企業の財務諸表を分析する時には、数字そのものを見るだけでなく、いろいろな数字と数字の関係を意味する財務比率を使うことで、企業の状況がより深く見えてくる。その例として、マイクロソフトの経営状況の変化を財務比率から読み取っていく。『会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス』第3章からの抜粋である。

長期間にわたり素晴らしい業績を上げ続けてきた会社の財務比率

 本書の「はじめに」で、マイクロソフトの財務指標に関するクイズを出題した。そこで紹介した同社のROEなどの指標は、とても高く、またその状態が基本的に継続していた。長期間にわたり素晴らしい業績を上げ続けてきた同社の過去の経営状況を、財務比率の推移(図表3-11)をもとに見ていこう。

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 マイクロソフトは1975年4月にビル・ゲイツとポール・アレンによって設立された。その後約50年を経過した現在、ChatGPTで有名なOpenAIとのパートナーシップなどをベースにAIビジネスを主導する1社としても注目を浴び、2025年11月末時点でアップル、エヌビディア、アルファベットに次ぐ世界第4位の約4兆ドルの時価総額を誇っている。これまでの成長の軌跡はどのようなものだったのであろうか。

経営状況と財務指標の推移

 マイクロソフトの株式公開は設立から11年後の1986年である。財務諸表が確認できるのはその1年前の1985年6月期からであるが、それから5年ごと、また2020年以降は毎年の主要な財務比率を図表3-11にまとめてある。

 まずROEの推移を見ると、アップダウンはあるものの平均30%程度と高い水準を継続している。2015年6月だけ15.2%と低くなっているが、これは2013年のノキアの買収によって拡大し最終的に撤退した携帯電話事業に関する大きな減損損失が発生したことが理由である。また、その前後の時期は、アップルのiPhoneを中心としたモバイル革命に押され気味になったこともあり、収益性もやや低下し、後述するように売上収益の成長率もやや低くなっている。

 収益性を見ると、総利益率は全体を通して平均で70%程度と、非常に高い水準を確保している。ただ、2010年6月期まで80%前後であったものが、2015年6月期以降は60%台の半ばから後半の水準に低下している。これは、2010年6月期までは販売量が増えると収穫逓増的に利益率が高くなるソフトウエアのビジネスがベースであったのに対して、2015年6月期以降は、PCやゲーム機などの一定の原価が発生するハードウエアのビジネスが一定の比率を占めるようになり、またソフトウエアをクラウド経由で提供し課金していくSaaSモデルの比率が高まる中で、その資産保有のためのコストが一定比率で発生するようになったことが理由と考えられる。

 営業利益率を見ると、こちらも平均で40%弱程度と非常に高い水準となっている。ただ、前述の携帯電話事業の減損損失によって19.4%まで低下した2015年6月以前は基本的に30%台であったものが、2021年6月期以降の5年間は40%台となり徐々に高まる傾向にある。これは、Office365をはじめクラウドベースのSaaSビジネスの順調な拡大による顧客との関係強化や、2020年6月期以降の売上収益の成長などを通じて、販売管理費の効率が高まっていることなどが理由と考えられる。

 当期純利益率を見ると、こちらもかなり高い水準となっているが、基本的にはほぼ営業利益率と連動している。

 効率性を見ると、大きな傾向としては売上債権回転期間と仕入債務回転期間がやや長くなり、棚卸資産回転期間は短くなってきている。このうち売上債権回転期間の若干の長期化については、比重が高まるSaaS事業の課金タイミングの変化や、売上収益が拡大する中での若干の長期化などが影響していると考えられる。また仕入債務回転期間の若干の長期化については、マイクロソフトの仕入先企業に対する交渉力の強さが表れていると考えられる。一方で棚卸資産回転期間の短縮化傾向については、ソフトウエアをサービスとして使用してもらうSaaSビジネスの比重拡大を背景に、棚卸資産を保有するビジネスの比重が低くなっていることが大きな理由と考えられる。

 安全性については、基本的に強い財務的安全性を維持する状況が継続している。ただ、流動比率も純資産比率も以前に比較するとやや低下しており、これは過去の異常に高い状況が、規模が拡大し事業基盤が強くなる中で、儲けた資金を投資や株主還元という形で活用することによって、バランスの取れた状況に変化させてきた結果と考えられる。

 成長性については、売上収益は1985年から2025年までの40年間で約2,000倍という非常に高い成長を実現している。5年毎の年平均成長率を見ると、売上収益が大きくなるにしたがって発射台が高くなるため成長率は低下しているが、2015年6月期を底にして上昇に転じている。これはクラウドベースのSaaSビジネスや2019年に提携したOpenAIとのパートナーシップを基盤としてAIに比重を置いたビジネス展開が、順調に成果を生み出している結果と考えられそうである。

(写真:Araki Illustrations/stock.adobe.com)
(写真:Araki Illustrations/stock.adobe.com)

M&Aの成功と失敗

 マイクロソフトの成長の背景の1つが数多くのM&Aである。古くはパワーポイントを生み出したForethought社を1987年に、またOutlookのベースとなった電子メールサービスを生み出したHotmail社を1997年にそれぞれ買収し、ソフトウエアの基盤を拡大している。

 買収に関連する貸借対照表上の項目を見ると、貸借対照表に買収の際の無形固定資産を計上することが原則となった2000年以降を見ても、図表3-12のように資産の合計金額の一定レベルを占めている。

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 2010年以降に実行した買収のうち主なものを挙げると、デジタル通話サービスのSkype(2011年)、携帯端末を中心に展開するフィンランドの通信機メーカーであるノキア(2013年)、ビジネスに特化したSNSであるリンクトイン(2016年)、ソフトウエア開発プラットフォームを提供するギットハブ(2018年)、いろいろな業界での会話型AIを提供するニュアンス(2021年)、ゲームソフト大手であるアクティビジョン・ブリザード(2023年)などがある。

 ただ、このうちSkypeはZoomやTeamsに押されて2025年に業務提供を停止し、ノキアもそれが含まれる携帯端末事業が減損損失を計上した上で売却されるなど、成果が出なかったものもある。一方でリンクトインやギットハブはかなり成果を生み出しているようであり、ニュアンスとアクティビジョン・ブリザードもかなりの成果が期待されている。このように、M&Aは一部成果が出ていないものもあるものの、全体としてはマイクロソフトの成長に大きく貢献していると考えられる。なお、最近はAI、クラウドなどのM&Aに比重を置いているようである。

サブスク化による運転資本の軽減

 マイクロソフトの最近の業績好調の背景の1つが、クラウドをベースにソフトウエアをサービスとして提供し、その利用料を受け取るSaaSサブスクリプションモデルの比重が高まっていることである。このモデルの場合は、基本的に毎月・毎年の定額、あるいは従量制で顧客からの収入が確保でき、さらにそれが継続されることが多いため、売上収益がかなり安定的に確保できることになる。さらに売上収益を数カ月、あるいは年間でまとめて事前にもらうことにすると、実際にサービスを提供して売上収益が上がる前に代金が入金することになるので、前受収益が計上される。その結果、運転資本の負担がかなり軽くなるのである。

 サブスクリプションモデルに関連する前受収益が集計され始めた2000年6月以降について、実質的な運転資本である「売上債権+棚卸資産−仕入債務−前受収益」計算してみると、図表3-13にあるように、継続してマイナスになっている。つまり、この時期は、売上収益が増加しても資金負担はなく、かえって資金がたまってくるような構造になっているのである。これは、成長する企業にとってはとても有利な構造であり、成長してもキャッシュフローの負担がないという意味で、マイクロソフトの成長のサポートの1つとなっていると考えられる。このように、SaaSサブスクリプションモデルは、売上収益の安定、成長期におけるキャッシュフローの負担軽減という両面で大きく貢献している。

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西山茂(著)/日経BP/2420円(税込み)