その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は安藤優一郎さんの『 30の神社からよむ日本史(日経ビジネス人文庫) 』です。
【はじめに】
八百万(やおよろず)の神という言葉に象徴されるように、日本には無数の神が祀られているが、神そして神を祀る社(神社)は信仰の対象であっただけではない。日本の歴史をみていくと、神社が歴史を動かしたり、歴史を作り出す舞台となるのは日常茶飯事のことだった。
合戦に先立ち、武将が神社で戦勝を祈願する事例は数多くみられるが、神社自体が戦場となることもある。「応仁の乱」として知られる応仁・文明の乱は、京都の上御霊神社に籠った東軍の畠山政長に対し、西軍の畠山義就が攻撃を加えたことからはじまった大乱だ。
境内で血なまぐさい事件が起きることも少なくなかった。鶴岡八幡宮で鎌倉幕府の三代将軍源実朝が甥の公暁に殺害され、源氏の正統が絶えてしまった事件などはその象徴である。
神社が歴史の主役となることも珍しくない。奈良時代、時の称徳天皇の信任を得ていた僧道鏡は皇位を狙うが、宇佐八幡宮の御神託により、その野望は潰えた。神社が歴史を動かした典型的な事例だ。また、本能寺の変の前には明智光秀がその決断を愛宕神社に委ねている。籤を引いて吉が出たことで、主君の織田信長を討つ決意を固めたと伝えられる。
神社が歴史を動かしたのは何も政治面だけではない。経済面や文化面に大きな影響を与えることも度々である。神社への参詣が当の神社のみならず、鎮座する地域にも多大な経済効果を生み出す事例は多く、江戸時代に大流行したお伊勢参り(お蔭参り)などはその一例だった。
参詣者を対象として、文化の発信地になることもあった。神社というと宗教的な施設としてのイメージが強いが、江戸時代は歌舞伎の興業地でもあった。歌舞伎だけではなく、落語や講談などバラエティーに富む芸能興業を楽しめるエンタメの場所でもあったことはあまり知られていないだろう。そのぶん、お金も落ちるわけであり、地域経済の活性化に果たした役割は無視できない。
吉田松陰、乃木希典、東郷平八郎のように、神として神社に祀られることで、歴史上の人物として語り継がれていく事例に至っては枚挙にいとまがない。神社抜きに日本の歴史は語れないと言っても過言ではない。
本書は三〇の神社を舞台に歴史を読み解くことで、学校では教えられることがなかった日本史の意外な事実の数々を明らかにする。
本書執筆にあたっては日本経済新聞出版社ビジネス人文庫編集長桜井保幸氏、編集担当の野崎剛氏の御世話になりました。末尾ながら、深く感謝いたします。
二〇一八年六月
安藤優一郎
【目次】




