その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は越川慎司さんの『 仕事の「ムダ」が必ずなくなる 超・時短術 』です。
【はじめに】
「働き方改革」なんてうまくいくはずがないと思っていませんか?
政府の掛け声を受けて、会社は「とにかく定時で帰れ」と言い出したけれど、一方で、これまでと同様、「もっと成果を上げろ」と言う。それができるなら、とっくにやっている…。現場のため息があちこちから漏れています。
実際、私たちが日本企業528社に調査して判明したのは、働き方改革の成功企業はたった12%しかないという実態でした。にもかかわらず、メディアに溢れるのは、きらびやかな成功事例ばかり。すると会社から「うちもこのやり方で行こう」と指示が来る。けれど、業種や事情の異なる手法を無理やり当てはめても、現場の混乱は深まるばかり…。
でも、改めて考えてみてください。これまでも様々な難題に直面しながら、それに対応してきたから今のあなたがある。そう、皆さんはこれまでも「改革」をしてきているのです。なのに不安に思ってしまうのは、以前よりも変化が激しくて対応方法が見えにくくなっているから。大切なのは、政府が突然持ち出してきた「働き方改革」というお題目に心惑わされるのではなく、しなやかに変化に合わせて行動を変えることです。
でも、うちの役員は頭が固くて現場の改革なんて無理…。
対応方法が見えないと、「できない理由」に目が行きがちです。なぜならそういった「コントロールできないこと」に不平不満を言っていれば、行動を回避できるから。何を回避しているのでしょう? それは、行動を変えること。なぜその行動を避けているのでしょう? それは、良いやり方が分からないから、失敗するのが怖いから。
では、どうしたらいいのか。私は世に溢れる正誤入り乱れた情報に踊らされることなく、多くの人が不安を乗り越えて行動に移すことができる方策を見つけ出したいと思いました。そして、それには「大規模な行動実験」が必要であると思い至りました。その実験を実行して振り返れば、その行動が成功なのか失敗なのか、そしてどの行動が多くの組織に適用でき、改革に資するのかが分かる。つまり、再現性が高く、生産性が高い「時短術」が見出せるはずだ、と。
しかし、このような実験にはリスクが伴います。とかく大きな組織ではメリットよりもデメリットに目を向けがちなので、先の見えない実験を自分たちでやろうだなんて思いません。そこで、私たちはまず、公開されていない働き方改革の失敗例と成功例を一つずつ集めることにしました。私の考えに賛同してくれる人たちを訪ね、各社の取り組みをヒアリングして回り、その協力の代わりに他社の取り組み事例を紹介しました。すると、26社が私の「行動実験構想」に賛同し、コンサルタントとして各社の働き方改革に参画し、行動実験をリードできることになったのです。その集大成が、この本です。
なぜ各社は私に権限を与えてくれたのか?
それは、おそらく私自身が新しい働き方の実験を続けているからです。週休3日制、週30時間労働、複業、リモートワーク…。机上の理屈を並べるのではなく、自ら新しい働き方にチャレンジし、実践していることが、「一緒にやってみよう」と決断してもらうのに役立ったと思います。
いまでこそ、こうした「自由な働き方」を実践する私ですが、そもそもは新卒で国内大手通信会社に入社して毎日ラジオ体操を第2まで行い、台風直撃の東京で4時間かけて出社するような「昭和流」の企業文化に染まっていました。その後、外資系企業に勤め、米国でも働き、年に地球を4周するほど世界各地で仕事をするようになり、内と外から日本を見つめるうちに、日本企業の「現場の疲弊具合」が心から心配になりました。そして、この疲れ切った日本で「週休3日」を浸透させながら、企業をこれまで以上に成長させていく。そんな支援をしたいと起業したのです。
独立して2年以上経ちますが、週休3日・週30時間労働は定着し、私のみならず世界各地にいる38人のメンバーがこのルールを守っています。売り上げと収入は毎月上がっています。休日にはロードバイクやトライアスロンのレースに参加できるようになり、毎日7時間よく眠れる健康な生活を送ることができています。
これまで2回、精神疾患で仕事ができなかった経験があります。
振り返れば、私の人生は挫折の連続でした。二卵性双生児の片割れとして生まれ、体が弱く、交通事故や度重なる病気で小学校は休みがち。高校受験に失敗し、大学受験は3回も失敗してギリギリで大学生になりました。仕事が楽しくて仕方のない時に突然、軽うつ病になり出社できないこともありました。そんな私ですら、行動を変えることができたのです。皆さんにも、できないはずがないのです。
週休2日でとにかく9時に出社していれば給与はもらえるし、定年退職したら退職金と年金で暮らせばいいという「かつての常識」を持つ人には、私の働き方は理解されないでしょう。でも、この常識はもう通用しませんよね? 企業の寿命がどんどん短くなり、日本人の寿命はどんどん長くなっています。この変化に合わせて生き方や働き方も変えていくのは当然だと思いませんか? とはいえ、人はなかなか変われないものです。何かしなきゃいけないとは思っていても、なかなか意識は変えられない…。
意識を変える前に行動を変える。
知名度がない弊社は自ら生産性を高めて実績を残さないと仕事がもらえない、仕事がないと生活できない…と自分を追い込みました。退路を絶って「究極の生産性」を実現する覚悟をしました。そこで得た学びと手法が伝われば、多くの企業を救えると信じて。取り組むうちにやがて顧客が顧客を呼び、実績が再注文を増やしていきました。案件が増えるとより複雑な課題も増えていき、高度な実験と学習を増やしていくことができました。
26社の従業員数16万人を巻き込んで行動実験をしているケースは他にないと自負しています。約1.9万時間を費やして生み出した「再現性のある時短術」をまとめたのが、この本です。そのベースには528社への「働き方改革」支援から得たデータと知見があります。個人でできることから、チームで取り組むことでより成果が見込めること、企業として旧弊を見直して取り組んでほしいことまで、「現場の時短」に役立つ情報をたっぷり盛り込みました。現場で苦労して生み出した泥臭い具体策を多くの皆さんに紹介すれば、疲れずに楽しみながら成果を生む仕事が実現できると信じています。ご自身の職場で活用できるものを選んで、ぜひ実行してみてください。
より大きな自由と、より多くの選択肢を得ましょう。
【目次】