※日経ビジネス電子版の連載企画「書店再興」を基にした新刊『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』が2026年3月27日に発刊しました。このコラムには同書のベースとなった記事をセレクトして転載しています。その第6回。

 直木賞作家の今村翔吾さんが、2024年4月に東京・神保町で開業したシェア型書店「ほんまる」には、書店再興に賭ける今村さんならではのアクションがありました。書店“冬の時代”に、いかにそのビジネスは息を吹き返せるか。当事者としての今村さんの思考と行動とともに、書店業界の現在地を、様々に探っていきます。

今村翔吾さんが東京・神保町にシェア型書店「ほんまる」を出店されて5カ月がたちました。手応えからうかがっていきたいと思います。

今村翔吾さん(以下、今村):おかげさまで初月から黒字が達成できました。初月が40万円ほどの黒字で、その後は100万円強で推移しています。これは家賃や人件費を全部払った上での営業利益です。

今村翔吾(いまむら・しょうご)
今村翔吾(いまむら・しょうご)
作家、書店経営者 1984年、京都府生まれ。関西大学文学部卒業。ダンスインストラクター、作曲家、滋賀県守山市の埋蔵文化財調査員を経て、2017年に『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』で作家デビュー。18年『童神』(後に『童の神』に改題)で角川春樹小説賞、20年『八本目の槍』で吉川英治文学新人賞、『じんかん』で山田風太郎賞、22年『塞王の楯』で直木賞を受賞。「くらまし屋稼業」シリーズ、『幸村を討て』『茜唄』『戦国武将伝 東日本編/西日本編』などベストセラー多数。21年に大阪府箕面市の書店「きのしたブックセンター」を事業継承。22年に一般社団法人「ホンミライ」を設立。23年、佐賀市に「佐賀之書店」を新規出店。24年3月からシェア型書店の「ほんまる」プロジェクトをスタート。4月に東京・神田神保町に1号店を出店。

それはすごいですね。スタートでは何人ぐらいの棚主さんが集まりましたか。

今村:個人、法人合わせて約250人が集まってくれました。

それは満床という状態でしょうか。

「ほんまる」1号店はほぼ満床でスタート

今村:ほぼ満床です。「ほんまる」はサブスクリプション方式で棚を貸しています。料金は棚の位置によって「S」(ひと月9350円)から「F」(同4850円)まで、7段階に分かれていて、「S」は一番目につきやすい位置で、ひと月の賃料も一番高い位置の棚です。棚は、この「Sプラン」から埋まっていきましたね。次に埋まったのは、Sの次にいい位置にある「A」(同8360円)です。

逆に埋まりにくかった棚はどれでしょうか。

今村:当初は最上段の「F」が一番埋まりにくいだろうと予測していたのですが、実際は足下の「C」「D」が埋まりにくかったですね。今後「ほんまる」を多店舗展開していく際は、足下棚は売らずに、ストック場所として使うか、もしくは足下の価値を高める工夫をしていくことが必要やね。例えば足下棚は2個で1個の料金にするとか。

「ほんまる」東京・神田神保町1号店店内(プレオープン時に撮影)
「ほんまる」東京・神田神保町1号店店内(プレオープン時に撮影)

シェア型書店の業態を部屋の賃貸業と捉えた場合、棚主さんさえ集まれば、収益は安定しますよね。そこはまずクリアできた、ということですね。

今村:そうなります。

粗利などをざっくりお聞かせいただけますか?

今村:棚貸しについては、基本的に仕入れがないので、粗利率は100%になります。

そうか! もう一つ、書店としての本の売り上げ(棚主が並べた本の販売)からの収益についてはいかがでしょうか。

今村:本の売り上げについては、手数料を5%と低く設定しているので、収益への貢献はそれほど大きくはありません。とはいえ、面白い棚主さんたちが全国から集結してくれたので、本も売れています。さらに「ほんまる」特製のトートバッグやマスキングテープのようなオリジナルグッズも売れています。本とグッズを合わせたところの粗利率は13~14%ぐらいです。

ということから、「ほんまる」のビジネスモデルは、圧倒的にサブスクということが見えてきますね。

今村:だからこそ、料金をいただいている棚主さんに、いかに満足していただくか、そのソフト面がこれから重要になると思っているところです。焼き肉屋さんの食べ放題4000円プランで、「おいしいお肉」が食べ放題なのか、いうたら「よう分からんお肉」が食べ放題なのか、それによって満足度の差は大きいでしょ。棚主さんには、ひと月の棚代がお得で、継続に値すると思っていただくよう努めないといけません。ここからは集中して、ソフト面を充実させていこうと思っています。

神保町にはシェア型書店の業態で先行する「PASSAGE by ALL REVIEWS」「猫の本棚」があります。意識されますか。

今村:それぞれにすみ分けながら、ともに話題になればいいと思っています。競合でつぶし合うということは、まったく考えていません。商売では値下げ競争に入ってしまうことが、一番あかんことだと思っていて、これ、僕が日経さんに言うのは釈迦に説法だと思うけど。

とんでもございません。で、ソフト面を充実させていく方向性は分かりましたが、その中身は、どのようなものでしょうか。

今村:「ほんまる」の売りとして、本好きの人が、本当につながりたい人たちと交流できるところを、頑張って開拓していこうと思っています。開業にあたって、佐藤可士和さんにブランディングをお願いしたことも、その一環です。

4月27日のオープン日には、開店記念として、棚主さんを招いて今村さん、可士和さんとのトークセッションがありましたね。

オープン日は多くの来店者が
オープン日は多くの来店者が

今村:参加者の方々との距離が近くて、質問もたくさん来て、楽しい時間でした。ということで、「ほんまる」では2025年いっぱいまで、棚主さんに向けて定期的に開催するイベントを、すでに全部組んだんです。

来年分まで全部ですか、早いっ。どんな内容ですか。

直木賞作家ならではの「あの人」を呼ぶ

今村:1年のうちにリアルの大型イベント2回、中型イベント2回、加えて全国からオンラインで参加できるセミナーイベントを8回です。オンラインでは出版・書店業界にいる作家、書店経営者、取次、編集者の方々に、自分たちの仕事が今どうなっているかを、それぞれの立場から語ってもらうようにしています。第1回は僕が務めます。

おおっ。

今村:それで、11月には読書シーズンに合わせて「秋のほんまる読書まつり」を催します。ここでは棚主さんの手数料を普段の5%から0%にして、お客さんの方も、5000円以上のお買い上げだったら、500円の金券をバックする。要は売る方も買う方も、いっぱい回せる仕組みにして、棚主さんの本棚が総入れ替わりするぐらい、どんどん仕入れて、どんどん売ることをやろうと思っています。

楽市楽座デーみたいですね。それが中型イベントですか。

今村:はい、中型イベントはもう1つあって、それは11月の裏にあたる5月に、棚主さんのエッセーを集めた『ほんまる』という書店誌を刊行しようと。個人の棚主さんにはそれをプレゼントして、法人の棚主さんには、広告ページを無料で差し上げて、さらに希望者を募って1社か2社、僕と対談してもらって、その会社の魅力や、なぜ「ほんまる」の棚主になったかをPRしていただく。それらを全部、無料でやってやろう、と。

武道館でコミケ(コミックマーケット)のようなイベントを実現したい、ともおっしゃっていましたが、その第一歩ですね。

今村:「ほんまる」の書店誌は、棚主さん以外のお客さんには数百円ぐらいで売れたらいいな、とも思っているので、まさにコミケのイメージです。

で、大型イベントとは?

今村:2月に棚主さん参加の交流会「ほんまる棚主総会」を、8月には人気作家さんを招いて僕とのトークイベントを催します。棚主さんは全国におられるので、それ、本好きの交流会以上に、ちょっとした異業種交流会になると思うんですよ。

現在の棚主が250人ということは、そのくらいの規模のイベントですか。

今村:300人くらいですね。コストコみたいに棚主さん1人につき、もう1人招待できますよ、というふうにしたら、新規のお客さん開拓にもなるじゃないですか。8月の作家さんとのトーク&サイン会のスペシャルゲストは、今年は凪良ゆうさん、来年は湊かなえさんにお願いしています。

わお、本好きにはたまらない人選ですね。というか、直木賞作家でないと、このお二方はお呼びできないでしょう。

今村:お2人とも、あまり人前に出ない方なので、これは貴重でしょ。このキャスティング力がうちの強みよと、正直、思ってます。作家さんだけでなく、編集者や取次の方から直接に話を聞くことも、なかなかできないことで、普通では取れへんところの情報を集めてきて、サロンとしてのクオリティーを上げていく。いわば僕が持つ情報商材を最大限に使っていこうということですね。

真の意味での情報商材ですね。

今村:マルチなにおいがまったくしない、本当の意味での情報商材です(笑)。それが「ほんまる」の存在価値なんじゃないかな。

本質はサブスクでありコミュニティー構築である

一方で、棚主さんの離脱率はどうでしょうか。

今村:離脱は10組に1組ぐらい出ると、新規の申し込みが3組入る、みたいな入れ替わりが起こっていますね。話題性でぱっと飛びついた人は、離脱するのも早い傾向があります。離脱率を下げるためには、先ほど言った通り、ソフト面の価値をぐっと高めるしかない。凪良ゆうさん、湊かなえさんに直に会えるイベントがあると聞いたら、棚主さんは少なくとも、その時まではやめられへんですよね(笑)。

「ほんまる」のビジネスの芯は、本を売ることから、コミュニティー構築に向かっているということですね。

今村:僕らのビジネスはサブスクであり、コミュニティー構築であって、もしかしたら本棚が一番のオマケなのかもしれません。ソフトに着目していけば、「ほんまる」はいろいろな使い方ができるので、そのご理解で合っていると思います。

 実際、地方の行政や、民間の大手デベロッパーから、出店の打診を早速にいただいています。佐藤可士和さんとは、僕らが次に展開する時は、カフェも併設させたいね、と話しています。

そうそう、神保町の1号店には、本を買った後に“たまる”場所がないので、カフェ的なスペースは欲しいです。

今村:僕自身、いろいろなビジネスをしてきて、実は一番難しいのがカフェじゃないかなと思っているんです。カフェって単価が大きく出ないでしょう。併設するカフェを一から開発するのはちょっときついから、ここは既存の事業にM&Aをかけようかな、と考えています。

M&A……歴史小説の作家から思いがけない言葉が。

今村:その方が話が早いでしょ、と。

名を残す武将はM&Aを繰り返してきた

町の喫茶店も、町の本屋さんと同じく、経営者が高齢になったり、利用客が減ったりして、消えゆく運命にさらされています。事業継承者を探しているところもありそうですよね。しかし、そういうことを執筆と並行して考えていらっしゃるんですか。

今村:自分でも思うんやけど、発想が作家じゃないよね。けど、冷静に考えたら、歴史上の武将ってM&Aの元祖じゃないですか? 自分の力とお金を使って勢力を広げていくことと同時に、地元の有力な寺社、豪族を取り込んで、うまいこと版図を広めていくわけだから、僕がやっていることは、ある意味、武田信玄と一緒よね。いうたら「きのしたブックセンター」(大阪・箕面市)も、あれはM&Aで僕が経営するようになったんですから。

まさしく「きのしたブックセンター」は事業継承で、今村さんが経営者に就かれました。そこまで事業に「も」注力する理由は何なのでしょうか。

今村:まず「ほんまる」では、この新時代の書店スタイルがスケールしていくことを念頭に置いていることです。

 僕自身、実際に箕面と佐賀で町の書店を経営していて、肌で感じるのは、本好きは内側のサークルに閉じこもりやすいことです。

なんとなく分かりますが……。

今村:本、書店の業界には、本を至上とする書店原理主義みたいなものが漂っていて、「ナンボのビジネスにできますか?」みたいな話は、表立ってしてはいけない空気がある。「ほんまる」みたいな挑戦も、鬼っ子扱いされがちなんです。一方、シェア型書店の業態が日本各地に登場する中で、ビジネスのレベル感はバラバラです。このままじゃ一般化する前にニッチな世界で終わってしまう、という心配が僕には1つあります。

インディーズ的で、閉じている雰囲気が好き、という本好きの心理は私も分かりますが、関東、関西の棚貸し書店、シェア型書店を回ってみたところ、活気のあるお店は少数でした。あまりにインディーズすぎて、引いてしまうところもありました。

今村:それは、趣味的な方向を極めていくと、排他的になってしまうからなんですよ。僕がシェア型で意図しているメジャー化、大衆化路線に対しては、インディーズの勢力から反発、批判がきっと起こることでしょう。でも、自分の世界に閉じこもっていては、書店業界は救えないと強く思っているんです。

 大都市では大手チェーンのメガ書店があるけれど、地方の人口5万人以下の町では、こうして話している間にも、書店が消えています。僕は「ほんまる」をスケールしていくことによって、そのような地方でも、書店が成立するようにしたいんです。

改革ができなかったゆえの多様化かもしれない

前回の今村さんへのインタビューをきっかけに、出版・書店業界のことをあらためて勉強しました。すると、不思議なねじれがそこにはありました。

 町の書店はどんどん姿を消しているけれども、独立系書店、もしくはセレクト書店といわれる、オーナーの個性を打ち出した書店は増えていること。独立系ではスター書店主のようなあこがれの存在がいて、またブッキストと呼ばれる、本をセレクトする専門家も活躍しています。また、ブックホテルや読書に特化したカフェなど、本関連の様々な業態も登場しています。書店は消えているけど、本をめぐる業態は、マニエリスムアートのように複雑に多様化していて、一見、栄えているように見えるんです。

今村:今の時代「多様化」と言ったら、いいふうに捉えられるけど、逆に言ったら、出版・書店のビジネス構造の一番まずいところを改革できなかったからこそ、みんながあの手この手でやってきて、その結果、多様化した、とも言えますよね。

なるほど。真ん中がどうにもならないから、外縁に広がっていく。

今村:歴史で言うと、いつまで待っても中央から援軍が来ないから、各武将が各方面でそれぞれの戦い方をしていくうちに、別の勢力圏が築かれるということですよね。自分らの持ち場はこういう地形で、こういう天候だから、こんなふうに戦おう、と。

ただ群雄割拠は、それだけだと1つの大きな力には、なかなかならないですよね。

本が売れないのに販売点数が増えている理由

今村:もう1つ、ねじれを言わせてもらうと、この業界では、本の販売数は下がっているのに、出版点数はいまだにかなりあるんですよ。だから、そこもねじれているよね。売れている量は右肩下がりなのに、出版点数はそこまで減らないって、需要と供給の論理に合ってへん。

 この点に関しては、前回のインタビューでも大いに言わせてもらいましたが、出版・書店業界の構造が、今の時代に合わなくなっていることと、あと、出版というものが文化を楯に、過剰に保護されてきてしまった弊害があると考えています。

本が貴重な物で、店に置いておけばとにかく売れた前世紀に、それを回す本の取次システムが出来上がり、再販制度と委託制度という保護制度もがっちり付いた。売れても、売れなくても、本を次から次へと世に出していけば、作家、出版社、取次、書店は、業界内でなあなあと回っていく。その中にいる人にとっては、ある意味、夢のようなシステムです。

今村:昔はドリームだったかもしれへんけど、作家の立場で言えば、健全な競争がそこに起きていないから、全体が沈んでいくんです。

 常々語っているように、作家はアスリートを見本にしなければならない、というのが、僕の持論です。基本は実力勝負だけど、運の要素も大きくて、実力と売れる状況が必ずしもイコールじゃない。それでも生き残っていける人が作家になる。そこには力量とともに、運や覚悟がいる。

 例えば野球のスター選手が、学校時代のチームメイトのことを「あいつは僕より才能があった」と評していたりするのを、よく聞きますよね。でも、その友達は何かが足りずに世に出られなかった。アスリートの世界では、それが当たり前なのに、作家は既存のシステムというぬるま湯の中で、だらだらと生かしてもらっている気がしてなりません。

その既存システムが古びて、制度疲労を起こして、使い物にならなくなっている。政治と同じですね。

今村:多様性はあってもいいと思いますが、その点もまた考えていかないといけないな、と思います。既存システムの限界に目を向けないでいると、いずれ大きな崩壊が起きる。僕は、守るべきことと、つぶすべきことは相反するとは思っていなくて、守るために、つぶれるべきは、つぶれるべき。この業界に構造改革は絶対に必要です。

 出版・書店業界を救うためには、大きく2つの流れがあると思っていて、1つは今、話題になった書店業態の多様性の中から、それぞれの答えを見つけて、各人が各持ち場で力を尽くしてビジネスを広げていく戦法。

 もう1つは、出版社、取次、書店と、業界全員が知恵を出し合って、構造改革に取り組むこと。これは2つを同時に進めていかないとダメで、そのために「ほんまる」という仕組みを精一杯に使っていこうと思っています。

日経ビジネス電子版 2024年10月7日付の記事を転載]

「本屋さんがなくなる」悲観論ばかりが叫ばれる書店業界で、直木賞作家・今村翔吾氏を初め、個人が、企業が立ち上がる。経済産業省や地方自治体も黙っちゃいない。昭和の発想を切り替えて、書店を「頑張れば稼げる」ビジネスに変えていく具体的な試みはいくつもある。これらの発想は異業種にも応用可能だ。

清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)