その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は石田 淳さんの『 無くならないミスの無くし方 』です。
毎日のように職場で生じるミスや事故に、
あなたはこんな思いを抱いているでしょう。
「なぜ同じことを繰り返すんだ。
口を酸っぱくして注意しているのに」
「このままではいつか重大事故につながる。
第一、自分ならこんなことはやらない。
あいつには適性がないんじゃないか」
そして、今後すべきことを考えてみる。
・朝礼やミーティングでの注意喚起
・事故発生時の始末書の提出
・詳細なマニュアルの作成
・「安全意識を持つ」「お客様目線」などスローガンの掲示
それでもミスは一向に減る気配はない。
あなたはできることを精いっぱいやったのに。
なぜこうした方法ではダメなのか?
それは、「そもそも」のところで誤解があるからです。
実は、
「ミスや事故は意識の徹底では解決しない」ものです。
「えっ?」と思う方が多いでしょう。
相手の内面に働きかけて、
意識を変えるマネジメントが、
当たり前と思われてきたのですから。
しかし、ミスや事故を無くすには、
「人間の行動」にフォーカスし、
ミスや事故が起きない「仕組み」をつくるしかありません。
これは「いつ・誰が・どこでやっても」同じ効果が出る、
科学的メソッドです。
もちろん、部下マネジメントだけでなく、
「ミスを無くしたい」と思っている個人にも有効な手法です。
ミスや事故が無い職場は、
働く人のストレスが消え、
生産性が上がり、
コミュニケーションが活発となります。
さあ、そんな職場を実現する「仕組み」を
一緒につくっていきましょう。
【はじめに】
「発注したつもりが実際は発注しておらず、商品が欠品した」
「指さし確認をしたにもかかわらず、誤った状態のまま作業が進んでしまった」
「顧客データの入ったUSBメモリを紛失した」
ちょっとしたミスが大きな事故につながる、顧客からの信頼を失うことになる。経営者、管理職、リーダーであれば身に染みてご存じのことでしょう。
ましてや今はSNSで瞬時に情報が拡散する時代。1つのミスに起因する事故が、組織の根幹を揺るがすことになりかねません。
そして、経営層やリーダーはよくこうおっしゃるのです。
「うちの会社は優秀なやつが少ないから、ミスが多いんだ」
「ミスをしない『できる人材』が来てくれたら、うれしいんだけど」
ミスや事故が発生するしないは、一人ひとりの能力・性格・心構えの問題だという見方です。その見方に立って、
「ミスをしてはいけない。ミスをするとこんな大変なことになる」
「事故を起こさないためには、こんな心構えでいなければならない」
部下にこう諭(さと)します。
「安全第一」「顧客ファースト」といった“スローガン”を職場に掲示して注意を促す組織も多いでしょう。
しかし、「もっと注意するように」「安全意識を持とう」などと訴えたところで、人間は十人十色。言葉の解釈も人それぞれです。
また、リーダー層と現場で働くメンバーとの間にはジェネレーションギャップや価値観の相違があって当然です。
つまり、相手の心構えや姿勢、意識に訴えかける「内面にフォーカスするマネジメント」は、「ミス・事故を無くすマネジメント」ということはできないのです。
上司「ミスが多いのは注意が足りないからだ」
部下「いえ、真剣に注意するようにしています」
上司「でも、またミスをしたじゃないか」
部下「じゃあ、どうすればいいんですか」
上司「注意力を高めるんだ」
部下「いつもそうやっているつもりです」
上司「だから、注意が足りないんだ!」
部下「……」
まるでコントのような堂々巡りも、上司が部下の内面にフォーカスしているがためのものです。
まず皆さんにご理解いただきたいのは、ミスや事故を無くすには次の必要があるということです。
- 相手の意識ではなく、「行動そのもの」にフォーカスし、
- ミスや事故に結びつく行動(本書では「危険行動」と呼びます)を望ましい行動(「安全行動」)に変え、
- その安全行動を定着 → 習慣化させる仕組みをつくる
これが本書で紹介する「組織行動セーフティマネジメント=BBS(Behavior Based Safety)」の考え方です。
私は米国で行動分析学に基づいたマネジメント手法を学びました。
このマネジメント手法はボーイング、NASA、3M、ウォルマートなどの一流企業に導入され大きな成功を収めたもので、米国では600以上の企業、公的機関で採用されています。このメソッドを私は「行動科学マネジメント」として日本流にアレンジしました。現在、国内では規模の大小を問わず、1200社を超える企業で導入いただいています。
組織行動セーフティマネジメントは、この行動分析学をベースとする概念を基につくられたもので、「いつ・誰が・誰に対して・どこでやっても」同じような効果が出る、高い再現性が認められる科学的な危機管理(リスクマネジメント)の手法です。製造、運輸、物流、飲食など多岐にわたる業種で効果を発揮しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIのシステムが普及する世の中でも、業務の完全自動化が実現されない限り、それらを管理し、扱うのは「人」。マネジメントの問題が無くなることはありません。また、ビジネスの現場にはさまざまな個性の人材が存在します。この流れは加速化し、企業は、それら万人に通用するマネジメントを選択しなければなりません。
本書ではさまざまな「行動」について触れていますが、最終的な目標は「望ましい行動(安全行動)を定着 → 習慣化させる」ことにほかなりません。このために必要な仕組みのつくり方を、これから説明していきます。
もちろん、これは組織や部下のミスだけでなく、「自分のミスを無くしたい」と考える個人にも有効な手法です。
さまざまな個性の人材がいる。価値観は多様化している。理念教育もうまくいかない。
でも、大丈夫です。
人間の行動原理に則ったこの行動変容のノウハウを使うことで、あなたの組織はミスが無く、安全と安心に満ちたものになるに違いありません。
2021年11月
石田淳
【目次】