その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小和田哲男(監修)、造事務所(編著)の『 30の戦いからよむ日本史<上><下>(日経ビジネス人文庫) 』です。
【はじめに】
戦争の歴史は日本の歴史そのものである
少し前まで、研究者として戦争の歴史を研究対象とすることは勇気のいることでした。なぜなら、敗戦後しばらくの間、戦前の軍国主義の反省から、戦争の歴史そのものに対しタブー視する傾向が強かったからです。「合戦史を研究しています」などといえば、軍国主義者とのレッテルを貼られかねない状況でした。
それは、戦後、政治史よりも社会経済史のほうがもてはやされたこととも関係しています。それぞれの合戦を事件史としてひとつひとつ明らかにしていくのではなく、社会構造のあり方を究明することに研究の力点が置かれていたからです。
しかし、本書を読んでいただければおわかりいただけるように、戦争の歴史には、政治史だけでなく、社会経済史的な要素がかなりの比重で入り込んでいます。近年、戦争の歴史に研究者の関心が集まり、研究が進んできたことは当然のなりゆきといっていいかもしれません。戦後、長いことタブー視されてきた戦争の歴史にようやく市民権が与えられつつあるといった印象があります。
歴史を研究していると、「戦争が時代を変えた」あるいは「戦争が時代を動かした」と実感する場面がいくつかあります。決定的なターニングポイントになっている場合もありますし、はっきり目に見えるものでなくても、「その合戦があったから流れが変わったように思われる」ということは、いくつも指摘できます。
本書『30の戦いからよむ日本史』では、そうしたターニングポイントになったり、流れが変わるきっかけとなったりした戦いを30ピックアップしました。歴史上、数え切れないほどくり返されてきた合戦を30にしぼるというのは大変な作業でした。
戦国時代でいえば、「なぜ桶狭間の戦いが入らないの?」とか、近代史で、「日露戦争があって日清戦争がないのはどうして?」といった疑問、あるいは反論があるかもしれません。
実際に作業をしながら30にしぼるのはむずかしいと思ったことも事実です。ただ、30にしぼり込むことで、その合戦の歴史的意義がより鮮明に描き出せるのではないかと考えました。
なお、もう一点、本書では、できるだけ最新の研究成果を取り込むよう努力しました。これは本書の“売り”といっていいと思います。よくいわれるように、研究は「日進月歩」です。新しい史料も出てきていますし、これまでの通説がくつがえされる新しい歴史解釈も生まれています。そうした新しい研究成果を紹介することも、本書の使命のひとつと考えています。
といっても、やみくもに新しい解釈に飛びついているわけではありません。新解釈の中には独創的というのと紙一重ですが、独断的なものも少なくありません。将来の検証に耐え得ると判断したものを取り上げるべく、ふるいにかけています。
戦争の歴史を軸にした日本史の概説書として、多くの人に読んでもらえる本にしあがったと思います。本書を通じて、歴史の潮流を感じていただければ幸いです。
静岡大学名誉教授 小和田哲男(おわだてつお)
【目次】




