親子で一緒に読みたい本として、最初に浮かんだのは『 Dark Horse(ダークホース) 』(トッド・ローズ、三笠書房)という本です。
副題は、「『好きなことだけで生きる人』が成功する時代」。知人がSNSで推薦している投稿を読んで興味を持ち、手に取りました。ダークホースとは、直訳すると「予想されなかった勝ち馬」。人の生き方に置き換えると、いわゆる“王道”から外れた道を進みながら、ハッピーな人生を手に入れているありようです。
学歴偏重や終身雇用など、従来の社会規範や価値観の中では「これに乗れば正解」と言われてきた標準モデルを軽やかに打ち破り、自分の「好き」や「楽しい」を軸に社会に貢献できる道を切りひらいていく生き方のこと。
この本の著者、トッド・ローズさんは「ダークホース的な生き方」のモデルとなる実在の人々を紹介しながら、その共通項としての行動・思考の特性を導き出しています。
僕の理解では、その共通項とは「小さなモチベーション」を大切に、日々満たされている状態を保っていること。
人生はオーダーメード
ダークホース的な生き方は、昨今注目されている「ウェルビーイング(well-being)」と相通じるものがあることに気づかされます。あらゆる道、選択肢に可能性があり、人生はオーダーメードなのだと勇気が出る本です。
ローズさんは、将来の不確定な幸せのために今を犠牲にするのではなく、今この瞬間の充足感を優先せよと投げかけています。
「10年後に一流企業に入るために、好きなことを諦めて猛勉強する」といった、ストイックな価値観の中で生きてきた大人たちは、今、だんだんと苦しくなっているように感じます。歯を食いしばるのではなく、「今、心から楽しくワクワク思えることに没頭する」の延長で、いつの間にか人生が進んでいく。そんな新しい生き方のモデルを、この本は示してくれます。
よく考えてみると、僕自身もまた、ダークホースなのかもしれません。
国内外の大手金融機関で実績を積んで、将来を約束されたといっても過言ではないタイトルをいただきながらも、リスクを背負ってゼロから起業し、「日本の各地で奮闘する、成長株の中小企業を応援しよう」と志を決めたのが20年前。苦しい時期もたくさんありましたが、その時その時で、自分の心が喜ぶことを大切にしてきた結果、今があります。
上司は中学生のレウォンさん
僕が尊敬する友人たちにもダークホース的な人が多いのですが、特に最近刺激を受けているのがレウォンさん。『 投資家がパパとママに伝えたい たいせつなお金のはなし 』(星海社)にも登場する、「小学生起業家」です。
レウォンさんは自分の「楽しい」に素直に行動し、「元素カルタ」などのオリジナル教材を開発。アイデアをもっと社会に広げるために小学6年生の時に起業したのですが、僕も応援した経緯で「チーフ・ニコニコ・オフィサー(CNO)」という役職に招請され、経営メンバーになりました。レウォンさんとは40歳以上年の差がありますが、僕の“上司”というわけです。
「楽しむ」ことの大切さ
レウォンさんとは新しい学校をつくるプロジェクトも始まり、その名も「之楽館」。孔子の論語の中にある、「知之者不如好之者、好之者不如楽之者(これを知る者はこれを好む者にしかず、これを好む者はこれを楽しむ者にしかず/あることを理解している人は知識があるけれど、そのことを好きな人にはかなわない。あることを好きな人は、それを楽しんでいる人に及ばないものである)」という言葉が由来です。
実に孔子も、「楽しむことが大事だ」と、ダークホース的思想、well-being的思想を唱えているんですよね。書道家の武田双雲さんがよくおっしゃる「行き当たりばっちり」という考え方も好きです。
人との対話においても、「今、相手が何にワクワクしているのか」という視点でよく観察することを心がけています。
娘に伝えるような気持ちで
そして、「ワクワクの対象」を知ることができたとしたら、たとえ自分の価値観と違っていたとしても、否定したりバカにしたりはせずに、真面目に向き合う姿勢が大切だと思います。
お互いに「楽しむ気持ち」を尊重し合う。きっと多様で豊かな社会につながるはずです。
親が子どもと話をするときも、子どもが何にワクワクしているのかに耳を傾け、自分自身が今何に夢中なのかを伝える時間を多くつくるといいと思います。
僕自身も毎年のように本を出版する機会に恵まれてきましたが、その都度、今の自分が大切にしている思いや価値観を丸ごと表現して、娘に伝えるような気持ちで書いてきました。
僕にとって、本を書く作業は、世界でたった一人の娘に“遺書”を託すようなもの。ワクワクがあふれるような遺書を毎回更新できるよう、僕も今を精いっぱい楽しんでいきます。
取材・文/宮本恵理子 構成/長野洋子(日経BOOKプラス編集部) 写真/洞澤佐智子



