その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は土屋剛俊さんの 『お金以前』 です。
【はじめに】お金について自分で考えられる力をつけることは、けっこう難しい
私は、長年金融の仕事をしていることもあって、プライベートでもお金や投資に関する相談をよく受けてきました。
そこで思うのは「わかりやすく説明することは、けっこう難しい」ということです。人それぞれ収入が違うのはもちろん、何にお金を使うか、ひいてはどんな人生を送りたいのかという価値観はまったく違います。
結局はみんなが根本的にお金のことをわかって、自分で判断できるようになるのがベストなのですが、その「根本的に説明する」ことが、けっこう難しいのです。何でもそうだと思うのですが「そもそも」を説明することは、力量のいることです。
私が相談を受けた中には金融機関の営業マンに勧められるがままに、大切なお金を必ずしも適切でない先に投資している人もいました。証券会社や銀行、あるいはネットの情報などは、それぞれの立場で自分達の利益が最大化されるような商品を「売ろう」としています。その立場からすれば当然の行動なので、一方的には責められませんが、それにしてもお金の知識さえあれば防げることも多いでしょう。
金融の世界には一流の投資銀行から非合法の闇金にいたるまで幅広い世界が広がっています。そんな中では、「大切なお金を将来や家族のために少しでも増やしたい」という気持ちにつけこまれたり、あるいは、金融知識のない人につけこんで稼ぎたいと思う人たちの餌食にされることもあります。それは本当に避けなければなりません。
そういうときこそ信頼できるプロに相談したいのですが、プロの人達もまた、お客さんからもらう手数料で生活しています。場合によっては、本当にお客さんのためを思ったアドバイスはしたくてもできないということもよくあります。
このように、「お金に対してしがらみなく正しい情報を得る」ことはけっこう難しいのです。その上、やはり「根本的にお金のことを説明する」ということも難しいもので、専門家の私すらも、一体どこからどう説明したらいいのか悩むのですから、お金のことを知らない人は二重に情報の罠にはめられているようなものです。
私は長きにわたって金融の世界に身を置いてきました。つまり、お金のことばかり30年以上考えてきました。
海外でドル円の為替ディーラーの見習いから始めて、金利デリバティブなどを使った商品設計と販売、企業買収に関する与信の提供やその管理、調査部門でクレジットアナリストとして個社の分析や投資ストラテジーの作成、社債やローンのトレーディングなど、信用リスクに関わる仕事は一通り経験しました。業務内容を簡単にいうと、「この会社にお金を貸してもいいのか、この会社が倒産する可能性はどのくらいあるのか」をさまざまな状態から判断する仕事です。現在は独立して、クレジットに投資する運用会社の社長をしています。
また、実際に「お金」が時代を変化させてきた様子も目の前で見てきました。
バブルも、その崩壊も、日本の金融危機も、ITバブルも、リーマン・ショックも、東日本大震災後の混乱も、すべてその最前線にいました。
こうやって何十年もこの世界にいてはじめて、ようやく根本的な「そもそも」を少し説明できるようになったのではないかと思います。
お金についての情報は、ネットや本でさまざま出ています。
ただ、「これを買えばいい」「あれはやめた方がいい」という表面的な説明が多く、もし未来に変化があった場合、どうしたらいいかが分かるものは少ない印象です。
しかし、直近のこの円安傾向といい、お金の世界が動かないときはありません。
「こうするのがいいって聞いたから」ということでは、実は嵐の中で船に乗っているのに、自分は安全だと思って小さな財布を握りしめているようなものです。
きっと、みなさんの中には、「NISAで何を買うの?」とか「どこに投資したらいいの?」などといった細かい質問よりも、「そんなことは調べられるから、むしろ根本的なことを教えてほしい」と思っている人もいるはずです。
私は長い間、大手金融機関のサラリーマンをしてきましたので、会社の利益にならないことをあえて世に出すのは控えてきましたが、独立開業するに至り、ようやく自由に説明ができる立場になりました。しがらみのない意見をお読みいただければと思います。
この本のゴールは、みなさんのお金のリテラシーを上げることに尽きます。本のタイトルは『お金以前』です。つまり、投資や、住宅ローンをはじめとした何かのローン、老後の貯金など、お金に関する行動をする前に(もちろん途中でも!)ぜひ読んでほしいと思っています。
本書では、株式投資にはどういう態度で接すればいいかや、NISAは国が税金をとらない分だけ確実に有利とか、住宅ローンの根本のことや、FXは最も当てるのが難しい、などといったことももちろん書いていますが、「そもそも資本主義を理解しよう」や「金本位制とは何か」「日本経済の低迷を知るにはまずバブルを理解する」などといったことも含んでいます。
本編でも書きましたが、私は、「お金を増やす」ことでいちばん大切なのは「一般常識を増やす」ことだと思っています。「これって絶対変だな」と気づけるようになるのがいちばんです。
また、お金の世界を知ることは大変楽しいことでもあります。
アメリカや世界で起こったことが、私たちの生活とつながっているのです。本書を読んだあと、ニュースを見たら、きっとその裏側まで思いをはせることができるようになっているでしょう。お金のことを教養として知るのは楽しいと思います。
この本は、お金の楽しい知識を得て、いつの間にか自分の生活に関するお金の判断もできるようになるという一粒で二度おいしいお得な本を目指しています。
お金の「そもそも」をどう説明したらいいのか、と私がずっと考えてきた結果が本書です。
たとえば、第8章はお金の歴史の話です。「歴史なんて関係あるの?」などと思う方もいるかもしれません。しかし、お金のことを知るということは、とても広い知識と教養が必要なのです。
お金の初心者にとっては、この1冊でもかなりの知識と理解を得られると思いますが、この本をベースにして、もっともっとお金に興味を持っていただきたいと思います。皆様のお金に関するリテラシーが上がって、その結果皆様の生活や人生が少しでも豊かになるなら、それに勝る喜びはありません。
土屋剛俊
【目次】