その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は西山茂さんの『 会計クイズで学ぶ財務分析&ファイナンス 決算書の読み方を「資本コスト時代」にアップデートする 』です。
【はじめに】
次の表は、ある世界的に有名な企業の財務数値や指標の推移である。この企業は1975年に設立され、2025年に創立50周年を迎えている。
ここで質問である。
[QⅠ]この企業はどのような事業を行っているだろうか? また、企業名はイメージできるだろうか?
このクイズは少し難しかったかもしれない。答えがある程度イメージできた方もいると思うが、見当もつかなかった方のほうが多いのではないだろうか。正解は、米国の「マイクロソフト」である。ここでさらに質問である。
[QⅡ]表に示した数値や指標から、マイクロソフトの事業構造の特徴、同社が優良企業として高く評価されている理由について説明できるだろうか?
[QⅢ]その説明をするためには、ほかにどのような数値や指標をチェックすべきだろうか?
この2つの質問に対する答えがある程度イメージできるのであれば、財務分析の知識があって、いろいろな企業の事業構造などにも詳しい方といえる(マイクロソフトの財務分析は第3章のコラム参照 ※この記事の末尾にあるリンクから同コラムをお読みいただけます)。
すべてのビジネスパーソンが高いレベルの財務分析力を持つ必要はないが、幹部を目指すビジネスパーソンはある程度のレベルの分析力を持つことが望ましい。その財務分析力をざっくりと身につけてもらうことが本書の目的である。
財務分析は、まずは貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、キャッシュフロー計算書(CF)といった財務諸表を読み解き、企業の収益性、効率性、安全性、成長性などを分析することがポイントになる。財務諸表は、企業の状況を、株主や投資家、また金融機関など外部の関係者に報告することを目的としてまとめられたものであり、上場公開企業に対しては、「共通のルール」に沿って数値を集計・表示することが義務付けられている。財務諸表の数値を使えば、さまざまな企業の経営状況を同じ基準で比較分析することができる。
財務分析の知識を求められる人の範囲は、以前に比べて大きく広がっている。また、求められる財務分析のレベルも、より高くなっている。
以前であれば、財務分析を必要とする人は限られていた。投資銀行や証券会社、銀行をはじめとする金融機関や監査法人のように企業の分析が「本業」となるような組織の人には必須の知識であったが、一般企業のビジネスパーソンの場合は、経理部などが財務諸表の数値を作り、それを読み解いてくれたため、財務諸表が読めない人でも管理職になれたし、役員にもなれた。
ところが、この10年ほどで著しい変化が起きた。そのきっかけは投資家からの圧力である。投資家が期待するリターンを上げられない企業に対しては経営改革の要求が突き付けられ、それを実現できない経営陣は「退場」を求められる時代になった。例えば、マイクロソフトの質問の表で示したROEは、日本では「10%程度」が目標とされることが多くなり、ROEが低いままだと株主総会で会長や社長の選任案件に反対される例も出てきた。
しかも、単純に「利益を前年より増やせばいい」という発想だけでは、必ずしも投資家の要求には応えられなくなっている。「利益を含めた重要な財務数値や指標のレベルが投資家や株主の求めている水準に届いているか」「重要な財務数値や指標が同じ業界やビジネスモデルが似ている企業と比較して遜色ない水準になっているか」「ある指標を上げようとすると、別の指標は下がってしまうといったトレードオフの関係も考慮した上で、バランスが取れているか」といった点を考える必要もあるからだ。さまざまな財務数値や指標を把握し、「何を重視するのか」を判断し、目標を定め、その実現に向けて具体策を見いださなければならなくなっている。
自社だけでなく、他社の分析をしなければならない機会も増えている。自社の業績を伸ばすためにはグループ会社の経営改善が必要になることもある。またM&Aなどを検討するときには、そのターゲット企業の分析も必要になる。幹部になれば、まさにそういう立場で分析を行い、検討し、意思決定をしなければならない。
このように、財務諸表の作成は経理部など専門家に任せればいいとしても、その数値を「読む」ための知識は、多くのビジネスパーソンにとって必須のものになっている。
また、財務諸表の数値を読むだけでなく、会計データを「使いこなす」ことも重要である。例えば、今後の打ち手を考えたり、担当者のインセンティブを考えたりするときなどは、数字を使った事業の状況や業績の見える化が重要になる。価格設定を検討したり、コスト構造を改善するための方策を考えたり、事業投資を検討する場合は、その結果を予想するシミュレーションが欠かせない。いろいろな仮定や条件設定の下で、売上高や利益の変化を予想していくのである。これらは管理会計と呼ばれる分野に関係する。
さらに、ファイナンスの知識も必須になってきている。ファイナンスは投資家が企業を評価するための考え方である。その知識が必要になるのは、例えばM&Aの対象企業の「価値」を評価するときなどである。以前なら、このような知識を必要としていたのは、M&Aのアドバイザーとなる投資銀行などのプロに限られていた。
しかし、前述のように上場公開企業に対する投資家からの圧力が強まり、投資家の考え方をベースにした要請、具体的にはROICの向上などに象徴される資本コストを意識した経営などに対応する必要性が出てきている。そのため、経営幹部や幹部候補のビジネスパーソンはその要請の意味を理解し、手を打たなければならなくなっている。さらに、ファイナンスの考え方は、事業の採算性を評価するシミュレーションの手法としても役立つ。
本書は、クイズを出題したり質問をしたりしながら、財務諸表の読み方、経営データの活用のしかた、ファイナンスの考え方、またそれらの実務の中での活用法を理解し、それらに慣れ、また使いこなせるようになってもらえるようにまとめている。それでは順を追って解説していこう。
※「はじめに」冒頭で紹介した、マイクロソフトの財務分析についての第3章のコラムは、下記からお読みいただけます。
【目次】





