身近な人間関係が変わる 大切な人に読んでほしい本』(高山真由美訳/日本経済新聞出版)の抜粋・再構成をもとに、職場や家庭で自分の要望をうまく伝えるための秘訣をご紹介します。
人と対立するのが怖い
「問題は何を言うかではなく、いかに言うかです」というフレーズが頻繁に使われるのは、それだけ気にかけるべきことだからです。人とコミュニケーションを取るとき、私たちは主体的にさまざまな配慮をすることができます。他人の振る舞いはコントロールできませんが、その振る舞いについて話すときにどういう言葉を選ぶかは自分でコントロールできます。
相手に対して厳しすぎたり、けんか腰になったりせず、それでいてのん気すぎたり、緩みきったりすることもないようにバランスを取るには、どうすればいいか。この問題は、とりわけ仕事の場面でよく生じます。自分の反応に責任を持つことと、相手との力関係において自分の立場を理解することは別です。どうしてもお人よしになってしまうというのもまた別の問題です。次に紹介するのは、人と対立するのが怖いというある女性CEO(最高経営責任者)からのメールです。
仕事に関する相談です。私は毎朝、意気消沈しています。能力が足りないように感じ、押しつぶされそうになっています。毎日が銃撃戦のようで、よし、なんとか切り抜けたと思っても、翌日になればまた一から対処しなければならず、いやになるほど繰り返しばかりなのです。
自分の実力以上に昇進してしまったように感じています。おそらく家族のコネがあったからできたことで、私は大きな組織を運営していますが、まるで詐欺師になったような気分です。人にどう動いてもらえばいいのかが分かりません。私なんて、この分野でリーダーになれるような器ではないのです。
みんなには「自分がやりたいから」という理由で仕事をしてもらいたいので、「命令」はしません。いつも「お願い、できれば…してもらえたらうれしいんだけど」と、まるで子犬のように訴えています。とても消耗します。戦略的に振る舞うことが下手なわけではありません。それについては、まあ人並みレベルですが、その他のあらゆることが問題なのです。
自分の時間のうち半分は、誰かの気分を害したんじゃないか、何か間違ったことを言ってしまったんじゃないか、誤解されているんじゃないか、あれが入手できるだろうか、あの人には好かれているだろうかなどと、くよくよ考えています。本当に疲れます。昔からずっとこんなふうでした。
戦略的に考えてこれがよいことだとは思いませんが、ほかにどうしようもないのです。きちんと大人になれていないような気がします。エグゼクティブ・コーチングも試してみたのですが、効果はありませんでした。
人を喜ばせようとするのも、度が過ぎると逆効果になります。過度のお世辞はうっとうしいものです。人のためばかりを考えて行動すると、かえって見識を疑われ、支持を失うこともあります。かといって、人の感情や考えをまったく考慮しない(できない)のもよいこととは言えません。
「アイ・ステートメント」の有効性
不必要に高圧的な態度と極端な低姿勢の中間を見つける簡単な方法は、自分が何かを頼まれたときにどう言われたいかを考えてみることです。どっちつかずの煮えきらない態度で仕事を頼まれて、それが本当に重要なのかどうか分からないのも困りますし、頭脳も選択肢も持たないロボットや奴隷のように扱われるのもいやなはずです。試してみてほしいのは、直接的なコミュニケーションです。「私」を主語にした「アイ・ステートメント」で話しましょう。
「あなたはいつもミーティングに遅れて来ますね」と言うかわりに、「毎回お待たせしていると、大切なクライアントを失うことになります。私としては、ミーティングの5分前には来てほしいのですが」と言ってみましょう。相手の行動がもたらす結果を述べたあとで、自分が望ましいと思う行動を伝えるのです。
誰かに何かをしてもらいたい場合、少しだけ選択の余地を残します。しかしその余地が大きすぎてはいけません。これは仕事以外でも同様です。従業員には、「この件について、今日中に話し合う必要があります。直接話すほうがいいですか。それとも電話がいいですか」と伝えたほうが、「この件についてあなたと話がしたいのですが」とか「時間があるときにちょっとだけいいですか」などと言うよりも、よい結果が得られます。
話し合いの場を持つこと自体に疑問を差しはさませることなく、それでいて相手がより快適に応じられるように、話し合いの方法の部分に選択の余地をつくるのです。
女性にとって厄介なのは、たいてい家庭環境や文化によって、自己主張するより、感じよく人と接するように教育されている点です。これが最初に表れるのが、自分のことを話そうとするときです。
先の女性の例に戻って言えば、自分を主張するというのは、例えば「戦略的に振る舞うことが下手なわけではありません。それについては、まあ人並みレベルですが、その他のあらゆることが問題なのです」と言うのではなく、「私の強みは戦略的な振る舞いができるところです」と明言することです。高圧的な態度と低姿勢の中間を取れるように実践を重ねれば、今までより「きちんと大人になれた」と感じられるでしょう。
もしあなたも、このメールの書き手のように、自分を過小評価する傾向に悩んでいるなら、これで悩みが軽減されるはずです。ただ好かれるだけでなく、相互に敬意を払える関係を目指せば、あなたも相手ももっと気分よく過ごせるようになります。最良のリーダーとは、むやみに権力を振るう人ではなく、決断をするときに人の話に耳を傾け、敬意を払い、他者からのフィードバックを考慮に入れられる人です。
繰り返しますが、「あなた」を主語にした「ユー・ステートメント」を使わずに、すべてを「私」を主語にした「アイ・ステートメント」で話し、「…べき」「…しなければならない」といった言葉を避け、「どちらが正しいか」と迫られても受け流しましょう。
職場の同僚との対立を切り抜けるために使える方法は、義母や配偶者、親友、孫と話すときにも使えます。人にはみな似たところがあるのです。自己主張がうまくできるようになれば、人生のあらゆる場面で役に立ちます。
フィリッパ・ペリー著/高山真由美訳/日本経済新聞出版/2200円(税込み)

